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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
89/114

26話 センターオブザシェル

 ■■■


 ワース達は慣れた手つきでエボニーフォレストタートルの背中へ駆け上り、鬱蒼とした森の中を突き進む。エボニーフォレストタートルの甲羅の上が大ざっぱに描かれたマップを頼りに中央にある山へ足を進める。辺りは木々が乱立して生えており、足場が悪い。時に木を切り倒しながら、なるべく歩きやすいようにそれでいて目的の場所まで近い道を模索しながら道なき道を進む。


 行軍の途中で何度かエボルタートルの集団との戦闘になった。前回出会った大群ではなく、6体ほどの小規模な集団だったため、ワース達は大して苦労もせずに撃破していった。


 やがて、昨日エボルタートルと戦った開けた場所に出る。テトラは一層警戒を強めるが、探してもエボルタートルの存在は見つからなかった。どうやらここは前回エボルタートルの大群との戦闘があったものの再び戦闘になることは無いようだった。確認してみたところ、この場所はHPやMPが自然回復する安全地帯に設定され直されていた。エボルタートルの大群を倒すことで解放される安全地帯だったらしい。ワース達は警戒を続けたまま、一旦そこで休憩を取ることにした。



「ふぅ……」

「テトラ、お疲れ様」

「……ん、なんてことない。索敵は私の仕事だから。今はノアやアカネに任せてるけど」

「そんなことないぞ、テトラのおかげで急にモンスターに襲い掛かられることがなくて済んでいるんだからな」

「……ワースだって頑張ってる。私も頑張らなきゃ」

「俺はそんなことないさ。ただ俺は自分がしたことをみんなを巻き込んでやってるだけだ」

「ワースはそう言うけど、私、私たちはそんなワースがいいから付いていってる。気にしなくていい」

「そ、そうか。まぁ、俺はいつもテトラに感謝してるからな」

「……うん」


 ワースはよっこいしょと言いながら杖を支えにして地面に座り直す。


「さて、あそこに見えるのが目的の山だな」

「そう。『エボニーフォレストマウンテン』って名前付いてる」

「まずあそこの麓まで行って探索だな。いかにもな洞窟とかあるとわかりやすいんだけどな」

「ん。案外山頂に入口があるかもしれない」

「なるほど。普通だとそんなところに入口なんてありゃしないけど、これはゲームだもんな。それぐらいしてるかもしれないな」


 ワースはすり寄ってくるべのむんを撫でながらテトラと今後の行動を確認していく。


「アイテムは問題ないよな」

「大した戦闘してないから損耗なし」

「ここに来るまでに武器防具の消耗は、もちろん大丈夫だな」

「これぐらいなら問題なし。この後の戦闘でも壊れたりすることはないと思う。ワースは気にしすぎ」

「かもな。どうも気になってな」


「おーい、ワース」

「あぁ、なんだ?」

「向こうの方に見える物陰なんだけど……」

「ほぅ……」


 ノアに呼ばれて話を聞きに行くワースの後ろ姿を見て、テトラはふっと口元を緩ませた。






 ■■■


 エボニーフォレストマウンテン麓。それまでタートルエボニーの木が生い茂っていた森だったが、木々がまばらになり急に盛り上がるようになった場所がここエボニーフォレストマウンテンだ。タートルエボニーが生えているから黒々とした山で、かなりの急斜面になっており上るのに一苦労するのが手に取るようにわかった。

 ここに来るまでにワース達はさらに2回の戦闘を行った。これもまたエボルタ―トルの小集団との戦闘で、おそらくこの小集団はプレーヤーのパーティに値するものと考えられる、ワース達は難なく被害を負うことなく倒した。被害と言えばせいぜいニャルラが大技の発動後に着地を失敗し、その隙にエボルタートルに殴られたぐらいだった。

 麓にたどり着いたワース達は警戒を続けながらぐるりと周辺の調査を行った。途中で後方からやって来た他のプレーヤー達と合流し、調査を進める。具体的にはどこかに通じる洞窟がないかの調査をあれこれ2時間くらいかけて行った。途中どこからともなく現れたエボルタートルの小集団との戦闘が幾度となく発生したが、特に消耗することなくエボルタートルを倒し終えた。



「で、結局洞窟らしきものは無しか」

「やっぱりテンプレよろしく山頂に何かあるんじゃない?」

「なのかな。とりあえず山頂を目指すとするか。もしそこに何もなければもう一度麓から探索していくということにしよう」


 ワースはぽんぽんと杖で地面を叩き、一緒に探索している他のパーティと連絡を取り合う。ここにいるプレーヤー達はワース達を合わせ50人ほど。それを半分に分け、片方はそのまま麓の探索を続行し、もう片方が山頂を目指すことに決めた。ワース達は当然山頂を目指す方に入り、準備が整ったところで山頂を目指して行軍を開始した。


 ワース達と共に山頂を目指すプレーヤー達は『ドラゴンナイツ』と『世界を渡る猟団』のクランメンバーに加え、『黒牙団』や『墜ち星(シューティングスター)』、『月夜の猫ぬこ団』などといったあまりメジャーじゃないクランのプレーヤーまで含まれておりかなり雑多な面子になっていた。そのプレーヤー達のほとんどがなぜかワースのことを知っており、自己紹介は早めに済んだ。亀が好きすぎる魔法使いとして、攻略に関わっている訳でもないワースがなんだかんだこの山頂を目指す一団のまとめ役に仕立て上げられ、一行は道なき道を進み山頂を目指す。


 テトラや斥候職のプレーヤーが先行して道を切り開き、その後が支援系魔法職系のプレーヤーが武器攻撃職に囲まれるようにして山を登る。ところどころ道が険しく登りにくいところも皆協力して山頂を目指す。





 そして。



「山頂だー」

「着いたぞー」

「やふー」


 山頂にたどり着けたことにプレーヤー達が歓声を上げる中、ワースはテトラとポッドという名の『(シャドゥ)』職のプレーヤーに話しかけた。


「どうだ、それらしきものはあったか?」

「うん、あった」

「こっちです」


 テトラとポッドに連れられるようにして山頂から少し離れたところへ行く。


「そっちは地上部隊の魔法攻撃が飛んできたりして危ないぞ」

「来てもだいぶ威力減衰してるから問題ない」

「まぁまぁ、そこは気を付けてくださいなっと。これです」

「ん?」


 急斜面にへばりつくようにして大きく平べったい岩が何か蓋するようにへばりついていた。


「たぶんこれが入口なんかじゃないかと。中に空間があるみたいですし」

「だけど、なにか鍵が必要みたい」

「あぁ、そうか……それじゃあ無理か」


 ワースがそれをつんつんと杖で叩いていると、ワースの背中に乗っていたべのむんがそろそろと降りてその岩の上に立った。


「べのむんも気になるか」

「ぐばぁ」

「そうかそうか」

「ぐば、ぐばばあ」

「あぁ、何かの拍子に開くんじゃないかと、そう思うのか」


 ワースとベのむんが会話する様子を見て、ポッドは思わず口を開く。


「あれでわかるんですか、凄いですね」

「あれがいつも。いつもはもっと凄い」

「さすが『亀が好きすぎる魔法使い』と言ったところか……」


 ポッドが妙なところで感心している中、ぽーんと音が鳴り響いた。


『エボニーフォレストタートルのHPが1割を切りました。第2段階目HPロックが作動します。それに伴いシャッターを開放します』


 そのアナウンスと共に、ベのむんの姿は掻き消された。

 いや、正確にはべのむんが立っていた岩がスライドしてぽっかりと穴が開き、そこにべのむんが落ちていったのである。


「べ、べのむーーーーーーーん!!」


 ワースはそんな叫び声を上げながら自らも穴の中へ入っていった。


 残された二人は唖然としたまましばらく動けなかった。


「えっと……」

「と、とりあえず他の人にも連絡」

「そ、そうだね……」


 入口が開かれ、プレーヤー達は先に入っていったワースを追い掛けるようにして洞窟の中に足を踏み入れた。


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