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ルシェリードさんとクルビスさんの猛スピードな移動であっという間にお宅に着いた。
ヘロヘロになりながら降ろしてもらう。
運んでもらった意味なかったかも。
それでも何とか自分の足で立って見上げると、ルシェリードさんのお宅は普通の民家のサイズだった。
他の一族の長のお宅は、とても大きかったり沢山の建物が連なってたりしたから意外だ。
ドラゴンは一族で集まるときはルシェ山の里で行うらしいから、そのせいかもしれない。
「イシュリナっ。帰ったぞっ。」
「まあまあ。お帰りなさい。ようこそっ。イシュリナです。」
「お久しぶりです。おばあ様。こちらが伴侶のハルカです。」
「初めまして。里見遥加と申します。どうぞ遥加と呼んで下さい。」
ルシェリードさんが声をかけると、パタパタと奥からカメレオンの一族の女性が出て来た。
簡易の挨拶を交わしたこの方が、ルシェリードさんの奥さんでクルビスさんのおばあ様のイシュリナさんだ。
とげとげしいえらが張ったダイヤ型のお顔に、少し飛び出し気味で輪っかを重ねたような大きな目。
でも、瞳は小さくてキラキラしてこちらを見ている。
きっと見れる範囲は広いんだろうけど、野生のカメレオンのようにキョロキョロ動かしているわけではないから気にならない。
事前にカメレオンの一族に会ってて助かった。
初めて見た時は驚いて固まってしまったんだよね。
あまりにカメレオンっぽくて。
瞳は小さいけどピンクに光っていて、可愛い雰囲気の女性だと思う。
首と手首は広い範囲で金色で、目の飛び出た部分は瞳以外は金色だった。
そして手首から先は赤、残りは黒だ。
衣装は紅型のような色とりどりで染め分けられたココの布で、首元や手首の金色がまるでアクセサリーのように見えた。
3つともルシェリードさんと同じ色合いだけど、ここまで揃うのは珍しいだろう。
大抵一番面積の多い体色1色が同じか、多くて2色が同じ相手を探せれば運がいいと言われている。
それこそ運命的な出会いだったに違いない。
今も仲良く寄り添っているし、いいご夫婦だと思う。
「この子がネロちゃんね?まあまあかわいらしいこと。綺麗な黒ねえ。」
「クルビスとハルカの傍にいるからな。世界で1つだろう。」
ネロは構ってもらって大満足。
いつもより大人しくしてることにホッとした。
「さあ、ここにいてもなんだ。中に入ろう。」
「ええ。そうね。きちんとしたご挨拶もまだだし。」
ルシェリードさんの案内で中に入ると、バックドアの入口からそのままテーブルとお茶の用意のしてあるテーブルに行きついて、左端が台所になってるようだった。
奥の方に壁と木製のドアがあり、そちらが居住部分なのだろう。
普通の民家と言っても守備隊の直径くらいはありそうな半球だったから、奥もかなり広いだろう。
夫婦ふたりで暮らすには十分な広さだ。
「母さん達は?」
「まだよ。今日はお休みだって言ってたのに、呼び出されちゃって。隊長さんは大変ねえ。」
「忙しいくらいでちょうどいい。あいつは暇になるとろくなことをせん。」
「あの子の実験癖も困ったものねえ。長さまにすっかり影響されて。」
ため息をつきながらイシュリナさんがお茶をカップに注いでくれる。
この香ばしい香りはクッキー茶だ。
クルビスさんのお母様、メラさんのお気に入りのお茶。
以前ご馳走になったけど、香りはクッキーで、味はすっきりしていて飲みやすいお茶だった。
そのメラさんに実験癖があると知り、以前お会いした時の理知的な印象とのギャップに驚いた。
長さまといえばメルバさんのことだけど、影響されたって発明にだろうか。
メルバさんは発明家で、今お茶を注いだポットもメルバさんの作品だ。
注ぎ口のない真上にとってのついた丸型で、見た目よりかなりの容量が入る。
慣れると便利で、カップの上に乗せて丸型のポットのてっぺんを押すと、丁度いい量のお茶が出てきてくれる。
注ぎ口がないポットに最初は驚いたけど、古い電気ポットのように押すと出てくるので馴染むのは早かった。
ただ、便利なものを作るのと同じくらい実験にも失敗してるらしく、エルフの里のお家ではしょっちゅう異臭や爆発騒ぎがあるらしい。
あれをメラさんもやってると?それは大変だ。
「ただいま。遅れてすまない。」
「ただいま戻りました。お義父さん、お義母さん。」
私が驚きの事実に目を丸くしていると、ウワサをすれば何とやらでメラさん達が帰ってきた。
声のする方を見ると、夜のような濃い紺の髪をなびかせてメラさんが悠然と入って来る。
一緒に同じ紺色のドラゴンの男性を連れている。
このひとがクルビスさんのお父様だ。うう。噛まずにご挨拶できますように。




