15.子供たちは、噂がお好き。
僕は廃墟にある中央神殿へ行き、他の「白き翼ある壺」を探し出し、部品を集めることにした。教会に運ばれたものだけではどうにもならない部分があったのだ。気分転換も含め、僕は一度、教会を出た。
「……平和だなぁ」
住人たちはのんびり暮らしている。この世界に崩壊が迫っていることが、嘘のようなのどかさだった。
僕は知ってしまった人間なので、どうしてもどこか危機感を持ってしてしまう。
僕が町の広場にさしかかったとき、子供たちが寄って来た。
「どこ……行っていた?」
「教会だよ」
「なにか、辛いことあって、相談したのか?」
うかない顔している僕が気になったのだろう、子供たちは声をかけてきた。
「相談はしていないけれど……ちょっとね」
神を修理してほしいと、相談はされたが。
何も知らない子供たちに、世界が危機に瀕していることなど、言えるわけがない。
「もしかして、ケアヒルさまに……会ってた?」
「……そうだよ。よくわかったね」
「ケアヒルさま、いつも、難しい話する。それ聞いて、辛くなって眠くなったか?」
教会は知識を与える場、学校のような機能も持っている。神やこの世界のあり方といった、都合のいい解釈に多少染まった宗教色の強い知識はもちろん、己が将来の導も学ぶのだ。
どうもケアヒルの話は、子供たちには退屈らしい。
「そういうわけではないけれど。そうそう、ムィオンさんにも会ったよ」
難しい話といえば、ムィオンのいた部屋で器械について聞いたことを思い出した。
「ムィオンさまは、まじめ、まじめ」
「難しい話するけれど、好き」
「ねむくなるステキな声~」
ムィオンは子供たちに人気があるらしい。
「ケアヒルさまとムィオンさま、仲いい。ステキ」
「仲の言い二人見て、辛くなったか?」
「らぶ、らぶ。らぶ、らぶ」
ませた子供たちは、色恋沙汰が大好きである。
子供たちはそれぞれに、ケアヒルとムィオンについての情報を語りだす。
「ふたり、時々遺跡、行ってた」
「あんな何もない廃墟で、何してる?」
「あやしい、あやしい」
子供たちには、いわゆる「噂になる」ような仲に見えるようだ。硝子の民の文化や感覚はいまいちわからないが、どこの世界でも恋愛事情の噂話と言うものはあるものなんですねぇ。
「……そ、そうだね~」
二人があの廃墟のような遺跡へ行くのは、かつて栄えた文明を調査し、知的好奇心を満たすためであることは想像に難くないが、子供たちには格好の噂のネタのようだ。
これがお子様ネットワークか。おばちゃんネットワークほどではないが、それに匹敵するくらい、発達している情報網である。
――そして子供たちの話題は、ムィオンとケアヒルの話から、僕の作った風車の話へと移る。
「風車……かっこういい」
「大きくなったら……あれ作る」
子供たちにとって、器械は憧れの的らしい。確かに僕も子供のころは、車輪とか、歯車とか、エンジンとか、機械に興味を持っていたっけ。
子供たちの嬉々とした様子に、昔の自分を思い出していた。
様々な質問が飛び、僕は、それに一通り答えていく。
あの風車の技術が後世まで継がれるといいなと、僕は思う。技術を継いでいくものがいれば、この世界に風車を復元した甲斐もあるというものだ。
ちなみに、のちに小耳に挟んだ話によると、何度も教会に出入りしている僕を見て、子供たちは僕とケアヒルとムィオンの関係について、あれこれと盛り上がっていたそうです、まる。