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「んっ。」
「これは。」
「美味しい~。」
「水菓子とはまた違った食感ですな。」
「…美味しいです。」
オルファさんとグレゴリーさんは目を見開いて驚き、メルバさんとデルカさんが笑顔で感想を言う。
ラズベリーさんは…うっとりしてる。気に入ってくれたのかな?
「口当たりが良くて柔らかいので、お見舞いにいいかなと思ったんです。材料は水菓子と同じなんですよ?」
「同じ?」
「まあ。」
「これが。」
私の説明にオルファさん達が目を丸くする。
見た目に全然違うから、同じ材料で作られたなんて信じられないみたいだ。
お菓子って分量と手順が違うだけで、同じような材料で作れるものが多いんだよね。
だから、豆で作れるスイーツは出来るだけバリエーションを広めて、可能性はまだまだあるってことを知らせたいと思う。
そして、広まったところで新しい味覚に出会うための『スイーツ探し』をしたい!
そんな風に気軽にスイーツを楽しみたい。
お菓子のレシピがクルビスさんの役に立てるなんて思ってもいなかったし、役に立ててすごくうれしいけど、原点は変わらない。
『気軽にスイーツを楽しむ』。絶対に成し遂げてやる。
「お菓子は材料の似たものが多いんです。だから手順を工夫すれば、まだまだ新しい物が出来ると思います。これは水菓子のレシピの教室で伝えようと思ってるんですよ。」
「成る程ね~。きな粉だってそうだもんね~。僕、トフの材料で出来るなんて知らなかったし~。」
「思い込み、というやつじゃのう。物事の側面は1つだけではない。同じものでも違うものになることが出来るんじゃな。」
「思い込み…。そうですね。その通りかもしれません。」
グレゴリーさんの顔色がまた悪くなってる。
でもさっきよりはだいぶマシだ。すっきりした顔をしている。
「先程のユーリカの話もそうでした。言ってよいものか迷いました。まだ調査中で、一族の内輪の話だからと。ですが、それは我ら一族のみの考え方。今はこの街の民なのだと、話してみたら、自然とそう思えるようになりました。」
溜めていた重い物を吐き出すようにグレゴリーさんが言葉をこぼす。
オルファさんもラズベリーさんも隣で頷いている。
黄の一族はグレゴリーさんの代まで閉鎖的な環境で暮らしていた。
そこでの習慣が未だに彼らを縛り付けているんだろう。
「…ありがとう~。グレ君のおかげで助かる子がたくさんいるよ~。大丈夫~。」
グレゴリーさんは「グレ君」呼びにきょとんとしてたけど、「大丈夫」と聞いて顔をほころばせた。
まるで親に言われて安心した子供のような顔だ。
「皆が出来ることをすれば、良いように変わっていくもんだよ~。」
メルバさんの一言に明るい顔をした3人が頷いている。
きっと今、私は節目に立ち会ってる。
黄の一族と深緑の森の一族、ふたつの一族がまた手を取り合っていける道を選んだんだ。




