まさしデッド其の伍
いきなりの非現実。
果たして私の頭は、ついていけているのだろうか?
「――…ッ!?」
私達の前に立ちふさがっていたそれは、雨合羽のフードで素性を隠していた。
夜中、つまり暗闇の中なのも手伝って、鋭く光るその赤い瞳のみが、そいつに関して理解し得る情報だった。
しかし人間というのはあまりにも考え方が都合のよすぎるそれである。
たまたまそういう瞳で、たまたまそういう格好をしていて、たまたまそういう立ち振る舞いをしていた「人間」なのだろうと、
すなわち私も、そう思ってしまっていた。
いやまあ、ほぼ正解なのだが。
たまたまそういう瞳で、たまたまそういう格好をしていて、たまたまそういう立ち振る舞いをしていたのだ。
しかし、
人間でなく、化け物だった。
何故にそう思い当たれたかというと。
ドンッッ!、と、
そいつが、超人的な跳躍をしたのだ。
大体、地面から信号機の高さの約二倍近くくらいまで。
そしてキチンと、私達を視界からはずさぬまま、である。
高く高く飛び上がったということは、袖の中や裾の中がある程度露出してしまうわけで、
「!!!」
その、露出した部分を確認した瞬間―――私は隣の女性の名を呼ぶ。
「結月さん!」
「ぇ―――ちょ…ッ!?」
ガゴン!、と、
そいつは結月さんのいる場所に墜落する―――直前に私は結月さんを押し倒す。
いや、
他意はない。
「…………」
ともかく、初撃を回避した私達を、そいつは言葉もなく睨み付ける。
鋭い目で、
赤く、鋭い目で。
一貫して、睨み付ける。
しかし、もしかしたら鋭いのは腕の方かもしれなかった――というのも、
そいつのその腕が、普通の腕じゃなかった。
普通の腕というか、普通に人一人貫けそうな、一貫できそうな、剣だったのだ。
持っているのではない、腕そのものが剣になっているのだ。
「……」
剣なだけに物凄い剣幕が、ということはない―――意外にも、だ。
そいつは何というか、睨んではいるものの、そこに個人の感情――信念、怨念と言ったもの――がなく、言うならば概念で睨んでいる、という感じだった。
例えば、親にしろと言われたからなんとなく勉強している子供のように。
だからなのだろうか、
「……チッ」
初撃を避けられただけで、そいつは逃げていってしまった。
撤退して、か?
ともあれ、だ。
私はとうとう、化け物と呼称されうる存在と出会って、
出遭ってしまったのだった。
いずれ私自身が至ることになる領域の実態を。
識らずとも、
知ってしまったのだった。
間違いだらけの正しさが、そろそろ終点に辿り着く。
求めてもいない終点に。
というわけで次回、
最終回である。




