16.光を灯せ、さすれば道は開く。
白き翼ある壺の修理には半月ほどを要したが、僕はそれを修理することができた。
僕は修理した白き翼ある壺を起動する。
翼に生えた何本もの管から蒸気のようなものが勢いよく噴出した。僕は「ヴィマナ、発進!」と、叫びたくなったが、そこは我慢した。
操作方法についてはシャコウが何とか覚えていたので、さっそく僕とシャコウとケアヒルの三人はこれに乗って、神の器械がある場所へ向かった。定員の問題もあり、ムィオンは留守番である。
神の機械がある島へは自動操縦で行くことができた。
白き翼ある壺が降り立った、空に浮かぶちいさな島。その中央にひときわ目立つ白い巨大な建築物があった。それが神が眠るという器械がある神殿である。
「扉、開かないよ?」
神殿の扉は固く閉ざされていた。
僕は石の扉に触れてみるものの、隙間なくぴっちり敷き詰まっているその扉は人の力では開きそうにない。
というよりも、どうやって開くのか見当さえつかなかった。その神殿の扉というのは、予想外の形をしていた。奇怪というのか奇抜であった。螺旋が描かれた円盤が扉だったのだ。模様か単なる飾りか、神殿に施された芸術の類だと最初は思ってしまったほどなのだ。
「あ……そういえば、ここに入るには火を捧げなくちゃいけないんダ。あと、しばらく使っていないから水も補充しなきゃいけないカモ」
そういう情報は、もう少し早めに思い出して欲しいと僕は思った。一瞬、扉の機構が壊れ、開けられないのかと思ってしまった。
最悪、扉を壊してしまうことまで考えていたが、僕は貴重な遺跡を復元不可能なまでに破壊する盗掘者まがいのことはしたくはなかったので、そこはほっと胸をなでおろした。
「あはは、アタシもだいぶ長い間眠っていたからね。自分の仕事以外のことは記録がうっすらあいまいなんだよ。じゃあ、さっそくやってみるネ」
シャコウは魔法で水を補充し、扉の近くに設置してある受け皿に火をともした。
ちゃんとした手順を踏まないと開かない扉。なんだか、ゲームに出てくるダンジョンの仕掛けみたいだ。僕はそう思いながら、扉が開くのを待った。
「そろそろ開くことヨ」
一見すると何も変化したようには見えなかった。何の音も聞こえず、静かなものであった。それでもシャコウには何か感じるものがあったらしい。シャコウは扉にそっと触れた。
つややかな硝子でできた扉は動き出した。
「うぉわ!」
僕は思わず叫んでしまった。触った扉が予想外の動きをしたからだ。
一見すると普通の硝子なのだが、触れると円の中央に穴が開き、それが広がっていくような動きをする。自動ドアのようなものだろうが、その不思議な動きに僕はただただ感嘆するしかなかった。
不可解な動きをする扉の素材はどういったものかは分からないが、何もかも硝子でできている世界のこととだ、地球には存在しない性質を持つ不思議な硝子があってもおかしくはない。
(……どのような仕組みなのだろう?)
扉の動きこそ謎であったが、地球にも水と火を使った自動的に開閉する扉の機構は古代に存在した。
それは古代ギリシャの神殿に使われていた技術だ。扉の横に備えられた祭壇にかがり火を灯すと、神殿の扉がひとりでに開くというものだ。
この機構は案外簡単なものだ。
管のついた密閉された容器(水と空気の入っている)、バケツのような水受けの容器、そして錘のついたロープと滑車があれば作ることができる。
その仕掛けを簡単に説明すると――
まず水槽の管を水受けの容器に入れる。そして水槽を炎で温めると、水槽に入っている空気の体積が膨張し、膨張した空気は水を管へ押し出す。水はその先にある水受けの容器へと排出される。水受けの容器に水がたまり重くなっていく。
このとき、水受けの容器が下がっても管が常に水中にあるようにすると、火が消えた時、空気が冷え圧力が下がり、水受けの水は水槽の方へと吸い戻される。よって、水受けを軽くすることができる。
あとは錘のついたロープと滑車を使えば、水受けの容器が炎の有無によって上下運動する仕掛けができる。ある程度、機械の知識があれば、上下運動を回転運動に変換することはできるので、扉に軸をつけ回転させれば、それと連動して開かせることも閉じさせることも可能なのだ。
この神殿でも扉を動かすための構造は、これに近い仕掛けがなされていると思われる。
僕はこの扉に使われているであろう仕掛けに思いをはせながら、扉をくぐり神殿の中へと入った。
ちなみに、火が消えると扉も自然に閉まったので、空気の圧力を使った仕掛けという僕の仮説はほぼ間違いないと思います、まる。