表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
器械を、器械をください!―硝子の夢、玻璃の愛―  作者: まいまい@”
参「硝子の世界で暮らしてみた」
13/26

13.世界はたゆとう宇宙の中に。

 僕とシャコウはケアヒルの案内のもと、教会へ入る。

 教会の長い廊下の左右の棚には様々な形の硝子細工が並べてあった。


「あそこにいるムィオンは、伝説(れきし)を今に語り継いでいます」

 ケアヒルが指し示す先、忙しそうに一人の硝子の民が仕事をしていた。ローブのような裾の長い硝子繊維の鎧をまとっているので、まるでボーリングのピンのように見える。そして、なんと腕が4本もあった。その腕を使って、作業を黙々とこなしていた。


「ムィオン、今、時間を頂いてもよろしいですか?」

 ケアヒルはムィオンに声をかけた。

「おお、ケアヒルさま、お待ちしていました。そちらは《神の遣い(アシュヴィン)さまとケィスキーさまですね。わたしはムィオン。かつてこの地で栄えていた文明について、ケアヒルさまとともに研究しています」

 ムィオンは、流暢にそう話す。


「かつて栄えていた。それは器械文明ですか?」

「そうです。ここに並んでいるこれらは遺跡などから発掘された器械です。ここではそれを展示し、かつて器械文明が確かにあったことを伝えているのです」

 ムィオンが丁寧に解説してくれた。


「これらの器械はどう動いていたのでしょうか、一度、この目で、見てみたいものです」

 棚に並ぶ物は、どう見ても器械に見えないものが多い。硝子細工の中を覗きこめば、歯車などの部品が組み込まれているので器械といえば器械だが、僕にはどう見ても遺跡から発掘されたような硝子製の遺物(ガラクタ)にしか見えなかった。


「この器械は!」

 僕はそう思わず叫んでしまった。その展示物の中に、見覚えのある物体を見つけたのだ。

 それは特別なのだろうか、廊下の突き当たりにひときわ目立つように展示してあった。

 この器械には見覚えがあった。僕がこの世界へ来る前までいじっていた器械によく似ていたのだ。よく似ているというよりも、まさにそのものだった。


「おや、ご存じなのですか? さすがですね。これは転送瓶と言い、本来2つで1組とし、対となる瓶の元へ一瞬で移動できたと言われています。昔はこの瓶を使い遠くの場所へ移動していたのです」

 ムィオンはそう説明する。

「転送……」

 この容器に似た物が、僕の部屋にある。

 というのも怪しげなジャンクショップで購入したのだ。硝子製の機械で、珍しさにとその造形にひとめぼれだった。

 それをいじっていたら、あの廃墟にいたのである。

 もしかすると対となる器械があの廃墟にあって、僕の部屋にある転送瓶と繋がってしまったのだろうか。この地球上のどこでもないこの場所に。

 その対となる転送瓶を見つけることができたら、もしかしたら僕の部屋にも戻ることもできるかもしれない。

 確か、廃墟をさまよっていた時、同じ場所をぐるぐる回ることを避けるために、チョークで印をつけながら歩いた。それをたどれば、おそらく最初の場所へは行くことができるだろう。

 この世界は雨が降らない、多少は風化して薄くはなっているだろうが、まだ跡は残っているだろう。


 よし、暇を見つけて探してみよう。



 ムィオンの説明を受けながら、僕たちはかつて活躍していたであろう器械たちを横目に奥へと進んでいく。


「今、私たちが直面している問題があるのです。神が眠りについたというのは、ケイスキーさまもご承知ですね?」

 ふと、ムィオンは僕にそう問いかける。

 本当に神が存在しているのかどうかはとにかく、村の人々の噂で何度か聞いたことがあるので僕はうなずいた。


「神のいない今、宇宙が新たに生まれることはなくなりました。創られた宇宙も管理されることなく、情報は聖なる器に満ち溢れていく一方なのです。神を早く癒さないと……このままでは法則がだんだん狂い、いずれすべての宇宙は寿命を迎える前に崩壊してしまいます。私たち民が住まうこの場所(うちゅう)も、このままでは同じ道をたどるでしょう」

 ムィオンは間を少しおき、僕の方を見て言った。


「あなたが存在した宇宙もまた神によって創られています」

「えっ」

「あなたは、この宇宙(せかい)の住人ではありませんよね?」

 ムィオンは確信に満ちた瞳で僕を見つめる。


「……はい」

 僕はうなずいた。


「やはり言い伝え通りです」

「言い伝え……」

「言い伝えには、神は最後の力を持って、己を癒せる『器械の知識を継ぐ者ヤントラ・サルヴァスパ』を全宇宙から検索を開始し(さがしはじめ)また、と。発見次第この場所へ召喚(ダウンロード)するように設定し、眠りについたのです。あまりに膨大な宇宙の情報から適合する者を見つけるのは長い時間がかかります。その者がいつ現れるかは、分かりませんでした。それ故に間に合わない可能性もありましたが、まさか私の代で現れるとは」

 彼は感激しているようだ。


「僕のいた宇宙は、まだ大丈夫なのですか」

 僕のいた宇宙(せかい)は、本当に神が創ったのだろうか。

 にわかに信じられない。

 しかし、仮に彼の言うことが本当ならば、神を直さぬ限り宇宙はくるい続け、僕の宇宙もいずれ崩壊してしまうだろう。

(知らないところで、僕たちの宇宙も危機に陥っている?)

 僕は心配になり、ムィオンに尋ねた。

 

「心配することはありません。何も今すぐ、すべてが崩壊するわけではありません。数千年をかけて、人々が気がつかないほどに、微々たる兆候を持って狂っていくのです。この事実は、一般の方には公開していません。ただ、世界が徐々に崩壊していると言うことは、感づいている人も多いのも確かです」


「……僕は何をすれば?」

 僕にその情報を教えると言うことは、何か頼みごとがあるからだろう。


「教会の地下に神の世界へ行くことができるという器械があるのです。それを直し神の元へ行き神を癒して(なおして)ほしいのです。手伝ってはいただけませんか。すべての宇宙を救うために」

 ムィオンは僕の手を取り、そう懇願した。彼は落ち着いていたが、その瞳には不安の色がやどっている。


「わかりました、できる限りがんばります」

 神の器械というものは皆目検討もつかないが、自分ができることならば手を貸したい。


「ありがとうございます。ならば、ケィスキー様にはこれを……」

 ケアヒルは懐から、硝子でできた箱を大切そうに取り出した。

「私ども神官長の一族が代々、厳重に保管してきましたが、これをあなたに託します……この中には神の器械にまつわる鍵が……ん?」


 ケアヒルからその箱を受け取り、どういうものか説明を受けていると、激しい揺れが襲った。

 世界が、揺れる。

 まるで崩壊の予告のような、大きな地震が。


「む、かなり大きいのが来ましたね」

 ケアヒルは揺れが収まるのを冷静に待っている。さすが魔王だ。

「……こんな揺れ、ア、アタシ初めてダヨ!」

 すぐに地震はおさまったが、シャコウはまだ両手を挙げて、くるくると回っていた。シャコウの生きた時代、つまり神のいた時代は地震など起きなかったようだ。


「シャコウ、落ち着いて。地震はおさまったよ」

 震度は4くらいだろうか。まずまず、大きな揺れに感じた。この程度の地震は日本においては、慌てるほどのものではない。僕は未だに慌てているシャコウをやさしくなで、落ち着かせる。


「宇宙を管理する神がいなくなり、この世界(うちゅう)も綻びかかっているのですよ」

 ムィオンは展示してある机の下から出て、そう言った。いつの間に、机の下にもぐりこんだのだろうか。


「地震は何回か起きているんですか?」

「はい。昔は数年に一度程度でしたが、最近は半年に1回と多くなりました」

「半年に1回……」


 大地の揺れは定期的に起こっているようだ。僕がこの世界に来てから初めての大きな地震だが、地震の頻度は多くなりつつあり、この世界の置かれている状況は、思わしくないようだ。


「この宇宙(せかい)、いえ、すべての宇宙を救うためにどうか、お願いします」

 ムィオンとケアヒルは、改めて僕に頼むのだった。



 ちなみに、地震の時にムィオンが隠れた机は大昔の産物で、強い衝撃を与えてもまったく傷のつかない硝子でできているので、重宝しているらしいです、まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ