まさしデッド其の壹
新キャラ登場にあわせて、サブタイトルも変わりました。
パストからデッドへ。
物語の時間軸は、徐々に、しかし確実に現在へと追いついて行きます。
加納と交換した勤務時間がやってきたので、シフトなので、私は駅員としての責務を全うする。
――ちなみに、綿原さんと綾乃さんのその後だが、「流石にあたしは道わかりますから」と綾乃さんが言っていたのでその言葉を信じ、その場で見送った。
で、勤務中の話は記述しない。
特にこれといった事は起きなかったし。
よって、勤務終了、再び暇人である。
時刻は夕方、逢魔が時だ。
空は赤く染まっている。
近所の公園のベンチでその夕空を眺める。
…綺麗だ。
私だって、そういう感情は持っている。
ある程度の情緒はある。
…しかし綺麗だな。
太陽が完全に落ちてしまうまで、いっそもうこのまま夕空鑑賞し続けようかとも思った。が、
それは叶わなかった。
「常盤さんっ」
何故なら、背後から声をかけられたからである。
ついでに、両手で、声の主の両手で、私の両目が覆い隠されたからでもある。
「………」
仮に目の前に鏡があったとしても、覆い隠されているため確認することは叶わないが、多分、今私は随分と冷めた目をしていることだろう。
しら〜、である。
「だーれだ?」
「…………………………」
しら〜…
仕方ないので、付き合っておく。
「ウーンダレダロウワカンナイヤキンジョノヤマダサンカナア?」
棒読み。
「ぶっぶぅ、違いまーす」
「……」
この一言で付き合ってやる気が吹き飛んだ。
両目を覆っている両手首をへし折ってやろうかと思ったが、善意が働いて踏みとどまる。
悪意が働いて、だろうか?
「楽しそうで何よりですよ、結月さん」
結月――結月世黄泉さん、彼女が、私の両目を覆っていた本人だ。
年齢、二十歳。
職業、大学生。
趣味、ボクシング(の観賞)。
好物、ドーナツ
…これぐらいが私の知る彼女だ。
これぐらいしか、
これぐらいしか知らなかったからこそ、この物語は。
この物語は、語られるだけの価値を有していられるのだ。
それこそ私の最大の後悔点でありながらも、この先に始まることとなる数多の物語の史実でもあるのだ。
史実。
それはつまり、宿命であり運命である。
そう、
私が死ぬのもまた―――…、
運命なのだ。
結月世黄泉、彼女はどうやら月に関連する食べ物も好きらしい。
結月なだけにね。
例えば…月見大福とか、月見バーガーとか。
あぁ、そうそう、バナナも好物だったなあ、彼女。
確かに三日月みたいだしね。