東京の闇
1
昼。高層ビルが立ち並ぶ東京の一角。二十歳前後であろう一人の女性が辺りをウロウロしている。その時、彼女に一人の男性が近づいてくる。
「どうかしましたか?」
「あの、○○駅ってどこかご存知ですか?道に迷ってしまったみたいで」
「大丈夫ですよ。ちょうど、私もそちらに行くところですから、一緒についてきて下さい」
「すみません」
「もしかして、東京は初めてですか?」
「はい。田舎から彼氏と一緒に上京してきたばかりでして」
2
○○駅前。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ。あっそうだ、実は私モデルプロダクションの者でして、青木と申します」
青木は名刺を取り出して彼女に渡す。
「もしよろしければご連絡下さい。では」
3
夕方。東京郊外にあるアパートに作業服を着た男性が入って行く。
「ただいま、美保」
「お帰りなさい、勇くん。晩御飯できてるよ」
4
深夜。隣どうしで寝る美保と勇人。
「なあ、美保。こんな貧乏な暮らししかさせてやれなくてごめんな」
「……大丈夫だよ。私も頑張るから」
「ありがとう」
5
都内にあるビル。事務所の扉を開ける美保。部屋にはデスクがひとつ。青木が座っている。
「こんにちは」
「どうぞ、中にお入り下さい」
椅子に腰を掛ける美保。
「あっ、昨日○○駅の近くでお会いした方ですよね」
「はい、あの時はどうもありがとうございました」
青木と会話をする美保。しばらくして、青木が一息ついて言う。
「ところで、アダルトビデオってご存知ですよね?」
6
撮影所。美保の前を一人の女性が通る。
「もしかして、新人さん?」
「はい」
「私、理紗っていうの。よろしくね。最初は緊張するかも知れないけど、すぐに慣れるから頑張って」
「ありがとうございます」
その時、マネージャーの声がする。
「美保ちゃん、まだ~?」
「はい、今行きます」
マネージャーと撮影の段取りを確認する美保。
「中村マネージャー、今の理紗っていう人もしかして、よく雑誌に載ってる、あの人気女優の理紗さんですか?」
「そう、あの理紗だよ。今に君も彼女みたいになれるよ」
7
工場。労働が終わり、休憩時間に同僚たちと雑談をする勇人。同僚の一人が、読んでいた雑誌を置いてその場を離れる。何気なく雑誌を覗く勇人。
8
アパート。勇人が帰宅する。
「お帰りなさい」
「……」
「勇くん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねーよ。お前どういうことだよ」
「……どうって何が?」
「アダルトビデオのことに決まってんだろ」
「……」
「出てけ」
「えっ」
「今すぐここから出ていけ!」
9
撮影所。美保は中村マネージャーに怒られている。
「撮影を何回もドタキャンされちゃ困るんだよ!」
「……すみません」
そこに理紗がやってくる。
「まあまあ、中村さん、そんなに怒っちゃ、美保ちゃんがかわいそうでしょ」
「だけど……」
「それに彼女にも何か事情があるのかも知れないし。美保ちゃん、もしよかったら後で私の家に来ない?相談に乗ってあげるわ」
10
夜。都内にあるマンション。
「それなら、ここに泊まっていけばいいわ」
「ありがとうございます。ご迷惑おかけしてすみません」
「いいのよ、気にしないで。ところで、私も美保ちゃんに相談したいことがあるの」
「何ですか?」
「私ね……実は女の人しか愛せないの。それでね私、美保ちゃんのことが好きになっちゃったみたいなの」
「……」
「ごめんね、急に変な話しちゃって」
「……全然変じゃないです。この仕事している人ってみんな孤独なんだと思います。私も含めて」
11
テーブルに置かれた酒。ベッドで体を絡ませ合う美保と理紗。
12
撮影所。中村マネージャーとの打ち合わせ。
「美保ちゃん、最近元気になってきたね。もしかして、彼氏でもできたの?」
「彼氏……まあ、そんなところですかね」
美保は苦笑いする。
13
夜明け。マンションの屋上。フェンスの向こう側に立つ人影。
14
事務所で青木と話す美保。
「私、もうこの仕事辞めます」
「そうですか、分かりました。」
「あの、一つだけお聞きしたいことがあるんです」
「何ですか?」
「女優の理紗さんって、どうして亡くなられたんですか?」
「さぁ、知りませんね」
「飛び降り自殺だったんでしょう?」
「らしいですね」
15
美保がビルを出ようとした時、中村マネージャーがやって来る。
「美保ちゃん、辞めちゃうって本当かい?」
「はい」
「残念だな~。君なら人気女優になれると思ったんだけど」
「今までありがとうございました」
「あっ、そうそう。君、自殺した理紗って子と仲よかったよね?」
「はい」
「彼女の噂知ってる?」
「いいえ。噂って何ですか?」
「実はあの子、エイズだったらしいよ。まったく、とんでもないことしてくれたよ。まあ、君には関係のない話だけどね」
(完)