10.やっぱり風呂は欲しい。
温泉に入り損ねたことで、僕は急に温かいお風呂に入りたくなった。いつもは近くを流れる川で沐浴していたのが、やはりお風呂はほしい。
僕はちょうどいい大きさの容器を廃墟で見つけ、水辺に運んだ。そして、シャコウに「火」の魔法回路を探してきてもらい、それを修理しシャコウに取り付けた。
これで、ひととおりの準備は完了。あとは川の水を汲んで、湯を沸かせばお風呂の完成だ。
シャコウの魔法による手伝いがあるとはいえ、硝子の瓶に何度も水を汲み、風呂桶にためるのはけっこう骨が折れる。
水の魔法や運ぶ魔法がもう少し使い勝手がよかったならば、また少し事情が異なっていたかもしれないが。
というのも、「水」の魔法は1回にコップ1杯程度の水しか出ないので効率が悪く、「運ぶ」魔法も岩や硝子のように硬く形あるものならば問題ないが、水のような液体は一度にたくさん運ぶのは難しかったのだ。
魔法を何度も繰り返し使わなくてはいけないことによりいづれの方法でも、桶に水をため終わるころにはシャコウのバッテリーが切れて、水を温めてもらうには一度充電しなくてはいけなかったのだ。
運ぶ魔法で風呂桶を川に沈めそのまま汲むことも考えたが、川の深さは浅く横倒しにしたとしても、水を十分にためることは難しい。川底に穴を掘ることもやってみたが、穴を掘っても次の日には砂で半分埋まってしまう。穴を掘る作業をする手間を考えると、水を汲んだ場合と労力的にも時間的に大差がない。
十分な水が出せたなら、十分な水が運べたなら、新鮮な水を大量に入手したい僕はもどかしい気分になる。
僕は今日も川の水を汲みながら考える。
――やはりここは何か風呂に水をためる機械を作るしかないだろう。
僕は『図解 古代・中世の機械技術』を開き、水の章を読み始めた。ここには、ローマの水道橋をはじめ、閘門式運河のしくみまで、水に関する技術が書かれているのだ。
もちろん橋や運河開発のような大規模事業は、技術的にも人材的にも無理ではある。もう少し規模の小さい技術ならばできるかもしれない。
僕は何か良い技術は無いかと思いをめぐらせながら、ページをめくっていく。
「これだ!」
僕の目に止まったのは、アルキメデスが考えたといわれる「揚水ポンプ」である。必要なものは筒と螺旋の板がついた軸、そして回すための機構。これがあれば、螺旋の曲面が水をすくいあげ、回転とともに水を低い場所から高い場所へ運ぶことができるのだ。
回すための機構、それは風車を使おうと思っている。
この世界には風車はある。おそらく植物などを挽くための粉挽用風車だったのだろう。
風車は僕の住んでいる廃墟ではその存在を確認できたが、硝子の民の集落にはそのようなものはなかった。風車もまた失われてしまった技術のひとつなのだろう。
廃墟にあるのは、長い年月により動かなくなったものばかりではあるが、大小様々な風車が存在する。これを改造すればおそらく目的のものは作れるだろう。
1から作るのならばとにかく、すでにある物を直す、改造する、これは僕の最も得意とするものだ。
僕は廃墟中の風車を解体し、使えそうな部品を集める。もちろん、あとで組み立て直せるように、風車の構造をメモすることも忘れずに。
重い物体を運ぶとき、魔法は非常に便利である。石でできた重たい風車の部品も魔法にかかれば楽に運び出せる。魔法技術が発達した世界で、機械が廃れてしまったのは分かるかもしれない。
「風車に足りないのは、風車の羽と歯車数個といったところか?」
風車の風を受ける部分には、何枚もの軽くて固い昆虫などの翅が張り合わされ作られている。きっと昔はその透明な風車の羽は回るたびに光を映し、さぞかし綺麗だったことだろう。
しかし長い年月、手入れがされていないせいもあり、剥がれ、割れ、大きな穴があいている。大部分張り代えなくてはいけないだろう。
昆虫の羽の平均面積と、貼り直さなければならない面積を計算し算出した結果、昆虫の羽は約千枚程度必要なようだ。
そんな大量に手に入るかどうかはわからないが、まぁなんとかなるだろう。
羽の他に必要な材料を調達できるだろうか。
風車に足りない歯車や、ポンプの要である螺旋のついた軸は……依頼して作ってもらった方が良いかもしれない。
僕は作ってもらうための図面を簡単に描いた。
ちなみに、風車に使う昆虫の翅は大量に必要で村の売り物だけでは足りなかった。なので、魚をあげるげることを報酬に子供たちを巻き込んで翅を集めました、まる。