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「どうなさいました?…あちらに椅子を用意してございます。少し休憩なさいませんか?」
私の顔を見て、具合が悪いと思ってくれたみたいだ。
助かった。言い訳しなくていいし、とりあえず、休ませてもらおう。
「ありがとうございます。」
お礼を言って座ると青の一族の女性はすぐさま暖かい飲み物を持ってきてくれた。
ひと口飲むとホッとする。
「いい香り。」
「お気に召したようで良かった。リコリスの花のお茶です。心身を温めてくれます。ああ、魔素の流れが良くなってきましたね。」
私の顔を見て、ホッとしたように表情を和らげた。
普通に親切な方だったことにホッとする。
あんな話を聞いた後だから疑心暗鬼になってたみたいだ。
上手く誤魔化せたからかもしれないから、油断は出来ないけど。
「ここは我らに適するように作られておりますゆえ、他の一族の方々には冷えすぎるのです。ゆっくり温められましたら、気分も良くなられると思いますよ。」
「ありがとうございます。トイレをお借りしようとしたら迷ってしまって。」
「ああ。この家は迷路のようですからね。私もいまだに慣れません。」
ん?この言い方だとここで働いてる方なのかな?
それにしては着ているドレスが上等過ぎる気がする。
深緑の森の一族の正装みたいに、クリーム色の地色と同じ色の糸で細やかに花が刺繍されている。
同系色でまとめてあるからわかりにくいけど、とても手間のかかっているものだとわかる。
不思議そうな顔をしていたのか、私の顔を見て何かに気づいたように姿勢を正す。
どうしたんだろうと思っていると、礼の形を取って名乗ってくれた。
「お初にお目にかかります。青の一族の長キルビルが伴侶、キマイラと申します。ハルカ様のことは伴侶より聞き及んでおります。」
キルビルさんの奥さん。
話にしか聞いてなかったけど、このひとが。
長老さん達は「女傑」だの「才女」だの言ってたけど、たしかにきりりとした雰囲気でカッコイイひとだと思う。
花から取れる香料やオイルを売るお仕事をされていて、常にルシェモモの外に買付や新しい商品の開発に出ているキャリアウーマンだそうだ。
「初めまして。ハルカです。お会い出来て光栄です。」
「おや。伴侶には黙っているように言ってましたのに、ハルカ様はご存知だったようですね?」
「え。あ。深緑の森の一族の長老様たちにお聞きしてました。仕事の出来るカッコイイ女性だって。」
聞かれると思わなかったので、本当のことをポロリとこぼす。
私の答えを聞いたキマイラさんは目を丸く見開いた後、豪快に笑い出した。




