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器械を、器械をください!―硝子の夢、玻璃の愛―  作者: まいまい@”
伍「機械仕掛けの世界で想定された仮想」
21/26

21.休止した神の記憶(ログ)を!

 ムィオンの告白が終わり、あたりは沈黙に包まれた。


「急いで神殿へ行きましょう。……まだ間に合います。神を目覚めさせましょう」

 口を開いたのはムィオンだ。

 そうだ、その通りだ。今は、感傷にふけっている暇は無いのだ。

 こうしている間にも宇宙は消滅している。あの器械をどうにかしない限り、危機は存在したままだ。早く神を復活させなくては!


「しかし、神を目覚めさせようとすれば、さすがにケアヒルも気がつくでしょう」

「確かに、でも、どうすれば……」


 ケアヒルに邪魔されれば、元も子もない。悩む僕にムィオンは一つの案を提示した。


「……ケィスキーさまにお願いがあるのですが、もう一台白き翼ある壺(ヴィマナ)を直していただけませんか? それで私が彼を足止めします」

 ムィオンは命をかけ、ケアヒルに戦いを挑むらしい。


「でも……」

 しかし、ムィオンの意思は揺るぎなく、瞳に強い光を持っていた。僕は、その覚悟を無駄にしないためにも承諾した。


 2台目の白き翼ある壺の修理は、すぐに終わるだろう。というのも前回、1台目を直す時に、もう一台分直せる程度の予備部品を集めておいたのだ。何か部品にトラブルが起きた時にすぐに充填できるようにという備えのためだったが、今となってはこの行動が功をそうした。

 充電の終わったシャコウと共に3人がかりで組み立て、僕らはすぐさま神殿へ向かった。


 数時間前のことなのに、この神殿が懐かしい。

「これが神の器械なのですね……そして……」

 そして、ムィオンは器械の前に横たわるケアヒルの硝子の体をやさしくなぞる。抜けがらとなり、単なる物体と化したケアヒルの透明な体を。


「……ムィオンさん。本当は神をどうやって復活させる(よぶ)んですか?」

 いとおしげにケアヒルだった器をなでているムィオンの邪魔をするのはためらったのだが、今は感傷に浸っている暇はないのだ。僕は本題に入る。騙される事がなければ、滞りなく行っていたであろう神の復活を行うために。

 前回はだまされてしまったが、今度は『神』を呼び出さなくては。


「まずは神を起動する『ファイル』というものを探さなくてはならないのですが……ケィスキーさま、この器械の前で『ゲンゴケンサク』と、唱えてください。そう唱えれば、発せられた言葉を元にいくつか候補が出るはずです。その候補の中から、自分の言語で書かれた文字をつかんでください」


 ムィオンは己が知っている知識を僕に惜しみなく話してくれた。


「ゲンゴケンサク? ……あぁ、言語検索するのか」

 僕はムィオンの言う通りにする。

 全宇宙中の文字が登録されているのだろうか、すごい速さで文字列が流れたのち、膨大な選択肢の中から絞り込まれた言語の候補が画面が現れた。


「地球、日本語、うん、あっている。……年代を選べってか。西暦2000年代前半っと」

 音声認識万歳。候補の言語をいくつか提示してくれた。

 今まで奇妙すぎて読めなかった文字が見覚えのある形へと変換される。


「文字さえ読めれば、こっちのもの」

 機械全般が好きな僕は、もちろんパソコンもいじってきた。プログラム用の言語は違えど、見覚えのある形式と文字の羅列によって、それが何を意味しているのか推測するには充分であった。


 神のファイルは検索で見つけたが、エラーが出て起動できなかった。原因を調べるため僕は「神」を解析する。

 長い間、メンテナンスされることなく放置されていた『機械仕掛けの神』は、混沌と情報に溢れかえっていた。


「うわ、なんだ。このぐちゃぐちゃな状態は」

 これがパソコンなら、動作が遅くなったり、不具合が起きて強制終了したり、不安定な作動をしまうだろう。


「何か問題が?」

「いえ、ちょっと驚いただけで。神の起動には、少しかかりそうです」

 動作はもっさりしている。これはあまりにも不安定すぎるのだ。起動できなかったのも頷ける。


「そうですか……後はお願いしますね。私は白き翼ある壺(ヴィマナ)で待機しています。ケアヒルさまがこの地に戻ってきたら……迎え撃ちます」


「はい。僕もなるべく早くなんとかします」

 僕は背中のムィオンを見送った。彼が去った後、僕は小さくつぶやく。


「ハードだけではなく、ソフトもメンテする羽目になるとは。断片化の解消(デフラグ)はしたいけれど、時間かかるしなぁ。それなら、不要なファイル(ごみ)掃除で容量増やして、あれをああして、それから……。今はそれでごまかすしかないな。確かに、これは機械に詳しくないと攻略できないね」


 神を直す(いやす)には機械に詳しい者が必要と言う理由が、分かったような気がした。機械を忘れた硝子の民には僕が何を行っているのかも、これを行う意味も理解不能だろう。

 僕は神の器械のデータを眺める。僕もまたケアヒルと同じように、いや、それ以上の技術でこの器械を操り、宇宙を思うままでできるだろう。ケアヒルが使っている神の技術はほんの一部に過ぎないのだ。

 今の段階でも、この器械から命令を送りケアヒルの行動は制限することはできる。しかし、動作がこうも不安定では無力化するにはいたらないだろう。それにそれをすると、間違いなくケアヒルは異常察してここへ戻ってきてしまう。今はまだ早い。神を起動させるための時間的な余裕が欲しいのだ。

 僕は一目でいらないとわかる情報(データ)を捨てていく。


「ん? これは?」

 検索していく中で、僕は気になるものを見つけた。

 今はデータの消去中で他の作業を色々すると器械に負担をかけ、動作が遅くなってしまう。負担をかけない程度の作業は限られおり、今の段階では何もできないも同然の状態だ。それなら、ただ待つのならば、これの中身を見ていた方が、いろいろわかるかもしれないとそう思い、僕はそのファイルを開いた。



 ――神の記憶(ログ)

 それには、そう名前がつけられていた。

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