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器械を、器械をください!―硝子の夢、玻璃の愛―  作者: まいまい@”
参「硝子の世界で暮らしてみた」
11/26

11.動け、風車!

 風車の羽に使う材料は子供たちのおかげで何とか集まりそうなので、次は歯車やポンプに使う軸の入手だ。

 集落にはたくさんの硝子職人がいる。子供たちによると、その中でもファードという人物がすごい腕を持っているらしいという情報を得た。どんな人だろうと思いながら、僕はファードへ会うために彼のいる工房へ向かうことにした。


「ここが工房か」

 冷却中であろう瓶が棚の上に無数に置かれていた。部屋の奥には作業台のようなものがあり、一人の職人が黙々と硝子を削る作業をしていた。

 工房にはたくさんの硝子細工があり、その中には人型を模したものもある。それに埋もれている硝子の民は紛れてしまう。そのため、工房に入った瞬間、どれが人なのか迷ったというのはここだけの話である。


 彼は頭の上に蓋のような少し大きめの帽子をかぶっており、数え切れない腕を持っている。

 確かにすごい腕だ。

 一体いくつの腕がその体には格納されているのだろう。その腕で器用にを硝子に形を与えている。


「こんにちは。ファードさん?」

 僕は、彼の作業が一段落したのを見計らって話しかけた。

「はい? 何か用か?」


 振り向いたファードの顔を見て、僕は笑いをこらえるのに必死だった。

(ひ、ひげがうごいている!)

 目の下に弓形の模様が二つ描いてあり、そしてその模様は、なんとしゃべるたびに上下に動くのだ! この動く髭がおかしくて噴出しそうになるが、何とか押さえ込んだ。

 モノ扱いしちゃいけないのだろうけれど、この世界の人は1品物で、いずれも異なった形で個性的である。


「あぁ、あなたの奇妙なカタチ、いい仕事してますなぁ!」

 僕の姿を見ると彼の瞳の中の光が輝きはじめた。ファードのたくさんの腕が、僕の体を触ってくる。


「ちょ、ま、くすぐったい」

 純粋な好奇心だけで、悪意は無いのは分かっているが、あまり気持ちのいいものではない。僕は、隙を見て逃げ出した。


「……ちょっと待っとくれ!」

 かわいい女性に追われるならとにかく、腕がたくさんある……しかも男(多分)に言われても待つ気なんてまったくない。

 僕は工房を飛び出した。

 工房の外へ出て村の中を走り回った事で、村の子供たちが遊びと勘違いし、途中から混ざってきたのは、また別のお話。


「はぁ、はぁ」

 僕とファードは、息を切らし工房に戻ってきた。

「アタシも混ざりたかったな~。すんごく、楽しそうだった~」

 シャコウがへらへら笑いながら言う。シャコウはずっとファードの工房にいて、僕とファードの様子を見ているだけだったのだ。


「ところで、こういうのを、作って、ほしいのですが」

 シャコウは放っておくとして、僕は呼吸を整えつつ、気を取り直して、僕は設計図を差し出した。


「これは?」

 ファードの髭は、相変わらず滑らかに動いている。


「これは機械を作るのに必要な部品……」

 僕が最後まで言い終わらないうちに、ファードは興奮気味に僕の手を取った。


「伝説にある器械の部品か! すぐ、作業に取り掛かる!」

 ファードは僕に2、3質問すると、すぐに準備に取り掛かった。いくつもある腕を使い器用に、すばやく作業を進めている。

 あんなに走ったのに、疲れていないのだろうか。そう思いながら、僕は彼の作業が終わるまで待つことにした。


 準備を終えると、ファードは家の裏手にある炉へと向かった。裏庭には富士型の山のような形をしたものがあった。それは、小さな火山のように穏やかに細い糸のような白煙をあげている。炉はその人丈ほどの小山に密接するように建てられておた。今も硝子が溶かされているのだろう、あまり嗅いだことのない独特な匂いが風に乗ってほのかに漂ってきた。


「実はこれでも立派な火山なんだヨ」

 シャコウはそう説明する。

「ええ? あの火山は噴火することあるの? こんな近くに火山があって、ここは大丈夫なのかな」

 地震大国日本に住んでいる僕は、そんなことを考えてしまう。僕の中で怖い災害ベスト5は、津波、噴火、洪水、土砂崩れ、地震だ。

「あの火山は、硝子を溶かすための熱を吐き出すだけの山だから、大丈夫なんだよ」

 僕がそう心配していると、シャコウがそう言った。

「そういう、ものなの……かぁ」

 地球とは違う成り立ちの火山なのかもしれない。たとえあの山が熱を作るだけの山だったとしても、山というには小さ過ぎても、地球では「熱を持つ火山は噴火することがある」という地球での常識が邪魔をして僕は一概に安心はできなかった。


「では、形を作ろう」

 そう言うとファードは、専用の器具を使い熱気すさまじい炉の中へ入れる。

「できあがるまで、どこかで時間つぶしでもしてな」

 そして、ファードは炉の様子を食い入るように凝視し、細かい調整をしはじめた。

「はい、お願いします」

 僕は部品ができるまで、村の子供たちと遊ぶことにした。





 数刻後、ファードが部品を持って現れた。わざわざ届けに来てくれた。


「これでいいか? 確かめてくれ」

 ファードから見せられたその部品は、まるで機械で作ったかのように正確で、信じられないくらいの素晴らしいできばえだった。


「すばらしいです。何も言うことはありません」


「伝説の器械の部品を作る、大変名誉な大仕事をさせてもらった!」


「わざわざ、ありがとうございます!」


 僕は部品を手にした。手に触る心地は滑らかで、非常に精密だ。

「す、すごい」

「これが、職人技……」

 シャコウも感嘆の声を上げている。


「伝説の器械の部品を手掛けられるとは、感激だった。その風車ってやつが完成したら、見せてほしい」

 そう言うファードは、颯爽(さっそう)と去っていった。

「ありがとうございます、ファードさん」

 僕は彼の髭に気をとられないようにするのが大変であったが、仕事は確かであった。

 



 やはり運ぶ魔法は非常に便利である。

 重たい部品も大きな部品も目的の場所へ運ぶことができるのだから。

 僕はシャコウとともに風車を修理しつつ、川原に移転した。

 数日で風車の自体は修復できたので、次は揚水ポンプを取り付けて回し始める。

 水は螺旋面にすくい取られ石の桶にたまっていく。そして、桶に張った水をシャコウに温めてもらえば、お風呂の完成。

 ほとんど苦労することなく入れる温かなお風呂は、なかなかに気持ちよかった。




 ちなみに、このポンプは液体以外にも、細かい固形物や泥状のものも運ぶことができる。ファードを僕の工房に招待し、この風車を見せたら、魔法を使わずとも水や泥をくむことができるこの器械にいたく感動し、何台か村にも作ることになりました、まる。

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