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それからは私のお菓子の話になり、クレイさんはグレゴリーさん達を大層うらやましがっていた。
料理教室の話ももちろん知っていて、日程が決まり次第是非知らせて欲しいと言われて、決まったら公表しますと無難に返しておく。
「そういえば、ハルカ様は遠視の術をお使いになれるとか。」
クレイさんが目を輝かせて聞いてくる。
ちょっと気持ち悪いと思うくらい目に力があるひとだ。
それにしても、遠視って、遠くのものを望遠鏡のように見えるようにするやつだっけ。
魔素を調節して、目に集めることで出来るっていう。
それが、何で私が使うことになってるんだろう?
わからないのでクレイさんを見返すと、クレイさんも不思議そうな顔をした。
「おや。そうではありませんでしたかな?その能力で甥の病の元を見つけて下さったと聞きました。」
「クレイ。違うよ。ハルカ様は見る能力に長けておられると言ったんだ。」
グレゴリーさんが訂正をしてくれる。
成る程。キックリのヒナが遠視が得意な人に見えたっていう話と混じってるんだな。
私自身はまだまだコントロールが出来ないし、遠くの景色まで望遠鏡のように見ることは出来ない。
遠視が出来るってことにはならないんだよね。
「私は遠視は出来ません。まだまだ訓練が必要だと言われています。見えたのは生まれつきの能力のおかげだそうです。」
「そうなのですか。これは失礼をいたしました。…。」
ん?何か言ったのかな。
最後の方が聞こえなかったけど。
クレイさんの目を見るとさっきのような輝きは無くなっていた。
何なんだろう。ちょっと思い込みの激しいタイプみたいだ。
それからは私の衣装の話になって、ドレスに縫い付けた花飾りから私が昔作っていたレースを使ったリボン型のコサージュについての話になって、クレイさんもグレゴリーさんもかなり食いついていた。
コサージュみたいな装飾品は今までなかったらしく、商品化していいかと許可を求められて迫力に押されてどうぞと言ってしまった。
「お会い出来て良かったです。…では、またいずれ。」
何だか最後は押せ押せなだったなあ。
思い込みも強そうだし、かなりめんどくさいタイプなのは確かだ。
一番気になったのはあの目。
特に私の目の話をしてる時の赤くて暗くてぎらぎらとした目がとても嫌だった。
「申し訳ありません。弟は興味のあることに一直線な傾向がありまして。」
グレゴリーさんが申し訳なさそうに言う。
きっと誰に対してもああなんだろう。
弟のフォローかあ。
お兄さんは大変だ。
「熱心な方ですね。」
何とか当たり障りのない言葉をひねり出す。
グレゴリーさんは苦笑して、「ありがとうございます。」と言って下がっていった。
下がる直前にクルビスさんに何か言っていたように見えたけど、私には聞こえなかった。
これは終わった後でクルビスさんと話す必要がありそうだ。




