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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
9/114

6話 青年は友達に巻き込まれる

*2014.11.07に改稿完了しました。

 ■■■


 次の日。

 真価が自分の朝食を食べ終え朝のコーヒーを嗜んでいるところで、明奈が勢いよくタブレット片手に飛び込んできた。


「お兄ちゃん、昨日やっぱり出たって‼」

「えっ、なんのことだ? 幽霊か?」

「違うよ、私が言いたいのは昨日のMMOでやらかしちゃった人のこと。やっぱりいたんだね、時間オーバーして強制ログアウト喰らちゃった人ー」


 明奈の言う強制ログアウトとは、決められた時間を超えてゲームをプレイし続けてゲーム本体から直接ゲームとの接続を落とされることである。

 『ドリームイン』の一日の最大ログイン時間は12時間までで、日をまたぐ場合は最後のログインから4時間はログインできないように設定されている。決められた時間の30分前に、一回目の警告画面が出て、そこから10分おきに警告画面が表示される。それでも従わない人は、強制ログアウトされペナルティが課される。ペナルティとは、一週間ログインすることができないものだ。

 この措置は健康被害を考慮して定められたもので、説明書やプレイ前の注意事項に明記されている。

 それにも関わらずゲームをプレイし続けてて強制ログアウトされた馬鹿がいたという訳だ。


「強制ログアウトってあれか、そんな人もいたんだなぁ」

「ほんと、気持ちはわかるけどペナルティを考えなよって思うよ。

 そう、それと、さっき公式ホームページ見たんだけど、今日は12時まで緊急メンテナンスなんだって」

「だったら、それまでは暇か」

「そうだねー」


 真価は飲み干したコーヒーカップをかたっと置いて立ち上がった。


「メイはそれまで何かするつもりなのか」

「私はね、友達と連絡取ったりして時間つぶすつもりだよ」

「俺にはそういった友達があまりいないからな……まぁ俺は部屋にいるよ。用事があったら声をかけてくれ」

「あいあいさー」


 真価はリビングルームから階段を上って2階にある自分の部屋に入った。






 ■■■


 真価の部屋は大変こざっぱりとしている。部屋の隅にミシシッピアカミミガメ(仰々しい名前がついているがなんてことない。ただのミドリカメのことだ)がガラスケースの中にいた。真価が幼稚園生の時に近くで開かれた縁日で買って以来ずっと育てている。初めはかなり小さかったが、今では体長30cmをゆうに越えている。

 カメが置いてある隣に机がある。机の上には手の平サイズのPCが置いてあった。机の反対側に箪笥とベッドがある。他には床に何冊か本が積んであるだけ。実に男子の部屋らしい質素な部屋だった。もっとも真価自身まめに掃除はするため部屋は清潔に保たれていた。

 真価はベッドに置いたままのシャツを隅に退けてベッドに寝転んだ。


 すると、タイミングを計ったかのように真価の携帯デバイスがメールの着信を伝えた。

 この時代の携帯デバイスは小型化され、真価が使っているのは腕時計タイプだ。普段はただの腕時計だが、タッチすることでウインドウが開き電話・メールの送受信、Webブラウザの閲覧などを行うことができる。

 このタイプはもうすでに古いタイプだが、真価は愛用している。


 それはさておき。



「ん……なんだ?」


 真価はメールを開いた。相手は友人の荒谷(あらや)遊馬(ゆうま)だった。真価と多くの授業を共に受け、真価の趣味を理解する友人だった。


「なんだろう……なっと」


 メールには『今から電話してもいいか』という旨が書かれてあった。それを読んだ真価は、すぐさま電話を掛けた。真価は荒谷とはめったなことで電話なぞしたりしないため、余程のことがあったんだろうと思ったからだ。


 プルル……プルル、ガチャ


「もしもし……」

「おー、武旗(たけはた)。今時間あるか?」

「いきなりだな、まぁ12時ぐらいまでなら大丈夫だぞ」

「ふふん。大丈夫だって、俺も12時から用事があるからさ」

「そうか、で? 何の用?」

「おぅ、いやー今暇でね」

「は? えっとー」

「今やってるオンラインゲームがメンテ中なんだわ。そのゲームに集中するために他のゲームもやらないことにしているし、とにかく暇なんだよ。だから暇つぶし付き合え」

「だったら勉強でもしていればいいだろ。まぁ、いいけどな……」


 真価は荒谷の話に付き合うことにした。


「武旗は『Merit and Monster Online』ってゲーム知ってるか? 今話題のVRMMORPGなんだが」

「あー、知ってるぞ、それくらい」

「ほぅ、それなら話が早いぜ。てっきり知らないかと思ったぜ」

「おいおい、さすがに知ってるぞ。プレイしているから当たり前だ」

「ええっ! どうしたんだよ、お前……本当に武旗か?」

「そんなに驚くことかよ……」

「だってさ、『亀しか興味ありません(キリッ』だっただろ?」

「いや、そこまではないだろ? ……俺だってゲームに興味はあるさ」

「嘘つけ。どうせ、アレだろ? MMOのグラフィックに釣られた口だろ?」

「半分はあってる」

「もう半分は?」

「妹に頼まれて」

「くっははは!」

「笑うな! 確かに傍から聞くと笑いたくなる気持ちはわかるんだけどな。だけど、笑うなって」

「なるほどなぁ、それならお前がMMOやり始めたのがわかる」

「はぁ……で、お前はどうなんだ?」

「俺はゲームが好きだからな。情報が流れ始めた時から知ってる」

「そうか……そうだよな、お前なら」


 結局二人ともMMOをプレイしていることがわかったため、真価は荒谷にMMOの話を振ることにした。


「荒谷はどういうメリット選んだ?」

「あぁ、普通は教えないもんなんだけど、お前だけには教えてやる」

「おー、ありがとな」

「俺が選んだメリットは『斧』と『声』と『盾防御』と『脚』と『食事』だな。典型的な前衛職バリバリのメリット構成だぜ。で、武旗、お前は?」

「俺は『土属性魔法』と『魔力運用』と『調教(テイム)』と『棒術』と『付与術(エンチャント)』だな」

「おいおい、たしかにいくつか定番ものを押さえてはいるが、随分とまあ個性的なメリット選んでんな。序盤は苦労するだろうに」

「気にするな、それが俺のスタイルだ」

「まぁ、そうだな。そうそう、レベルはどこまでいったか?」

「レベルは7だ」

「おっ、なかなか頑張ったな。俺も7だ。まぁ、昨日はレベルが上がり易かったし。といってもお前魔法使いビルドなんだろ?」

「そうだな、主力は『土属性魔法』だしINT優先だからな」

「魔法使いっていうのは序盤は扱い辛く敵を倒し辛いっていうのが常識なんだがな。MPとかすぐに無くなったりしないのか?」

「確かにそうだけど、無くなったら『棒術』使うからそこまで大変じゃないぞ」

「うーん、『棒術』で何とかなるものか? まぁ、それだけお前が頑張ったってことでいいか。それで、話があるんだが……」

「なんだ?」

「俺のパーティに入らないか?」

「だが、断る!」

「ちょっ……一度は行ってみたい断り文句をここで言うなよ」

「言ってみたかっただけだ。しかし、なぜ俺に?」

「それはいくつか理由があってな。まず、チームの一人が今日はどうしてもログインできないからだ」

「ふーん、それで他には?」

「他にはだな、せっかくだからお前と一緒にやってみたいというのもあるし、魔法使い系は俺らのパーティにとってありがたいからな」

「俺は仲間でわいわいっていうのが得意じゃないんだけど、大丈夫か?」

「あーそれは大丈夫だと思うぞ。みんな感じいい人だし」

「そうか、それじゃ頼む」

「頼むって言うのはこっちだって。それじゃ、MMO(むこう)でわかるように連絡先と待ち合わせ場所を―――」


 そんなこんなあって真価は本日、荒谷のパーティと共にすることになった。






 ■■■


「おおーい、こっちだ」


 荒谷:レオナルドはワースを大声で呼んだ。


 メンテナンスが無事終了し、真価はMMOで荒谷のパーティと共にグリーンロードを越えて新たな街へ行くことになっていた。


「君がワース君だね?」


 そう声を掛けてきたのは、四角い眼鏡をかけたいかにも知的そうな青年だった。ローブに身を包んでいてより一層知的な印象を深めている。


「えぇ、今日は一日よろしくお願いします」

「私はベロッキオだ。いつも弟が世話になってるよ。仲良くしてくれ」

「あぁ、はい。……ん? ちょっと、レオナルド」


 ワースは隣に立つレオナルドに顔を向けた。


「あぁ、そうだ。ベロッキオは俺の兄だ。言ってなかったか」

「そうか、兄弟でやっているのか……へぇ」

「お前のところも同じだろうに」

「それじゃ改めて、ワース君。私は見ての通り魔法使いだ。炎属性魔法を主に使っている。今日は一日頼むよ」

「こちらこそ、俺は土属性魔法を主力にしているので。それとテイマーです」


 ワースの最後に言った台詞にベロッキオは目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。


「テイマーということは、君は『調教(テイム)』のメリットを取ったんだろ? 初心者に有りがちなミスだな。あれはLUC値が低い間はほとんど効果を発揮しないじゃないか。あれは取るならばせめてもっとレベルを上げてだな。とにかく、悪いことは言わないからすぐに別のメリットを選ぶべきだ」


 ベロッキオのあんまりな言い草にワースは噛み付くように言い返す。


「お言葉ですが、そこまで捨てたものじゃないですよ。俺はすでにテイムに成功していますし」

「「まじか!?」」


 レオナルドとベロッキオは声を揃えたかのように驚きの声を上げた。



「リーダー、そろそろそこのひよっこを紹介してくれないか?」


 今まで後ろで押し黙っていた大柄で筋肉質な男が言った。


「おおっと、すまない。ワース君、紹介するよ、我がチームを」


 ベロッキオが示した先に大柄な男と目付きの鋭い女がいた。


「こっちの男の方がカイト。そっちの女の方がローズだ」

「よろしくな、坊主」

「……よろしく」


 カイトは快活に、ローズは倦怠感を隠そうともせずに挨拶をした。


「どうも、今日はよろしくお願いします」


 ワースはペこりと頭を下げた。


「それと、今日は来ていないフィレンツェを入れて、我がチーム『芸術の体現者』だ」

「兄さん、昨日まで言っていた名前と違うぞ。正しい名前は『未知への冒険者』だ」

「あれ、そうだったか? いや、違うぞ。俺が思うに……」


 間違ったチームの名前を言い放ったベロッキオを尻目にローズがワースに囁いた。


「正しくは『チョコレート・カレーライス』よ。間違えるんじゃないわよ。変な名前で呼ばれるのは堪らないから」

「ローズさん、ありがとうございます」

「別に間違われるのが嫌だったからよ。ありがとうなんて要らないわ。それと、私のことは別に呼び捨てで構わないわ」


 そう言いながらも少し顔を赤くするローズだった。




「リーダー、もういいですから早くグリーンロードに行きましょうぜ」


 カイトが声をかけるまで、ベロッキオとレオナルドはチームの名前をあれこれ言い合っているのだった。





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