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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
96/114

33話 レイドイベントレスピット

 ■■■


 同時刻南門にて。


『きしぇえええええええええぃええええ!!!』


 これまで7回の復活を繰り返したヴァーミリオンフェニックスは悲鳴を上げる。3回目の復活で5体に分れたヴァーミリオンフェニックスは現在再び1体に戻り、プレーヤーたちの集中砲火を浴びていた。空を舞う霊鳥であるヴァーミリオンフェニックスだったが、今は電撃を帯びた網に体を捕られ地面で無様に藻掻いていた。

 頭上に浮かび上がる7本のHPバーは今やあと数ドットを残すばかりで瀕死の状態だった。数々の魔法を撃ち、翼で敵を屠ったヴァーミリオンフェニックスだったが、今はもう見る影もない。ただその命を刈り取られるのを待つばかりだった。


『……! くえええええええ、……ぇ!』


 幾度となく復活を繰り返したヴァーミリオンフェニックスのHPがようやく0になり、力尽きて地面に伏した。これまでHPを0にしても何度も復活されたことを覚えているプレーヤーたちは油断することなく武器を構えたままヴァーミリオンフェニックスを見つめた。


『我は……再び輪廻の理に……導かれる』


 ヴァーミリオンフェニックスの口から言葉が漏れだし、近くにいたプレーヤーたちは訝しげに立ち尽くした。


『礼を言うぞ、小さき勇者達』


 ヴァーミリオンフェニックスの体は光に包まれだんだんとその姿を薄れさせていく。プレーヤー達は何が起きたか理解していない表情を浮かべながらもただ消え逝くヴァーミリオンフェニックスを見詰めた。


 ヴァーミリオンフェニックスは正気を灯した眼に満足げな表情を浮かべ、そして光となって消えた。

 後にはプレーヤー達だけが残された。



『ヴァーミリオンフェニックスのHP残量が0になりました。おめでとうございます、ヴァーミリオンフェニックスを無事倒しました。60秒後に転送を開始します』



 ………


 ……


 …




 ■■■


 北門・南門攻略完了から1時間ほど経った頃、東門にて。


『ぐるぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 ラピスラズリブルードラゴンは苦しげな声を上げて、宙で蛇のように長いその身をくねらせる。何度も回復魔法を自身に掛け再生を繰り返していたもの、肝心のMPが底を着いたらしく攻撃魔法さえも打てぬまま魔法職プレーヤー達の的になっていた。

 先ほどラピスラズリブルードラゴンも残りHPが最後の1本の半分を割り討伐まであと少しというところで、ラピスラズリブルードラゴンは空高くに浮かんで目を怒りの色を爛々と輝かせ、触れれば一発で消し炭になるような雷を連発し出した。プレーヤー達は空から降る数々の魔法を前に数を減らしたが、なんとか耐え抜き攻撃の手を休めなかった。しばらく耐え抜いたところでラピスラズリブルードラゴンは攻撃の手を休め、自身の回復を始めたのだが如何せん先ほどの攻撃でMPを使いすぎたようで回復魔法が使えなくなっていた。尚且つ攻撃魔法さえも使えないため、ただ宙に浮かんだままでいるかしかなかった。ラピスラズリブルードラゴンには鋭利な爪や堅牢な尾があるが、一度地上に降りればプレーヤー達の猛攻撃に遭い、少ないHPをなおさら減らしてしまうのだった。といえどもこうして宙に浮かんでいるだけでも魔法職プレーヤーの魔法の餌食になるばかりでラピスラズリブルードラゴンには打つ手がなかった。仕方なく、犠牲を覚悟で地上に降りれば待ち構えていた武器職プレーヤーの猛攻撃に遭った。


 そして、ラピスラズリブルードラゴンのHPバーの最後の1ドットが消え、ラピスラズリブルードラゴンは力尽き、体を地面に横たえた。その衝撃で下敷きになった不運なプレーヤーもいた。ラピスラズリブルードラゴンの体は先端から光に包まれ始め、ラピスラズリブルードラゴンはそれまで狂気に支配されていた瞳を閉じた。


『……ここまで、か』


 ラピスラズリブルードラゴンは何も語らぬまま体を微動出せずに消滅のその時を待った。その周りを取り囲むプレーヤー達は反撃されないか警戒しながらその消滅の時を待ち続けた。




『ラピスラズリブルードラゴンのHP残量が0になりました。おめでとうございます、ラピスラズリブルードラゴンを無事倒しました。60秒後に転送を開始します』


 そのアナウンスが流れると同時に、プレーヤー達は歓喜の声を上げる。7日間にも及ぶ長い戦いが今ここで終わったのだから。


『ラピスラズリブルードラゴンの討伐を確認。……これで帝都東門開放されました。東門攻略したプレーヤーには後で報酬が送られます』


 報酬と聞いて、プレーヤー達の表情に一層の喜びが浮かぶ。


『転送開始。転送ポイントは帝都内東門前です』


 プレーヤー達は青い光に包まれ、次々と転送されていく。


『長きにわたる戦い、お疲れ様でした』


 そのアナウンスが流れ、後には何も残されていなかった。



 ………


 ……


 …




 ■■■


 それから2時間ほど経った西門にて。


 シルバーライトニングタイガーは目にも止まらぬ速さで地を駆けていた。現在シルバーライトニングタイガーのHPはすでに残り1割を切っている。それだというのにシルバーライトニングタイガーの動きは決して鈍ることなく、むしろ(はや)さを増している。目にも止まらぬ速さで駆けるシルバーライトニングタイガーは闘技場の中を縦横無尽に走り回り、姿を捉え切れない哀れなプレーヤー達へ爪を一閃させ牙を突き立てる。プレーヤー達はそんなシルバーライトニングタイガーへ対抗すべく武器を構え攻撃してくる瞬間へ狙い撃とうとするが、あまりの速さに攻撃のタイミングを合わせることができずに次々とプレーヤー達は数を減らしていく。

 あるプレーヤーが仲間と協力して落とし穴をシルバーライトニングタイガーが来るであろうポイントに作った。運よくシルバーライトニングタイガーがその落とし穴に引っ掛かり、その俊敏な動きをわずかながら止めることができた。しかし落とし穴に引っかかりながら近づくプレーヤー達を爪と牙、そして雷撃を放ち牽制を行い、悠々と落とし穴から脱出してしまった。罠が有効な手段だと気が付いた時はすでに時遅し、戦っているプレーヤーの数は大きく減らされていた。


 その後もプレーヤー達は罠を使い死に物狂いで攻撃するものの、残り1割を切ってからの疾風迅雷を体で表すシルバーライトニングタイガーを止めることは叶わなかった。


 HP残り7%。

 最後のプレーヤーがシルバーライトニングタイガーの爪で切り裂かれた時のHP残量だった。



『シルバーライトニングタイガーの討伐失敗を確認。……帝都西門は開放されませんでした。エリアの変更、およびペナルティが展開されます。……ただいまを持ってレイドイベント第1弾を終了させていただきます』




 ………


 ……


 …




 ■■■


「こちらコードN。対象の消滅を確認」


 ………


「こちらコードS。対象の消滅を確認」


 ……


「こちらコードE。対象の消滅を確認」


 …


「こちらコードW。対象は健在。再封印を行います。許可を」

「対象の様子を見ながら、再封印を許可する。くれぐれも犠牲は出すな。同時にやりすぎにも気を付けろ」

「了解」




「ふぅ、やれやれだ」

「お疲れだね」

「やぁ、来てたのかい」

「そりゃ愛しの女の仕事がひと段落ついたというじゃないか。駆けつけない訳にはいかないだろ?」

「へぇーへぇーそういうことにしてあげるわ」

「そりゃどうも。……で、経過は?」

「やっぱりそれが聞きたいんじゃない。……経過は西以外は消滅を確認。西に関しては今封印中ね」

「それについてなんだが、封印した後は弱体化させて再度プレーヤー達に戦わせるようにしてほしいんだ」

「それは上の意向かい?」

「あぁ。なんでも一度戦って負けましたからもう挑戦できませんじゃあ、かわいそうだろ?」

「……わかった。後で詳しい内容をこちらに送ってくれ」

「もちろんだとも」

「それで他には?」

「コードCの様子は?」

「依然として沈黙を保ったままよ。こちらの制御もある程度しか効いていないし、これじゃあバランスが崩れてしまうかも」

「やっぱりそうか。ならいい。元々無理なものとしてプレーヤー達にやらせる」

「それだと不満が出るんじゃないか?」

「それは元より承知さ。もっとも簡単に消滅できるようならプレーヤー達にやらせることもなかろうしね」

「それもそうね……ただ一歩間違ったら危険よ」

「そうならないように君が、いや君たちがなんとかするんだろ? もっともなんともならなくなったら遠慮なくこっちに言ってくれよ。精鋭を送り込んですぐにでも消滅させるからさ」

「ふふ、その時は頼むよ」

「任せろって」

「ふふ」

「主任!」

「ほら、呼んでるぞ。俺のことはいいから、行って来なよ。俺はちょっとここにいるからさ」

「わかった。……何かしら」

「実は……」



 ………


 ……


 …


 こうしてレイドイベント第1弾は終わりを告げた。

 帝都の門を潜り抜けたプレーヤー達に何が待ち受けているのか。

 その先に輝かし栄光が待ち受けているのか、それとも苦しめる悪夢が待ち受けているのか。

 彼らはまだ知らない。




第3章 Imperial Capital 完




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