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「ユーリカの花ですか…頭に浮かびませんでしたな。」
「ホントだね~。これ危なかったかも~。」
デルカさんとメルバさんが重いため息をついている。
恐ろしい感染経路の発覚に素が出たようだ。
メルバさんの通常モードにオルファさんは驚いている。
まあ、さっきの診察と全然違うもんね。
グレゴリーさんは知ってたのか落ち着いていたけど。
「ああ。ごめんね~?びっくりした?僕、こっちが素だから~。長の会議でもこんな感じなんだよ~。さっきのはお医者さんモードなんだ~。」
「そうでしたか。そうぞ、楽になさって下さい。今、お茶を…と。」
「私が用意いたしましょう。」
そう言ってラズベリーさんが立ち上がる。
壁際にはお茶セットを乗せたワゴンがあった。そうだ。手土産。
「お手伝いします。お見舞いのお菓子を持ってきたんです。お皿もいりますよね?」
「そんな。お客様に手伝いなんて。」
「少し柔らかいお菓子なんです。乗せるのにコツがいるものですから。」
そう言って、少々強引に手伝うことにする。
座って待ってるだけなんて落ち着かない。
グレゴリーさんの顔色も悪いままだし。
キックリの名前を聞いてからだよね?何か心当たりでもあるのかな。
「ふふふ。リッキーそっくり~。」
「そうですな。良く似ておられる。」
「それは…。」
「君たちのひいお祖母さんだよ~。ラズベリーさんみたいに鮮やかな大地の色と綺麗な青の瞳をしていてね~。気遣い屋さんだったんだ~。」
「賢く、優しい子でしたな。薬学の勉強も熱心で。」
「式を挙げたときはうるうるしちゃったけどね~。」
「孫が嫁に行くようなものでしたしの。里で式を挙げたのですよ。皆で祝いました。」
メルバさん達から次々と思い出話が出てくる。
懐かしそうに楽しそうに話すふたりにオルファさんもグレゴリーさんも嬉しそうだ。
ラズベリーさんはちょっと照れてるみたい。
会ったことのないひいお祖母さんだけど、こんな風に嬉しそうに語ってもらえたら嬉しいよね。
「さあ、どうぞ。」
「これが水菓子ですか。名前の通りですね。それと、こちらは…?」
「初めて見るね~。」
「何でしょうな?」
お皿には水菓子とひと口大の紫の塊がスプーンに乗せた状態で置いてある。
瑞々しい艶めいた表面が食欲をそそるのは『水ようかん』だ。
餡にするには鍋でかき混ぜながら熱を通さないといけないんだけど、その過程でどうしても色が毒々しいものになっていた。
かき氷にそえる程度ならそのまま使えるけど、羊羹なんかの色の印象が全面に出るお菓子では毒々しくて使えなかった。
それでも何とかして作りたいと思っていたら、手伝ってくれてた調理師のベルティさんが「水で薄められたらいいんっすけどねえ。」とポツリとつぶやいた。
それを聞いて水ようかんを思い出したというわけ。
実家で水ようかんは良く作っていた。
材料はこしあん、水、寒天。シンプルでしょ?
寒天の代わりにゼリーを少な目の量で水に煮溶かしてみたら、ちょっと黄色くなったけど上手く溶けてくれた。
そこに餡子を適量放り込んで丁寧にかきまぜて、粗熱をとって型にはめて冷却。
出来たものを試食した所、大好評だった。
のど越しがいいから食べやすいのが良かったみたい。
崩れやすいし、ごつい冷却箱に入れないといけないので手土産には向かないけど、お見舞いにいいかなと思って今回持ってきてみた。
暗い顔をしていたグレゴリーさんも今は目の前のお菓子に興味深々だ。
大変なことになったけど、少しでもお菓子でリフレッシュしてくれたらいいな。




