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まあまあ、クルビスさん落ち着いて。ね?
ほら、長老さん達もクルビスさんで遊ばないで下さい。
「おお。お熱いのう。」
「若いもんはいいのう。」
「見事な共鳴じゃなあ。これならお子もすぐじゃ。」
あれ?共鳴してる?
そうっとクルビスさんを見ると、嬉しそうに目を細めて私を見ていた。
(うわっ。恥ずかしい。皆見てるのに。こんな人前で共鳴するなんてっ。)
顔に熱が集まるのがわかる。きっと今は真っ赤だ。
恥ずかしくなってクルビスさんの肩に顔を押し付けた。
共鳴は相性の良いカップルがお互いの魔素を響かせ合って膨れ上がらせる現象だ。
…いちゃついても起こるので、周囲からの生温かい視線がすごく痛い。
「…おめでとうございます!」
「ご成婚おめでとうございます!素敵な番だわっ。」
「我らにも手伝えることがあったら言って下さい!」
私が羞恥に耐えていると、会場から次々と祝いの言葉が聞こえてきた。
心のこもったお祝いに胸がジーンとなる。ちょっと泣きそう。
それを察したクルビスさんが、私の頭をなでてくる。ううっ。ますます泣きそう。
そのままっていうわけにもいかないので、クルビスさんから離れてもう1度会場に向けて礼をした。
「うんうん~。皆こう言ってるし~。手伝えることあったら言ってね~?実際準備大変そうだし~?」
「そうですなあ。ルシェリードさまが後見と伺いましたが、ドラゴンの一族とトカゲの一族だけではちと難しいのでは?」
「ふむ。北の守備隊の隊長の婚礼式ともなれば、規模が北の地区全体になりますからな。」
「長老。クルビスさまの婚礼なら、街じゅうで祝いますよ。」
「そうじゃのう。それに、トカゲの一族は数が多いが、技術者も多い。実際に駆り出せる数はドラゴンの一族と変わらんじゃろう。」
「なら。里からいくらか手伝いに出しましょう。」
「あ。俺、今ヒマしてるから、いつでもいける。」
「私も。」
メルバさんが協力を申し出てくれて、それに長老さん達と他の皆さんものってくる。
ありがとうございます。ホントに急な話だから、人手はいくらあっても足りないと思う。
ただ困ったことに、そのまま婚礼の祝いの話から準備の手伝いに話が移行してしまって、私たちはすっかり忘れられてしまったんだよね。
ヒートアップしていく話し合いに皆さんの気合いの入れようがうかがえて、嬉しいやら困ったやらでクルビスさんと私は顔を見合わせて笑ってしまった。
途中、思い出したようにメルバさんが主賓である私たちをもてなすことを宣言すると、壁から折り畳み式の大きな長方形の机が引き出され、あっという間に料理で一杯になった。
相変わらず、こっちの家具は便利だなあ。無駄がないって感じだ。
でも、私の部屋の家具は収納式じゃなかったなあ。
何か決まり事でもあるのかな?
「さあさあ~。こっち、こっち~。ごめんね~。待たせちゃって~。さあ、うちの里の自慢の料理を召し上がれ~。」
メルバさんに案内されて、台のすぐ近くの席に私とクルビスさんが座り、クルビスさんの横にメルバさんと長老さんたち男性陣、私の隣にはアニスさんと女性陣が座る。
立食式かと思ったら、机の下に椅子がついていた。
パイプでつながっていて、手前に引き出して座るようになっている。
このイスには足がなかった。
横に伸びた2本のパイプだけで支えるみたいだ。でも不安定なところはない。しっかりした作りだ。
便利だなあ。いちいち机に椅子を並べなくていいもんね。
大人数での食事にとても向いてる。メルバさんが施設に近いって言った意味がわかるなあ。
「さあ。まずは、これをどうぞ。」
アニスさんが料理を取り分けてくれる。
今日はエルフたち深緑の森の一族の招待だから、一族の料理が出ることになっている。
食器はどれも白い磁器で出来ていて、船のような丸みのある変形したボールや丸く平たい皿、それになぜか段を付けて深くなっているお鉢のような食器もあった。
取り皿は平たい丸い皿だったけど、そこに乗せられた料理は私の良く知るものに似ていた。
平たい楕円形の形をして、薄く緑がかった表面に黒やピンクが散っている。
恐らく細かくした具材が中に入っているんだろう。
ソースなのか水色の液体がたっぷりかかっていた。
食欲をそそる色ではないけれど、見た目は完全にハンバーグだ。
「トフのハンバーグだよ~。」
当ってた。元ネタはあー兄ちゃんだな。
でも、トフってなんだろう?