25.我が宇宙へ
今、僕たちは村の広場にいる。
シャコウも、ムィオンも、ファードも、子供たちも、村人たちが皆集まっている。そして、神の復活に沸き賑わっていた。
「本当にありがとう。こんなに快適に動くようになったのはいつぶりだろうか……」
神の声がシャコウを通じて響いた。
ケアヒルの野望による脅威が去り、僕はゆっくりと断片化の解消し、神を最高のパフォーマンスで活動できるように最適化したのだ。
僕は硝子の民たちに神のメンテナンスの方法を伝え、後世に伝えられるようにマニュアルを作成した。これで僕がこの世界で成すべきことは全てした。
「ところで……継輔は地球に戻るの?」
神と接続したことで、すっかり片言が取れたシャコウが言う。
実は地球へ戻るための転送瓶を見つけたのだ。神がその壺の在りかを教えてくれたのだ。何を隠そう、転送瓶を地球に送り込んだのは神だったのだ。
神は知的生命体がいる全宇宙に、わざと壊れた転送瓶を送り込みし、その壺を直せたものをこの世界に呼ぶという仕掛けを施した。
己を直せる者を、この世界へ呼ぶために。
僕の部屋につながる転送瓶、それは手元にある。これを起動すれば、僕は元の時間軸の地球へ帰ることができる。
しかし転送は一度きり、これを使えば再びこの硝子の世界へ戻ってくるのは難しい。
宇宙を越える転送は非常に負荷がかかる。神は全宇宙の修復を最優先で行うため、宇宙間転送に処理を割くことができなくなるらしい。
「これを使えば、もうみんなと会えなくなるんだね」
「ここに残りたいというのであれば……僕らは歓迎するよ。教会で子供たちに器械を教える先生になるなんてどう? ここの暮らしも悪くないと思うよ」
素に戻ったシャコウは、冗談交じりに言う。
「ははは。誘いはうれしいけれど。僕は僕の宇宙に帰ります」
たとえ器械仕掛けの神によって創造された想定された場所のひとつだったとしても、そこが僕の生きる場所、僕の地球なのだ。
「そう、やっぱり帰るんだね……」
シャコウは、どこかさびしそうに瞳の光を揺らしていた。
「でも、いつの日かここに戻ってきてみせるよ」
参考になる器械は手元にあるのだ。つまるところ一番の問題となるのは、神の力というエネルギーを何で代用するかである。
神の力を借りずとも、宇宙を超えることができる機械の一つや二つ作り出してみせる。僕はそんな決意を胸に、にっと笑いかけた。
「短い間だったけれども、楽しかったよ。またね」
「うん、またね」
シャコウが別れの言葉を言うと、それを合図に村の皆が音を奏でる。
風鈴に似た、心が洗われるような透明な彼らの声。それが硝子の民たちの別れの挨拶なのだろう。彼ららしい素敵な挨拶ではないか。
僕もその音に合わせ口笛を吹く。それぞれに、様々な音を響かせて――出会えたことの喜びを、別れの惜しみを、再開の約束を、言葉にならない感謝と共に。
姿も形も違えど心が通じ合った、そんな気がした。
――そして、別れの時。
僕はみんなに見送られながら、地球へ戻るための器械を起動した。
器械は正常に作動し、僕のすべてが闇に包まれた。