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器械を、器械をください!―硝子の夢、玻璃の愛―  作者: まいまい@”
伍「機械仕掛けの世界で想定された仮想」
25/26

25.我が宇宙へ

 今、僕たちは村の広場にいる。

 シャコウも、ムィオンも、ファードも、子供たちも、村人たちが皆集まっている。そして、神の復活に沸き賑わっていた。


「本当にありがとう。こんなに快適に動くようになったのはいつぶりだろうか……」

 神の声がシャコウを通じて響いた。


 ケアヒルの野望による脅威が去り、僕はゆっくりと断片化の解消(デフラグ)し、神を最高のパフォーマンスで活動できるように最適化したのだ。


 僕は硝子の民たちに神のメンテナンスの方法を伝え、後世に伝えられるようにマニュアルを作成した。これで僕がこの世界で成すべきことは全てした。


「ところで……継輔は地球に戻るの?」

 神と接続したことで、すっかり片言が取れたシャコウが言う。

 実は地球へ戻るための転送瓶を見つけたのだ。神がその壺の在りかを教えてくれたのだ。何を隠そう、転送瓶を地球に送り込んだのは神だったのだ。


 神は知的生命体がいる全宇宙に、わざと壊れた転送瓶を送り込みし、その壺を直せたものをこの世界に呼ぶという仕掛けを施した。

 己を直せる者を、この世界へ呼ぶために。

 僕の部屋につながる転送瓶、それは手元にある。これを起動すれば、僕は元の時間軸の地球へ帰ることができる。


 しかし転送は一度きり、これを使えば再びこの硝子の世界へ戻ってくるのは難しい。

 宇宙を越える転送は非常に負荷がかかる。神は全宇宙の修復を最優先で行うため、宇宙間転送に処理を割くことができなくなるらしい。


「これを使えば、もうみんなと会えなくなるんだね」

「ここに残りたいというのであれば……僕らは歓迎するよ。教会で子供たちに器械を教える先生になるなんてどう? ここの暮らしも悪くないと思うよ」

 素に戻ったシャコウは、冗談交じりに言う。

「ははは。誘いはうれしいけれど。僕は僕の宇宙(ちきゅう)に帰ります」

 たとえ器械仕掛けの神によって創造された想定された場所(シミュレーション)のひとつだったとしても、そこが僕の生きる場所、僕の地球(こきょう)なのだ。


「そう、やっぱり帰るんだね……」

 シャコウは、どこかさびしそうに瞳の光を揺らしていた。

「でも、いつの日かここに戻ってきてみせるよ」

 参考になる器械は手元にあるのだ。つまるところ一番の問題となるのは、神の力というエネルギーを何で代用するかである。


 神の力を借りずとも、宇宙を超えることができる機械の一つや二つ作り出してみせる。僕はそんな決意を胸に、にっと笑いかけた。



「短い間だったけれども、楽しかったよ。またね」

「うん、またね」

 シャコウが別れの言葉を言うと、それを合図に村の皆が音を奏でる。

 風鈴に似た、心が洗われるような透明な彼らの(おと)。それが硝子の民たちの別れの挨拶(あいさつ)なのだろう。彼ららしい素敵な挨拶ではないか。

 僕もその音に合わせ口笛を吹く。それぞれに、様々な音を響かせて――出会えたことの喜びを、別れの惜しみを、再開の約束を、言葉にならない感謝と共に。

 姿も形も違えど心が通じ合った、そんな気がした。



 ――そして、別れの時。


 僕はみんなに見送られながら、地球へ戻るための器械を起動した。

 器械は正常に作動し、僕のすべてが闇に包まれた。

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