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ちゅんちゅんっびちちちちっ
う…鳥の声?明るいけど…。
え?あれ?ここどこ?
「ん…。朝?」
「…起きたのか。おはようハルカ。」
頭の上からクルビスさんの声がする。
…頭の上?
恐る恐る見上げると、クルビスさんの顔がすぐ傍にあって驚いた。
えっ。近っ。って、え?毛布?
一気に覚醒した頭で周りを見渡すと、昨日の歓迎会の会場だった。
私はクルビスさんと一緒に毛布に包まれている。何故?
会場を見渡すと、同じような毛布の塊があちこちに…。死屍累々ですね。
え~と。そうだ。あの後、あー兄ちゃんの思い出話で盛り上がって、その流れでエルフの里のお酒が出て来たんだっけ。
お酒は梅酒みたいな果実酒だった。まさかお酒まで作ってるなんて思わなかったよ、あー兄ちゃん…。
それで、飲めや歌えやの宴会に移行して、皆で陽気に騒いでたんだよね。それで…。それで?
(き、記憶がない…。)
うわあ。私何したんだろう。
記憶が飛ぶなんて初めてだけど、変なことしてないよね?
「…お、おはようございます?あの、クルビスさん、この状況は…。」
青ざめながら聞くと、クルビスさんはふわりと微笑む。
うわっ。朝一からの不意打ちは卑怯ですよっ。
「…ハルカの温もりで目が覚めるのはいいな。これから一緒に寝ようか?」
は?何それ?ちょ、クルビスさん?もしかしなくても寝ぼけてる?
いや、顔っ。顔が近いですってばっ。離れてえええっ。
もぞもぞもぞ…ぎゅっ
何とか離れようとして…余計に抱きしめられてしまいました。
え。ホントに何で?いつもなら離れてくれるのに。
ちゅっ
おでこに冷たい感触があたる。え?
呆然としている間にちゅっちゅっと頬っぺたの両側にも口を押し当てられた。
(…キス?キスされてる?え?この状況で?)
頭が真っ白になりながらも自分に起こっている出来事をしっかり認識する。
ここで「きゃーっ。」とか可愛いことを言う年齢じゃないけど、いきなりはないでしょ。
…いや。婚約したならありなの?
婚約者同士って、おはようのちゅーをするんだっけ?クリビスさん頷いてるけど。
「ぶぎいいいぃぃっ。」
また混乱し始めたところに、目の覚める様な大きな鳴き声が響いた。
あれ?この鳴き声って…。
「ネロ?」「リード?」
私とクルビスさんの疑問の声が重なる。
開けっ放しの入口にいたのは、呆れた表情で辺りを見回しているフェラリーデさんと今にもこちらに飛びかかってきそうなネロだった。
「…まったく。どういうことですこれは。…長はともかく、長老方まで。」
私たちの疑問はスルーして、フェラリーデさんがため息をつく。
…思い出した。そういや、長老さんたちの思い付きで、途中から利き酒やってたんだっけ。
それで、何でか審判役の長老さん達や野次馬のエルフ達まで飲んでたんだよねえ。
そんな状況だったから、挑戦者も観戦者も次々につぶれていって、この有り様になったと。
崩れていくなあ。エルフのイメージが、高貴さが…。
フェラリーデさんは違うよね。綺麗で知的で高貴で、まさしくエルフって感じだ。
「ぶぎっ。うぎいっ」
「それより、リード。何でネロがここにいるんだ?」
フェラリーデさんにクルビスさんが質問する。
最近目に見えて大きくなっているネロは、今は幼児くらいの大きさになっている。
私のひざ下くらいに頭が来るかな。体色はもちろん真っ黒だ。
身体の大きさに合わせて食べる量がものすごく増えてるので、さすがに迷惑になるだろうと今回はお留守番をすることになっていた。
なのに、フェラリーデさんに連れられてエルフの里にやってきている。
何かあったのかな?またストライキ?
「実は…。ネロが誘拐されかけまして。」
フェラリーデさんの口から出たのは、予想外のことだった。
…誘拐?ネロを?




