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器械を、器械をください!―硝子の夢、玻璃の愛―  作者: まいまい@”
肆「閉ざされた壷の中に世界がある」
19/26

19.衝撃的な衝撃。

 ――数日後。

 そう、僕はやり遂げたのだ。


 僕は神が宿るという器械を直すことができた。例によって最初にやったのは掃除であるが、僕は器械を修理したのだ。


「復活の時は、来た! さぁ、早く神を!」

 ケアヒルは両の手を上げ、天に祈りをささげている。彼の過剰装飾気味な造形のせいだろうか、今にも邪神を召還しそうな、そういう黒魔術的な感じの儀式をする魔王のようにも見えてくる。

 僕はご満悦な様子のケアヒルに苦笑いしながらも、言われるままに起動した。


 光の板が何もない中空に現れ、僕には読むことができない文字の羅列が流れていく。


「一気に近未来なディスプレイになったなぁ」

 僕は率直にそう思う。

「あぁ、封印が解けました。ありがとうございます。あとは、わたくしにおまかせください」

 ケアヒルは祭壇へ向かう。彼が何やらささやき操作をすると、祭壇からエネルギーの光が放たれた。


 光の線が三角の模様を描がき始め、器械から光があふれだした。祭壇が描く魔法陣の中心で、ぼんやり煌きを持ち器械にエネルギーを供給している。

 とうとう神が復活するのだ! 



「くくくく、とうとう『神の器械』が動き出した……これで私は神になれる」

 突然、ケアヒルが笑い出した。光り輝く陣の中心でケアヒルは邪悪な笑みを浮かべていた。 


「えっ、何を言って……」

 突然の豹変に僕は思考がついていかなかった。

「わたくしたち神官には、昔から伝わる秘密があってね。それさえ知っていれば、わたくしでも宇宙を思うがままに繰れるのだよ」

 ケアヒルは、不気味な光を瞳にたたえて笑っている。


「今ここに新たな神の誕生するのです! くくく、まずは手始めに古き世界を清浄し、新たな創造を始めよう。ケィスキー、貴兄の宇宙は褒美に破壊せず、記録(データ)として永遠に保管してやろう。再びこの『神の器械』の修理が必要になった時に、新たな器械の知識を継ぐ者ヤントラ・サルヴァスパを召喚するためにな! くくく、目覚めよ、そして我が願いを叶えよ!」

 ケアヒルがそう叫ぶと、神殿の天井が大きく開いた。空には白き翼ある壺(ヴィマナ)の姿が見えた。それは僕が修理した白き翼ある壺だ。ケアヒルの声に答えて動き出したらしい。


 白き翼ある壺が光に包まれると、今まで青かった空が急激に暗くなる。大地は揺れ、何本もの稲光が空を駆ける。描かれた三角の陣が輝きだし、中央部分から光の柱が立ち上る。

 そして、ケアヒルの体が崩れ落ちた。まるで魂が抜け落ちたかのようにそれは地面にごとりと落ちたのだ。


「え?」

 突然のことに僕は思考が止まる。


 それと同時だった。白き翼ある壺の、枝分かれした光の翼が天を侵食するかのように広がり、藍色だった奇妙な模様は緋色に煌かせ、熱を帯びたように赤く、白く輝いているのがとても印象的だった。


 そして、声が響く。

「わたくしは世界を統べる神。この小さな神の箱から開放され、わたくしは自由になるのだ。わたくしは世界から解放されるのだ」

 ケアヒルの声で、それは言葉を語る。

「破壊する。世界を、宇宙を、すべてを。そして、わたくしの宇宙を新たに築くのだ。わたくしは今、全宇宙を支配する神なのだ」

 ケアヒルを取り込んだ白き翼ある壺が動き出した。激しい閃光と衝撃を伴い再び天へと舞い上がる。その衝撃は立っているのもやっとなほどで、舞い上がる礫が肌に当たり微妙に痛かった。


 白き翼ある壺は稲妻をまといながら空高くにある。その稲妻に反応し、ますます黒く輝きだした闇の穴(たいよう)。暗黒の深淵のようなその穴の先は、他の宇宙へ繋がっているのだろう。星の輝きとは異なる趣の光の粒子が、ちらりと見える。

 ケアヒルは己の野望を叶えるため、空の穴へ吸い込まれていった。


 白き翼ある壺の姿が見えなくなると天に開いた闇は閉じ、そして、太陽は何事もなかったかのように、美しい金環を取り戻した。



 ――静寂。



 一体何が起きているんだ。

 ケアヒルが新たな神にならんとたくらんで。

 古い宇宙は破壊すると言って。


 僕は、ただ呆然と立っていた。


 空は何事も無かったかのように穏やかで青い。

 白き翼ある壺を飲み込んだ穴はすでになく、空にあるのは黒に輝く金環の太陽のみ。今もなお空にぽっかり輝いている。

 ここは静かである。

 ここは静寂で満たされている。

 その静けさが逆に不気味である。まるで先ほどまでの出来事が夢のような感じがする。

 しかし動かないケアヒルを見、先ほどの出来事は事実だったのだと実感する。


「シャコウは?」

 僕は我にかえり、シャコウの姿を探した。シャコウは横たわっていた。瞳は弱々しく光り消えいりそうだ。


「シャコウ、大丈夫? シャコウ!」

「ケィスキー、アタシ、お腹すいた。もう、あんまり動けない」

 どうやら先ほどの衝撃により吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて割れそうになり、魔法を使って身を守ったらしい。突然のことだったので、早急に防御壁を作りあげた結果、ほぼ全ての力を使ってしまったようだ。

 よかった単なる電池切れだ。


 しかし、ここにシャコウを充電できるものはない。

「ここにいても、ぼくには何もできない」

 神の器械は動いていたが、映し出される文字が読めない僕には操作は何もできない。下手なことをしては、取り返しの付かないことが起こってしまうだろう。僕には情報が足りなさすぎた。


 僕の脳裏にふと、ムィオンの姿がよぎる。彼はケアヒルと仲がよかった。おそらく、何かを知っているだろう。なんとしても彼を問い詰めて対策を練りたい。

 しかし、とにかく何をするにも地上へ戻らなくては行けない。しかし、この場所へ僕らを運んできた飛行器械は無い。ここは天高くある神の神殿、地上からは程遠い。


「どうしよう」

 なす術もなく僕が困っているとシャコウが口を開いた。

神の器械(マザー)が……動き出したカラ……アタシの中の情報……更新されたヨ。地上へは……この奥……地上に……つながる道……。多分、昔のように……転送の、瓶……動かせ……ル」

 神の器械が動き出したことによって、シャコウに最新の情報がもたらされるようになり、今現在、使える施設がわかるようになったらしい。僕はシャコウを抱え、転送瓶のある部屋へ向かう。


 その部屋の中心には、巨大な硝子の筒があった。複数の人を地上まで一度に転送できるらしい。


「転送瓶の中……入って、青い、部分を……押し……」

 瓶の中にはマイクスタンドのような物が立っていた。そのスタンドの頂点部分にある青い石を押すと動くものらしい。

 僕は青い部分を押した。

「わわわ……」

 それと同時に、吸い込まれるように下へ動いていく感覚に襲われる。そして僕らは地上へとあっという間に降りたった。終点は見覚えのある廃墟。中央神殿だ。白き翼ある壺の部品を集めるときに何度も行き来した道だ、僕の工房(じたく)までの道は分かる。

 僕はシャコウを工房へ連れ帰り、急いで充電した。シャコウを充電している間に、僕はひとまずムィオンの元へ向かうことにした。



「シャコウ、待っていてね。……安心して休んでいて」

 僕がそう言うと、シャコウがうなずいたように見えた。




 あぁ、空は静かで変わらぬ青を映している。世界は、宇宙は、どうなってしまうのだろうか。



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