12.修復した風車に祝福を!
「露天のお風呂は最高だね」
よく晴れた青い空に太陽が、黒々と空いている。
目の前に広がるのは鉱石と硝子の無機物世界、この異様な空景色にはもう慣れた。
僕はいまだに廃墟に居を構えている。村に住んでもよかったのだが遺跡は宝の山なのだ。
村へは数日おきに行っている。自販機の様子を見て補充したり回収したり、町で必要なものを買い物したり、これが僕の最近のまでの生活サイクルだ。
しかし、今日からは少し村に滞在することになる。ファードに風車を見せたところ、村にも欲しいと言われたのだ。
相談の結果、村に作るのは粉挽用風車と揚水ポンプの2種類作ることになった。
廃墟の風車を分解して材料を村へ運ぶよりも、村で新たに作った方が楽だろう。お風呂用に移設するにあたって風車の設計図は描いたので、必要な部品はわかっている。風車に使われるすべての部品を作ってもらうために、部品それぞれの設計図を描き、ファードに託した。彼とその仲間たちが数日をかけて、すべての部品を作り終えると、ここからが僕の仕事だ。
今、村では僕の指示の元、風車を組み立てている。手伝ってくれる人も多いので、廃墟で組み立てたときよりも早く出来上がりそうだ。
数日後、ひとつ目の風車が完成した。
「この建物は……」
ケアヒルは完成した風車を見て感嘆の声をあげている。
魔力を使わず自然界に吹く風の力だけで、鉱物のように固い植物を自動的に粉にするという仕事をこなしていく器械の力に、ケアヒルは驚きを隠せなかった。
「これはすべてケィスキーさまが?」
「いや、すべてが自分の力というわけではありません。あの廃墟にあった物を参考に、ファードさんに部品を作ってもらって、そして村のみんなで組み立てました。僕はどちらかといえば、一から作るよりも、直したり改造したりする方が得意なので」
「おぉ、ケィスキーさまは言い伝えにある『器械の知識を継ぐ者』なのですね」
魔王、もとい、神官長ケアヒルの硝子のように鋭い瞳の奥が光る。
「え? やんとら……僕は違いますよ。単なる機械好きです」
また分けのわからない役職が出てきた。
一度、その言い伝えというやつを聞いてみたいものである。
「いえ、器械を癒せる者をそう呼ぶのですよ。大昔にはたくさんいたそうですが、今となってはその存在すら信じる者がいないほどに伝説のものです」
「じゃあ、器械を直せるケィスキーは、そのヤントラーナントカーダネ」
シャコウも異論はないようだ。
「機械を直せる者がそう呼ばれるなら……そうなのかなぁ」
いまいち納得がいかないが、ここではそういう風に呼ばれるものなのだろう。ここは僕が折れるしかなさそうだ。
「ケィスキーさまが『器械の知識を継ぐ者』であるならば、神を直すことができるかもしれません」
ケアヒルは僕の耳元でそうささやく。
「神を?」
神を直す、一体どういうことだろうか。
「実は上位の神官にのみ伝わる、特別な言い伝えにあるのです。ここでは少し目立ちます。詳しいことは教会で……」
僕とシャコウはケアヒルに促されるまま、教会へ向かうことにした。
僕はこの時、あのようなことに巻き込まれるとは、思いも寄らなかった。この世界、いや、多くの宇宙を巻き込んだ危機に直面することになろうとは。
ちなみに、完成した風車が風を受け回るさまを見たケアヒルが感極まり、完成の暁にと、まるで邪神でも召喚するような禍々しい儀式を始めたのを見て、やっぱり魔王っぽいと思ったのは内緒です、まる。
『ヤントラ・サルヴァスパ』
本当はサンスクリット語?で「機械装置の百科事典」という意味。