6.魔法の栄える場所。
この星の住人たちは魔法を使うための力をもっていた。そう、この世界には魔法があるのだ。
その魔法の多くは生活に密着したものが占め、人々は火を起こし、闇を照らし、水を浄化した。
彼ら硝子の民の使う魔法、彼らはそれを「魔法」と言うが、僕から見れば魔法というよりは「機能」といった方がしっくりした。彼らの外見が無機質だからだろうか?
たとえば火の魔法は、ライター程度の小さなものから、まるで火炎放射機が内蔵されているのではないかと思うほどの勢いのあるものまで、口からはいたり指先にともしたりするのだ。光の魔法に至っては瞳から光線を出す者さえいる。
中には手を触れずに物を運ぶ、対象物だけを好きな形に一瞬で切り刻むといった、まるで魔法のようなものもあったが、おおむね機械でも再現可能な「機能」のように思えたのだ。
彼らはこのような生まれつき持った機能を使い生活していた。大人から子供まで、得意不得意はあれど全ての人が当たり前のように魔法を使っているのだ。
生活に密着した魔法は大変に便利で大抵のことはできてしまう。だから能力が競合し、メンテナンスが煩雑であった器械の文明はとうの昔に滅んでしまったというのだ。
今では失われた謎の古代技術として、言い伝えの中で器械たちの活躍は語られているだけであった。
魔法のある世界に来て僕が思うのは、自分も何か魔法が使えないかという、好奇心であった。機械文明の中に育ち、機械好きではあったが、魔法という不思議な能力にまったく興味がないわけではない。人並みにあこがれはもっている。
さすがに目から光線や口から火は出せないだろうが、この世界に満ちる魔力というものに働きかけて、何か魔法を起こしてみたいと思ったのだ。
僕は、本当に初歩的な魔法を言われた通りにやってみた。
プログラムの世界で言うならば、画面に「Hello World」と表示することに当たるだろうか。その通りに指示すれば、誰でも同じ結果が得られる基礎中の基礎を実行してみたのだ。
しかし、結果だけを言えば僕は魔法が使えなかった。僕は何度も繰り返し魔法の発現を指示したが、何も起きなかったのだ。
「おかしいな」
「どこも間違っていないのにネ。……そうだ、確かこの辺に」
シャコウは残骸をあさり、一つの部品を取り出した。
「ケィスキー。この器械を直してヨ。これ、魔力の解析回路なんダヨ。コレ、壊れているから動かないけれど、直せばアタシに装着できる。そうしたら、アタシ、魔力の量や流れを測る魔法が使えるようになるんダヨ」
「魔法? それは機能じゃなくて?」
計測するのは魔法というよりも、それこそ機能ではなかろうかと疑問をぶつける。
「確かに……アタシにとっては魔法は機能のひとつとも言えるネ。アタシは器械だから、ヒトと違って魔法を使うには専用の部品が必要。魔法回路がなければ魔法は使えないし、回路さえあればアタシらはどんな魔法でも使えるヨ」
「……そういうものなんだ」
それは魔法ではなく、やっぱり機能ではなかろうかと僕は思う。
「まぁとにかく、直せるかどうかはわからないけれど……貸して」
異世界の器械とはいえ、どこか地球の機械と似てはいる。しかし少し勝手が異なるので、たった一つだけの部品では失敗を恐れて、いろいろいじくれない。失敗してもいいように、予備が欲しい。たくさん欲しい。
「壊れててもいいから、いくつか欲しいな」
「じゃあ、もっと探してみるネ」
「お願いするね」
もしかしたら、汚れを落とすだけで、使えるものがあるかもしれないしね。
「修復終わり! シャコウ、今度は動くと思う」
失敗すること数十回。
この世界の回路の癖が、少しわかってきたような気がした。単純な部品ならば、直せる自信がついた。
この廃墟から様々な部品を集めてきて修理して、シャコウを改良していくのも楽しいかもしれない。この魔力解析はその第一歩なのだ。
「装着完了。ケィスキー、解析開始するヨ」
「お願いします」
僕はシャコウの前に立つ。シャコウの赤い瞳がくるくると点滅し、内蔵されている硝子の歯車がからからと鳴る。
「今度のはうまく動いてるヨ。さすが!」
復活したシャコウの解析能力で僕の魔力の強さ解析してもらった結果――
僕には魔力がなかった。
魔法のない世界に住んでいる地球人に魔力を扱うための器官があるはずはない。進化の過程上、使わないものは失われていくし、必要のないものはそもそも発現しない。僕は魔力を作り出すことも、取り込むことも、貯めることもできないのである。
魔法が使えないとわかった時には落胆したが、僕には機械がある。
この廃墟にあるいろいろな文明の名残を修理して、少しでも快適に暮らすと、心に決めた。
ちなみに、シャコウという人格が生まれつき使える機能の一つに「意思疎通」というのがあり、そのおかげで僕はこの世界の人と交流ができていたらしいです、まる。