まさしデッド其の參
まさしパスト其の伍にて、一部改行が不十分な文面がありました。
読者の皆さんに読み心地の宜しくない文章を提供してしまいました事をこの場を借りて謝罪いたします。
「えへへ、にへへ」
「……」
直前の彼女の状態を知っている私や読者の皆さんは、今満面の笑みを浮かべながらエンゼルフレンチを頬張っている彼女に対して、冷ややかな目線を送っていることだろう。
ドーナツの中では、結月さんは、エンゼルフレンチが一番好きらしい。
確か、エンゼルショコラも同じくらい好きだと言っていたか。
因みに今私が食べているのはゴールデンチョコレートだ。
なんか、「ラノベでこれが好きだと言っていたキャラがいたから試しに頼んでみた」らしいが、ゴールデンチョコレートのゴールデンの部分の味が単調で飽きたらしく(そのラノベのキャラとやらに喰い殺されそうだな、きみ)、さっさと私に渡してきやがった。
押しつけないでくださいよ。
私が一番好きなのはポンデリングなんですから。
まあ、食いますけど。
せっかく頼んだのだから、残してはいけない。
粗末にはできない。
作ってくれた人、そして何より食材たちに失礼である。
合法的に殺生された命たち。
結月さんのギャグならまだしも、傲慢な私達のために摘み取られたその命を、無碍にしてはいけない。
有り難くいただきます。
「…ところで」
「はい?」
ゴールデンチョコレートを頬張りながら私は結月さんを見、尋ねる。
只今の結月さんは、両手にフレンチクルーラー、そして口にダブルチョコレートと言った状態だ。
唇と舌を器用に動かし、手を使わずにもしゃもしゃとダブルチョコレートを貪っている。
はっきり言って行儀が悪い。
三刀流って、君はワンピースのロロノアゾロか。
鬼斬りでもすんのか。
「結月さんって、なんでそんなに食い意地凄いんですか」
「ふも?」
首を傾げながらダブルチョコレートを(両手を使わずに)咀嚼、嚥下した彼女は改めて、
「わたしの食い意地の凄さがどうかしたんですか?」
と言う。
てか、自覚しているんだ…
「や、自覚しているなら構わないんですがね、私は違いますが、そういうの見てドン引きする人とかって意外と居るから自重したほうがいいですよ、って事です。」
「はいー、大丈夫ですよ、高校の時これやって三人位友達いなくなっちゃった経歴ありますんで」
「自覚ありまくりじゃないですかッ!!?」
逆に何故止めない!
三人って、それって多分結構な痛手だぞ!!?
「まーまー、常盤さん以外の人と食べる時には普通にしてま――――」
言いかけて、結月さんの顔が青ざめる。
原因は多分、喋りながら口に放り込んだ二つのフレンチクルーラーだろう。
証拠に、テーブルの隅に置いてあるボールペンとアンケート用紙(サービスの品質向上のためらしい、この間加納がふざけて「ドーナツバーガーを作って欲しい」と書いてたが、得体が知れない要求をするもんじゃないと叱ってやった)をひっつかみ、「のどつまった」と走り書きをする結月さん。
「いわんこっちゃない…」
私は席を立ち、背中をさするために結月さんの背後に回る。
「ん、むぐ」
手のひらを突き出し、「や、大丈夫」みたいなジェスチャーを結月さんはしているが、全然大丈夫そうじゃない。
私はジェスチャーを無視し、彼女の背中をさする。
「大丈夫ですかー」
「………」
背中をさすられ、急に大人しくなる結月さん。
様子が変わったのが気になって顔を覗き込むと、その顔が真っ赤になっていた。
熱でもあるのだろうか?
「わ、微少ながら熱出してるじゃないですか…、風邪気味なら食べるものと量は気をつけなきゃ」
背中をさすりながら彼女の額に手を当てて言う。
そしてしばらくして、難を逃れた結月さんは、
「………朴念仁」
と、また不機嫌そうに言ったのだった。
なんでだろう、
どうしてだろう、
彼女の全貌を知り得ずとも、
その思いに、
その想いに、
気付けるだけの、
他人の気持ちに気づけるだけの力が、技量があれば。
私は、
この先の物語を、語らずに済んだはずなのに。