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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
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28話 ブラックシールド

 ■■■


 プレーヤー達はラスボスと思わしき黒盾が召喚したモンスターの大群目掛けて武器を振るう。これまでの道中同様にモンスターにもある程度のアルゴリズムが組み込まれているようで、それぞればらばらにプレーヤーに向かってくるのではなく緻密な連携を組みながら攻撃を仕掛けてきた。

 プレーヤーの剣とエボルタートルナイトの盾がぶつかり合う。

 プレーヤーの斧がアンデッドモンスターの肉体を切り裂く。

 黒甲冑の鎧騎士の盾がプレーヤーを押し込みそのまま剣を突き立てる。

 プレーヤーとモンスターが激しくぶつかり合う。金属と金属とがぶつかり合い、肉と肉がぶつかり合う。ただ一つ言えるのは、モンスターの数に対してプレーヤーの数が圧倒的に少ないこと。そのためプレーヤー達は初めは勢い良かったもののしだいに防戦を強いられていた。




「『コングロメレートストライク』!」


 ワースがマリンの盾がゾンビやレイスを食い止めている後ろから魔法で生成した大量の礫を目の前のアンデッドモンスターへぶつける。礫はゾンビの柔らかな肉体を容易く貫き、レイスの攻撃の狙いを逸らす。怯んだゾンビを盾を叩き付けて吹き飛ばしたマリンはふぅとため息をつく。


「ワース大丈夫か?」

「えぇ、まだ大丈夫です。マリンさんは、あぁそろそろ付与術(エンチャント)が切れそうですね。掛けますよ」

「あぁ、頼む」

「『盾防壁(シールドバリア)』、っと『鎧防壁(アーマーバリア)』」


 白い光がマリンの盾と鎧を包み込む。ワースはそちらへ一瞬視線を移した後すぐに、目の前で蠢くモンスター達を見据える。


「厄介ですね」

「そうだねぇ。圧倒的にこっちの人数が足りない」

「今日のところは足掻けるところまで足掻きましょう」


 ワースは杖を短く持ち、その姿を霞ませる。脇から筋肉ムキムキの腕を突き出したモンスターが頭を強く打たれよろめく。ワースの棒術『ショットストライク』によるものだった。ワースはすぐさま追撃の魔法を詠唱し、並行して口頭詠唱で接近してきた黒鎧騎士へ魔法を準備する。


「貫く刃、ここに顕現せよ。我に歯向かうものを貫き刻め。『ぺネレイトエッジ』」


 ほぼ同時に発動した魔法により、ワースの先から尖った岩が生み出され勢いよく筋肉お化けを穿ち、ワースの足元から浮かび上がった円錐状の鋭利な岩が黒鎧騎士の鎧を貫こうと飛んで行った。ワースの杖は動きを止めずに近くのレイスを穿ち肉体を散らした。

 『ロックストライク』を通常詠唱し、『ぺネレイトエッジ』を『口頭詠唱』で詠唱開始し『並列詠唱』で『ロックストライク』と同時に発動させ、その上『魔力奪撃』を杖に付与し敵から魔力を奪い取った。魔力で肉体を構成しているレイスには『魔力奪撃』によりMPだけでなくHPにダメージを与えた。


 そんなワースだったが、いきなり足元から掬い上げるように現れたゾンビに対処できずに攻撃を喰らってしまう。付与術(エンチャント)と防具によって魔法使い系としては高水準の防御力を持っているワースだったが、攻撃を受けることを前提にした戦士系とは違うためゾンビの攻撃によりワースのHPは1割がた削られた。ダメージを受けて後ろへ仰け反ったワースへ追撃を加えようとするゾンビを、どこからともなく現れたテトラの忍刀によって真っ二つに切り裂かれた。


「大丈夫?」

「助かった、テトラ」

「ん、無事なら何より」


 テトラは迫ってくるエボルタートルナイトに忍刀を突きつけながらワースの身を守るように位置取りをする。


「もう大丈夫だ」

「それなら範囲拡大の付与術(エンチャント)をちょうだい。一気に押し込めたい」

「了解。『攻撃範囲拡大(アタックエリアプラス)』、とこれも追加で掛けておく。『鋭利なる魂(キーンスパルタ)』」

「ん、ありがと」


 テトラは付与術(エンチャント)が自身にちゃんと掛かったことを確認し、体勢を低くしたままモンスターの足元をすり抜けるようにして敵の中へ踊り込む。小さく跳ねるようにテトラの体が動き、エボルタートルナイトに守られるようにして魔法を行使するエボルタートルウィザードの後方へ影のように潜り込み下からその脆弱な首元を狙って軽く撫でた。『攻撃範囲拡大(アタックエリアプラス)』によって刃身が伸びた忍刀は容易く首を切り捨て、ただでさえたHPが低くクリティカルポイントを攻撃されたエボルタートルウィザードは抵抗する間の無く消滅した。エボルタートルウィザードのあっけない消滅する様を見ることなくテトラは次の獲物を探し疾走する。


「ワース! 付与術(エンチャント)頼む!」

「ノアに掛けてる『魔力強化(マナプラス)』はまだ効果時間内だけど、何を?」

「HP犠牲にして火力アップ系で行ける?」

「一気に畳みかけるつもりか」

「どうせ今日勝つのは無理でしょ。だからちょっと後先考えずにやってみたいんだよね」

「わかった。対象(ターゲット)ノア、血塗られた贄を捧げ、その身の力を開放せよ『血塗られた真価(ブラッディワース)』」

「それじゃあ、後は頼んだ!」


 どす黒いオーラがノアを持っている大剣ごと包み込む。ノアはにぎにぎと拳を握り締め付与術(エンチャント)の掛かり具合を確認する。この付与術(エンチャント)は対象の基本ステータスではなく装備品によって底上げされた最終ステータスのSTRとINTとAGIを2倍にする代わりに毎秒ごとにHPの5%を消費するものである。装備品にかかっているステータス増加の効果もひっくるめて2倍にするためかなりの火力を叩き出せるが、その分代償が痛く20秒も経てば自動的に死亡してしまう、付与術(エンチャント)というよりは呪術(カース)に近い魔法だ。ノアはそれを躊躇いもなく受け入れ、次の瞬間ノアの姿は掻き消えた。あるところで立ち止まったノアは『召喚術』の詠唱を発動させながらその場で大剣を振り上げ、目の前にいるエボルタートルナイトの甲羅に叩き付ける。ばきっと音を立てて堅牢なるエボルタ―トルナイトの甲羅は砕け、ノアの大剣が突き刺さる。ノアはそのままエボルタートルナイトの突き刺さる大剣を持ち上げ、右下に振り下げた。その先にはスカルウォーリアが剣を振り上げており、死に体のエボルタートルナイトと共に大剣に薙ぎ倒された。


「我が名において命ずる! 海の妖精セイレーン来たれ!」


 ノアはセイレーンを召喚し、目の前のモンスターを音波攻撃と水塊で一掃する。その間もノアは大剣を操り、召喚獣ぽるんに指示を出し、ペットのしずくを走らせる。その勢いは火力の高さと相まって爆発的な破壊力を生み出し、モンスター達を殲滅する。しかしそれは幾ばくもなく動きが止まり、ノアは背後からぬっと現れたレイスの集団にあえなく倒された。『血塗られた真価(ブラッディワース)』によるHP減少とモンスター達のヘイトを稼ぎすぎたためだった。




 ノアと立ち代りワースの傍へやって着たのはニャルラだった。


「俺も行くわ。ワース、一発どでかい付与術(エンチャント)頼む」

「まぁもうそろそろ限界だよな。それじゃ行くぞ……血に飢える獣よ、ここに目覚めろ。『狂狼転身憑依(バーサークグレイプニル)』!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 雄たけびを上げながらニャルラはモンスターの大群へ突進する。

 圧倒的なモンスターを前にたかが数十人やそこらのプレーヤー達では歯が立たない。

 ワースはただ目の前のモンスターへ魔法を撃ち、メンバーたちに付与術(エンチャント)を施す。例えこの戦いで勝てないとはわかっていてもそれでも諦めるつもりはなかった。なぜならばそれは楽しいからだ。皆と一緒に戦えるこのレイド戦が堪らなく面白いものに思えたからだった。




 そして、戦闘は終結する。

 プレーヤー達の敗北という形で。


 6日目はこうして幕を降ろした。


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