24.世界は祈り、光に満ちる。
ケアヒルの操作する白き翼ある壺の模様はますます強く輝く。放たれた光の筋は、青い空に弧を描くように軌跡を残し、その閃光と雷光がムィオンに襲いかかる。
「ケアヒル、あなたになら。あなたに割られるのであれば本望です……」
ムィオンは最期の祈りを、最愛の教え子であるケアヒルの幸いのために祷りを奉げた――
ケアヒルの発射した光線がムィオンの白き翼ある壺に当たろうとしたその時! 透明な障壁が現れ、すべての攻撃を阻んだ。
「ふぅ、危ない危ない」
僕の横にいたはずのシャコウが、ムィオンの機体の傍にいた。あの防御障壁を展開しムィオンの乗る機体を守ったのはシャコウだったようだ。
「こ、これは一体?」
何事が起きたのかとムィオンは困惑の色を隠せない。
「ムィオンさん、聞こえますか?」
僕は神の復活とともに復旧した通信機能でムィオンに話し掛ける。
「こ、この声はケィスキーさま?」
「今、神を起動しました。ムィオンさんを守ったのは……何と言うか神の力によるものです」
僕はムィオンに状況を説明した。
「神は……復活したのですね」
「はい。ムィオンさんの頑張りのおかげです」
彼がいなかったら、僕は神を復活させることなどできなかっただろう。
「ケアヒルさまは?」
先ほどまで戦闘を繰り広げていたにもかかわらず、ムィオンは彼の安否を確認する。
「今、シャコウが対応しています。大丈夫、きっと穏便に片をつけてくれますよ」
僕らはシャコウを見守る他ないのだ。
ムィオンの機体を守ったシャコウは、次の瞬間には滞空しているケアヒルの機体へ向かっていた。気がついた時には、シャコウは白き翼ある壺の、翼と体の付け根にしがみついている場面だった。
「わたしを放しなさい!」
急上昇、急降下を繰り返し降り落とそうと試みるも、しかし、シャコウは離れない。
「強制着陸!」
シャコウがそう叫び、身体から激しい紫電を発生させる。噴きあがる雷光は白き翼ある壺の全身に広がっていき、機体のすべてを包み込む。機体はその強大な体を鳴動させながら光に染まっていく。
「や、やめろぉぉおお……」
機体からいくつもの閃光があふれ出し、エネルギーのすべてを放出すると、白き翼ある壺はゆっくりと地上に舞い降り始めた。
ケアヒルが地上へ向かうと、ムィオンもそれに続いて降り立った。ムィオンは機体から降りるととケアヒルに駆け寄った。
「ケアヒルさま……」
「ケアヒルはもう何もできないよ」
シャコウはそう言った。
「そうですか……」
ムィオンは、白き翼ある壺となっているケアヒルに目をやる。
「わたくしは神なのだ、神になったはずなのだ……」
翼を失い堕ちた鳥は、壊れた器械のように言葉を繰り返すだけ。
「私は、あなたがどんな姿になろうとも、傍にいますよ」
ムィオンは白き翼ある壺の硝子質な肌を、そうっとなでた。彼らは涙が流せない。しかし、ガラスの瞳が濡れたように輝いて見えるは、なぜであろう?
「……これで、終わったんだよね」
僕はシャコウに尋ねた。
「うん」
シャコウはそう答えた。
こうして神は復活し、世界は救われた。
そして、再び宇宙は歴史を刻みだす。生と死の理をもって。