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頂いた荷物はとりあえず私の部屋に持って行った。
布は後日デザイナーさんを呼んで、さっそく仕立ててもらうことにする。
「ふ。」
「どうしたんですか?」
クルビスさんが笑った気がして聞いてみる。
「いや。その、楽しいな。と思って。」
「楽しい…ですか?」
「ああ。今までは、各一族への挨拶と根回しで、目まぐるしく過ぎていっただろ?でも、こうしてお互いの色の布が手に入って、衣装が出来るのだと思うと、何だか俺も楽しくなってきた。」
ああ。クルビスさんは通常のお仕事に加えて、式の準備と挨拶で謀殺されてますもんね。
「適度に休憩さしてやってくれ。」ってシードさんに頼まれたくらい。
楽しむ余裕なんてなかっただろうな。
でも、衣装が出来るとなったら気分も盛り上がる。
せっかく一生に一度の式なんだもの。
一緒に楽しめたら嬉しいな。
「ふふ。楽しみですね。衣装。」
「ああ。」
部屋を出ると、そのままクルビスさんはお仕事に、私は明日の打ち合わせに戻る。
メルバさんとデルカさんがお茶をしながら待ってくれていた。
「お待たせしました。」
「いやいや。ちいとも待っとらんよ。」
「そうそう。ふたりの時間は大事にしないとね~。」
にこにこと言われると何だか気恥ずかしい。
誤魔化すように笑って席に着くと、明日の話になった。
「明日はね~。まず、うちの一族のお詫びを言って、それから診察させてもらうことにするよ~。いきなり当代の長に合わせてもらえるかわからないし~。」
「まあ、そうですな。ああ。ハルカちゃんが聞いた3つはな。見つかって里に帰された。とんだことをしでかしてくれたが、良いきっかけになりそうじゃ。」
「そうですか。でも、たぶん、すぐに会えると思いますよ?長のお付きの方が案内して下さるって言ってましたから。」
「ああ、そうなんだ~。それなら、名乗りからしてもいいよね~。」
「そうですな。お詫びで伺うのですし。こちらから名乗ってよろしいでしょう。」
私の答えを聞いて、メルバさんとデルカさんは嬉しそうだ。
グレゴリーさんが会えないって言ってたみたいに、メルバさんたちもオルファさんに会うのは難しいって思ってたのか。
溝は大きそうだなあ。
きっと、名乗りも勝手にするわけにはいかないんだろう。
最初のご挨拶をしたら、私は後ろに控えていよう。
あ。手土産は先に渡した方がいいかな?
「そうだね~。じゃあ、ハルカちゃんに先に挨拶してもらって~。その後名乗らせてもらおうかな~。」
「はい。わかりました。」
「うむうむ。上手くいきそうじゃ。赤の一族とも青の一族とも上手くいったようじゃし、ハルカちゃんには交渉の才があるの。」
「えっ。そんなこと…。」
デルカさんのお世辞に謙遜しようとする。
それをメルバさんが手を振って止めた。
「ホントだよ~。ハルカちゃん隠し事しないからね~。それが信頼されたんだよ~。」
「信頼、ですか?」
隠し事はしてないけど、会ったばかりで信頼までされるだろうか。
「それだけ魔素が強いとね~。普段から魔素を抑え込んでたりするんだよね~。そうすると、言ってることがホントかどうかわからないから~。」
そうか。こっちでは魔素でウソかどうか粗方わかるから。
抑え込んでるひとの言ってることは信用できないわけだ。
私の場合は出来ないだけなんだけど。
まあでも、それで信頼してもらえたなら嬉しいことだ。
「リビーちゃんにもずいぶん懐かれたようじゃしの。あの子は警戒心が強い子じゃのに。」
警戒…されたっけ?
最初からにこやかで話やすかったけど。
「ふふ。それもハルカちゃんの良い所だよ~。企むようなタイプは最低限しか口も聞いてもらえないしね~。」
「えっ。そうなんですか?」
「まあ、あの子も生い立ちが複雑じゃからの。…その辺りの話は誰かから聞いたことあるかの?」
私が首を振ると、デルカさんとメルバさんが顔を見合わせる。
聞いていいのかな?…それとも、皆知ってることなんだろうか?




