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「貴女が息子の相手で良かった。歓迎します。」
顔を上げた私にフィルドさんが声をかけてくれる。
メラさんと嬉しそうに笑っている。
「良い子だろう?あのクルビスを休ませられるなんて、それだけですごい。逃がすなよ?」
「ええ。もちろん。」
「それでいい。ハルカさんも何かあったら言うんだぞ?この子は言葉が足りん。」
メラさんとクルビスさんが笑って言い合う。
私にも水を向けられて慌ててしまったけど、メラさんは嬉しそうに笑っていた。
「あらあら。そのお話、詳しく聞きたいわ。今、お茶を淹れたところなのよ。さあ、座って。」
イシュリナさんの提案で皆でお茶をしながらおしゃべりすることになった。
なったんだけど…。
「あの。クルビスさん?」
「どうした?」
クルビスさんが不思議そうに聞いてくる。
いえいえ。わかっててやってますよね?
「あの。降ろしてもらえませんか?」
「なぜ?」
さらに不思議そうに聞かれる。
いやいやいや。普通、お茶の時に膝抱っこはしませんから。
ねえ?と周りを見たら、イシュリナさんはルシェリードさんの膝の上に、メラさんはフィルドさんの膝の上に座っていた。
あれ?私が唖然としていると、ルシェリードさんが教えてくれる。
「ハルカ殿はまだ慣れないかな?我が家ではこれが普通なのだ。」
「あらあら。そうね。ドラゴンの一族に馴染みの無い方は驚かれるわよね。大丈夫よ。最初は戸惑うけど、すぐに慣れるわ。」
普通?え。膝抱っこ普通?
クルビスさんを見上げると頷かれる。
(え、えええっ!?)
異世界に来てからもう何度目かわからないカルチャーショックだけど、これには一段と驚いた。
種族的な特徴でとかならわかるけど、膝抱っこって地球と意味が変わらないようだし、生活に必要でもないし。
他の種族では聞いたことないから、ドラゴンの一族だけってことになるんだけど、膝抱っこしたがるドラゴンって、イメージが…。
いや、ドラゴンの番大好きってラノベ設定好きでしたけどね。
まさか自分がそれに当てはまるなんて。
膝抱っこって、クルビスさんのご実家の習慣だったんだ。
そりゃ、婚約したら乗せようとするわ。
でも、そうか。各家庭独特の習慣なら仕方ない。
嫁に入る身だし、郷に入れば郷に従えだ。
受け入れましょう。恥ずかしいけど。
でも、やっぱり気になる。
私って身長ある分、結構重いんだけど。
「そうだったんですか…。えっと、重くないですか?」
「いや?むしろハルカは軽すぎる。少し心配だ。」
「それならいいんですけど…。」
逃げ道をふさがれた。
腰に添えられてた手が今やしっかり巻き付いている。
…まあ、いっか。
皆さんしてるし。他のひといないし。
私が諦めたのがわかったようにクルビスさんが目を細めた。
お家の中だけですからね?外ではしませんからね?




