まさしデッド其の肆
幸せは、
楽しい思い出は、
留まることを知らずに。
一貫して、一貫した、
時間を駆けてゆく。
ミスタードーナツでの一悶着もあり、すっかり暗くなった商店街のアーケードを歩く私達。
「そういえば常盤さん」
「はい?」
なにやら思いついた、というか思い当たったように結月さんはこちらを向く。
「知ってます?明日からわたしの母校が文化祭やるんですよ」
「え、そうなんですか――確か、結月さんの母校って…」
ふと、私の頭に昼間のことがよぎる。
文化祭の準備で迷子、もとい外出していた二人。
彼女達の制服を指し示す学校は…
「丹木南?」
「はいー、もう楽しみで楽しみで!」
その目は輝いている。
キラッキラである。
果てしなく無邪気である。
「卒業したのは去年なんで、見知った後輩がまだいるのでなおさらです」
…ん?
「あれ、結月さん、今二十歳ですよね?」
二十歳ならば、大学2、3年が相場のはずだ。
「あ、言ってませんでしたっけ…わたし、身元不明児で、2年遅れで小学校に入ったんですよ」
「そうだったんですか、知らなかった…」
なるほど、と思う。
しかし同時に疑問を覚える。
「じゃあ、結月さん、保護者とか…どうなされたんですか?」
聞いてはみたものの、多分保育所の先生とか、そういう返答が来ると思っていた。
じゃあなんで聞いたんだと思われるかも知れないが、なんと、彼女の口からでた答えは全く違ったものだった。
勘違いをせず、聞いて正解だった。
…いや、間違いだったかもしれない。
勘違いしておいて、間違わなければ良かったかもしれない。
「わたしに保護者なんていませんよ?」
「…………え?」
「両親も親戚も兄弟も姉妹も、加えて保育所の先生もいない。―――いたのがいなくなったんじゃなくて、元から、誰もいませんよ、わたしには」
だってわたしは。
結月さんはそう言葉を繋げる。
「だってわたしは――――」
バケモノナンデスカラ。
…と、
言った。
言ったのだった。
「―――……は…?」
どういう意味なのだろうと思った。
どうかして、その意味を訊きたいと思った。
でも、できなかった。
そうならない可能性はちゃんとあった。
この先の事は決して必然ではなかったし、
単純に、たまたま起きた、つまり、偶然の出来事だ。
でも、
でも、果たして。
「それ」は、そこにいてしまった。
私と結月さんの目の前に、
そこにいて、ここにいて、
どこにもいかずに。
ただただ「血のような真紅の瞳」で、私達を睨んでいた。
そう、
結月さんと、同じ瞳で。
止まらない。
止まれない。
時間は、現在へと、ようやく辿り着く。