4
「よろしいですかな。これは皆さんお揃いで。」
「キルビル。」
「兄上。お久しい。リッカさんも無事に戻られたようで安心しました。」
「まあ、お久しぶりですわ。キルビル様。」
「積もる話はまた後程。クルビス様、ハルカ様。本日は良き日よりで何よりです。この度は我が家にて披露目の義を執り行えますこと光栄でございます。」
「キルビル様。本日はこのように素晴らしい披露目の場を用意して下さりありがとうございます。」
「ありがとうございます。」
クルビスさんに習う形で私も礼を取る。
キルビルさんはおひとりみたいだ。確か伴侶様がいたはずだけど…。
目線で軽く見渡してもそれらしきひとはいない。
おかしいな。伴侶持ちは挨拶の時に同行するものだって聞いたけど。
こないだの挨拶の時は、伴侶様が遠方に視察に出ていたからお会いできないって事前に聞いていた。
でも、さすがに今日はいるはずだ。どうしてこの場にいないんだろう?
「私の伴侶はまだ遅れておりまして。申し訳ありません。転移陣の調子が悪いようで。」
申し訳なさそうにキルビルさんが言う。
まだ到着されてないんだ。
というか、転移陣の調子が悪いって、大変なんじゃあ?
キィさんここにいていいのかな?
「だから、俺だけなんだよ。」
キィさんを見ると小さな声で教えてくれた。
成る程。他の術士部隊の方たちはそっちの対応に追われているんだ。
頑張って下さい。キーファさん。術士部隊の皆さん。
後で差し入れしますから。水ようかんも作りますから。
「聞いております。転移陣の不調では無理は出来ませんから。」
「ん?ちょっと抜けるわ。知らせが入ったっぽい。」
クルビスさんが返事をしていると、キィさんが話の輪を抜けて行った。
知らせって、きっと転移陣のことだよね?どうやってわかったんだろう?
手に何か持ってたみたいだけど、あれかな。
トランシーバーみたいなやつとか。
「兄上に何があったのでしょうか?」
「たぶん知らせが入ったんだと思います。メルバ様の発明の試作品を持ってましたから。」
「おお。メルバ様の。あの方の発明にはいつも驚かされます。」
キルビルさんの疑問にクルビスさんが答えると、アースさんが納得の表情で頷く。
メルバさんの発明好きは知れ渡っているようで、他の方も頷いていた。
「転移陣が治ったのでしょうか?」
「そうかもしれません。キィ隊長の率いる術士部隊は優秀ですから。」
オルファさんがキラキラした目で聞いてくる。
クルビスさんはにこやかに答えていたけど、そのセリフに周囲がまたざわつく。
何だか変な空気。
術士部隊が優秀って話なのに、眉を潜めてるひともいる。
私は周囲の反応にムッとしたけど、クルビスさんもリッカさんも気にしてないみたいだった。
キルビルさん達も聞こえなかったように「きっともうすぐですね。」なんて和やかに話してる。
気にしても仕方ないってことなのかな。
良くあることだからってこと?
こんな扱いを受けるの?
色だけで?
胸にもやもやしたものを抱えていると、クルビスさんに腰を引き寄せられた。
尻尾までからみついてくる。
顔を挙げると、目を細めて微笑まれた。
暖かい魔素が身体を包んでいくと、顔の強張りが取れていった。
(そうだ。今日は私たちのお披露目。笑っていなくちゃ。何があっても。)
笑顔で答えて、もう大丈夫だとクルビスさんの手に手を添える。
もう大丈夫。ありがとう。クルビスさん。




