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「ここが中央区の中心、つまり街の中心ルシェだ。外から見たらでっかい貝に見える。」
「大きな施設ですねえ。」
「ピギッ。」
転移で中央区に飛んできた私とクルビスさんとネロは、転移室から外に向かいながら建物の説明を受けていた。
ルシェとは二枚貝のことで、中央区にある街の中心機関のことを指す。
建物自体が巨大な二枚貝の形をしていることからそう名づけられたらしい。
今いるのは二枚貝がぱっくり口を開けた正面入り口。
沢山の人が長い階段を上り下りしている。
階段、長いなあ。100段はあるよね。
こっちのひとの身体能力じゃ問題ないんだろうけど、私にはきつい。
「ハルカ。」
う。わかってます。ご挨拶する前に力尽きるわけにはいかないもん。
お言葉に甘えて抱っこして運んでもらいます。
「ぶきいぃぃっ。」
何故かネロがクルビスさんの足をげしげし蹴っているけど、気にならないのかな。ネロ見て笑ってるし。
なおも蹴り続けるネロをめっと叱ってクルビスさんに近づこうとすると、クルビスさんは入口の奥を見つめていた。
「クルビスさん?」
「おじい様が来る。ここで待っていよう。」
ルシェリードさんがこっちにいたようだ。
ドラゴンの一族の長だもんね。いつもながらお忙しそうだ。
ざわっ
「おお。我が孫にその伴侶よ。ちょうど行きあったか。ネロも元気そうだな。」
ざわめきと共にルシェリードさん登場。
隠しきれない王者の貫録にいつもながら圧倒される。
周囲のひと達が大慌てで礼の姿勢を取るのを手で制して、悠然とこちらに歩み寄ってくる。
輝く金茶の鱗に顔や腕に入った赤と黒の唐草模様、2mは超す長身にバランスよく筋肉のついた立派な体躯。
身体から光り輝くオーラがあふれ出ている。
物語に出てくる英雄っていうのは、きっとルシェリードさんのようなひとのことだろう。
クルビスさんと並ぶと迫力がまたすごい。
そこかしこからため息が聞こえる。
ネロもすっかり大人しくなったし。
頭を撫でてもらってご機嫌だ。
クルビスさんのおばあ様がネロに会いたがってるので、今回は一緒に行くことになった。
きっといっぱい構ってもらえるだろう。
「来られるのがわかったので、待っていたんですよ。行き違いにならなくて良かったです。」
「ああ。急な仕事でな。残りはビーガンにおしつけてきた。」
晴れやかなルシェリードさんに対してクルビスさんは困った顔だ。
きっと、まだまだお仕事があったんだろう。
「またですか。」
「それが側近の仕事だ。」
またって…側近の方、苦労されてるだろうなあ。
心の中で手を合わせつつ、ルシェリードさんに続こうとしたらヒョイと持ち上げられた。
「ハルカ?」
ええ。まあ。わかってましたけど、流れでね?
今、すごく注目浴びてるし。
クルビスさんといるとただでさえ目立つのに、ルシェリードさんが来てから指さすひとまで出てきたし。
完全に見世物じゃないですか。
「ハルカ。」
「う。はい…。」
観念して大人しく抱き上げられると、周囲から歓声が上がる。
私たちのことじゃないよね?違うよね?そうだと言って。
「はははっ。睦まじいことよ。ネロ。そなたは大丈夫か?」
「ぶぎいっ。」
ネロが踏ん反り返って返事をした。大丈夫みたいだ。
それを証明するように、ルシェリードさんが私からネロのリードを受取ると、ネロが引っ張ってすごい勢いで降りて行ってしまった。
「俺たちも行くか。」
それを見たクルビスさんがすごい勢いで階段を降りはじめる。
ちょ。早い。早い。早い。目が回るうっ。




