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長いです。2000字越え。
フェラリーデさんと別れた後、クルビスさんに誘われてクルビスさんの部屋まで行くことになった。
もちろん、ドレスのままじゃいけないから、クルビスさんが食事のトレーを返しに行ってる間に着替えた。
…一応、お泊りの可能性も考えて明日の着替えを用意したけど、クルビスさん紳士だから使わないかも。
何もないってのも不安だけど、今は考えるのはよそう。
「お待たせ。さあ。」
戻ってきたクルビスさんが両手を広げる。
もう聞きません。10階までいくの大変だもん。
大人しくお姫さまだっこされます。
心なしかクルビスさんが上機嫌だ。突っ込みませんけどね。
クルビスさんの部屋は執務室が左、右奥が寝室となっている。
どちらも私の部屋とは比べものにならないくらい広い。
守備隊は多くの隊士さんが寝起きしてるから、基本は4人で1部屋となっていて狭い。
隊長さんや班長クラスの隊士さん達は、広さは違うもののひとり1部屋もらえるそうだ。
私の部屋は本来は病室だからか、ビジネスホテルのシングルくらいはあって結構快適だ。
クルビスさんの執務室は私の部屋の倍くらい広くて、寝室も同じくらい広かった。
部屋が扇形なのは建物が丸いからだろう。
バームクーヘンを3等分したのが10階の部屋の構造だそうだから。
「何もないんだが、ちょっと待っててくれ。」
「あ。お気遣いなく。」
寝室まで来たのは初めてだからちょっと緊張する。
大きなベッドと小さなテーブルとイスがあるだけの部屋だ。
シンプル過ぎる気もするけど、収納家具があるからこれで充分なのかもしれない。
イスに座ってそわそわしながら待ってると、クルビスさんはコップとビンを持って戻ってきた。
「あの。クルビスさんも着替えなくていいんですか?」
真っ青なジュースが注がれるのを見ながら、気になったことを聞いてみる。
クルビスさんは礼服のままだ。
隊士の服装はそのまま礼服になるそうだけど、クルビスさんはお披露目の時は艶のある黒地に細かい銀のラメの入った生地の隊服を着ていた。
何かの式典があるときは隊長はその服を着ることになっているそうだけど、替えがないらしいのでシワになるないか心配になる。
「ん?ああ。…見るか?」
「見ませんっ。」
またこのひとはバカなことを。
さっさと着替えるっ。
「ははっ。…そうだな。長くなるだろうし、着替えるか。ちょっと待っててくれ。」
そう言って、ベッドの放ってあった服を取ると壁をガラリと開けて入っていった。
…洗面所かな。私の部屋もそうなんだけど、隠す意味ってあるのかなあ。未だにわかんない。
ちょっとの言葉通り、クルビスさんはすぐに戻ってきた。
早すぎる。1分たってない。
「お待たせ。…さて、ハルカ?」
礼服をかけたクルビスさんが妙に迫力のある笑顔で私の名前を呼ぶ。
あれ?何だか私が押されてる?
でも、色っぽい話じゃなさそうだ。
クルビスさんからピリピリした気配を感じる。
「何でしょう?」
とりあえず、にっこり笑顔で返しておいた。
クルビスさんはため息をつく。よし勝った。勝負じゃないけど。
そしたら、あっという間に膝に乗せられていた。
なんて早業。文句を言う暇もなかった。
「キマイラ様といただろう?…その前はどこにいた?」
耳元でささやかれたけど、今はそんなこと気にしてられない。
バレてる。私が迷子になっただけじゃないってこと。
やっぱり様子がおかしかったのかな。
キマイラさんにもバレてたんだろうなあ。
さて、どう説明しよう。
「…迷ったのは本当です。トイレに行こうと思って奥にいったら、全然たどりつけなくて。そしたら、話し声が聞こえました。男性が3つ。姿は見てません。怒鳴っているしゃがれ声のひとと、宥めているひと、それと少し怯えているひとがもめていました。」
そこから憶えている限り聞いた通り話した。
脚色は加えずに会話をそのまま。こういうのは昔から得意だ。
全部聞いた後、クルビスさんは目を閉じて息を吐いた。
いろいろなものを耐えるみたいに。
「そうか…。魔法陣の件は俺からキィに伝えておく。今までもあったが、今回はヘマをしたな。長とキーファが揃っていたから、いじった奴はもう捕まえてある。ハルカの聞いた名前はキィに聞いたことがあるし、他にいた2つもキィは知ってるだろう。そっちからもたどればつながるはずだ。
黄色と言われてたのは、もしかしなくても黄の一族の長に送られた花のことだろう。そっちはグレゴリー殿と協力することになっている。一族はグレゴリー殿。こちらは花売りからあたっている。」
聞いたことは無駄じゃなかったみたいだ。
良かった。怖いこと聞いちゃってどうしようかと思ったんだよね。
誰かに害をあたえる話なんて、日本では聞くことはなかった。
小説やテレビの世界の話だったのに、まさか自分がかかわることになるなんて。
「話してくれてありがとう。…怖かっただろう?ハルカは魔素を抑え込むのが上手いから気づくのが遅れてしまった。すまない。」
ああ。そっか。
ずっと心配してくれてたんだ。
私を探しにきたのは、私の魔素が乱れてるのに気づいたから。
会場のすぐ近くまでこないと気づかなかったから、クルビスさんは自分を責めてるんだ。
そんなことないのに。
でも、嬉しいから甘えちゃおうか。




