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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
88/114

25話 タートルシックス

*応竜→黄竜へ修正しました。

 ■■■


 レイドイベントが始まって6日目。いよいよレイドボス戦も大詰めと言ったところ。


 『Merit and Monster Online』のゲーム内アナウンスと公式ホームページの両方に運営側からのメッセージが追加された。




 『帝都攻略』追加情報


 レイドボス第1段階目、四方門の守護獣の体力がだいぶ落ちてきました。その甲斐あって、なぜ守護獣が暴れ出したのか明らかになりました。


 守護獣たちは帝都中央に封印されている強大な力を持つ存在の放つ瘴気に囚われていたのです。

 瘴気から解き放つ方法は、一旦守護獣を倒すことです。倒せば守護獣は瘴気から解き放たれ、帝都へ赴くプレーヤー達を祝福してくれるでしょう。

 しかし、事態は急を要しています。守護獣の近くで一際瘴気を放つ存在が確認されました。一刻も早く守護獣を正気を取り戻させてください。


 帝都内から観測される瘴気がどんどん濃くなっていっています。異変はこの封印された存在から漏れ出した瘴気によって引き起こされたものであることが確定しています。なぜ瘴気が漏れ出したのか、この強大な力を持つ存在とは何か、無事に守護獣を助け出し帝都に入ってその目で確かめてください。



 注意:もしもレイドボス第1段階目の時点で時間内に守護獣を倒せなかった場合、ワールドペナルティが発生します。ワールドペナルティとは始まりの街を除いたフィールド全体に影響のあるペナルティです。ペナルティ内容はモンスターレベルの上昇・一部フィールドの破壊・住民の好感度下降に加え、特殊ペナルティです。くれぐれも時間内に守護獣を倒しきってください。








 ワース達が遭遇した『Edge to take along with (道連れの刃)』は北門だけでなく他の門でもその存在を確認された。ヴァーミリオンフェニックスの足元に、ラピスラズリブルードラゴンの隣に、シルバーライトニングタイガーの背中に、そいつは現れた。周囲にたまたま居合わせたプレーヤーを屠り、そして陽炎のように姿を霞ませて消えた。まるで竜巻のように、ぽっと現れ何人も巻き込み、そして何もなかったように消えた。



 そして迎えた6日目。


 ワースは……



「……『彼の名は黒盾。災厄**の封印の鍵を握る四方の番人の一人』」

「『犠牲になった贄と共に封印の地で眠る』」

「……『その身に抱え込んだ怨念を封じ込め、守護の任に就く』」

「ここまでが一節ですね。他にも、『彼の者、艇を作り己とした。身に降り注ぐ怨念を乗せるべく』」

「この一節から大体察せられますね」

「そうだ。エボニーフォレストタートル、と呼んでいるものは実は船で、その中には黒盾という人がいてそれがボスという訳。で、帝都に封印された強大な力を持つ存在、名前は**ってわからないけど、たぶん**は四神、いや五獣から黄竜に該当するんだろうね。その存在の封印に黒盾は関わっていて、おそらく瘴気に呑まれていると。ま、こういうことだね」

「えぇ。そうなるとこの北門攻略には黒盾という人を見つけないといけない」

「ざっつらいと。それとこんなのもあるね。『蒼剣、朱槍、黒盾、白爪の力を寄り集め、封印は為された』

『鍵は封印が解かれることの無いよう四十八に分け世界にばら撒いた』」

「それは……」

「考えるに、鍵はフィールドのあちこちに落ちていて、それが全部で48個あるってことだね」

「関係あるようなないような」

「まぁ、今は考えることない話だね。今はエボニーフォレストタートルを攻略しないと」

「えぇ、そのためにその黒盾を探さないといけない」

「たぶんだけど、中央の山の中にいるんじゃないかな。そういういかにもな場所で待ち構えていたりするもんでしょう」

「そうですね。これだけの調査ありがとうございます」

「いやいや、初めはここまでとは思ってなかったけど、このゲームの世界のことがいろいろわかってきて面白いからいいよ。いやぁ、こんなバックボーンが隠されているなんて運営が憎いねぇ。初めっからレイドイベントを仕込んでいたとしか思えないよ」


 そう言ってミリーはからからと笑い声を上げた。


 ここは喫茶店『くらむぼん』。ワースはここでミリーに引き続き頼んでいたユリレシア古墳群の調査の結果を聞いていた。ユリレシア古墳群にはいくつもの石碑が見つかり、そこにこのMMOの世界について記述されたものがあった。かなり昔のことが書かれていて、当時の人の暮らしぶりや歴史、言い伝えなどが断片的に書かれていた。おそらくはゲーム制作陣のお遊びなのだろうが、その中にはこのレイドイベントに関わりのありそうな情報が書かれていた。


「おっと、もう時間か」

「おや、そんな時間だったか。僕は直接力になれないけど、何かあったらすぐに相談してくれて構わないよ。なんといっても君と僕の仲だしね」

「はいはい。それじゃ行きますね」

「頑張っておいでー」



 手を振るミリーを後に、ワースはプレキャビーの集合場所へ向かった。







 ■■■


 ワースはミドリの背中に乗りながら意気揚々と杖を掲げる。昨日やり残していた課題を朝のうちにやり終え無事に提出し大学の単位に関する憂いを無くし、昨日感じた恐怖のことはすっぱり忘れ去った今、ワースには何も怖いものはなかった。


「よし、今日も行くぞ」

「ワース、どうかしたんだ?」

「いや、昨日あんなことがあったけどさ、俺たちは今日を含めて後二日しかないんだからやるぞっていう意思表示」

「あぁ、なるほど。てっきり気が触れたのかと」

「ノア、それ酷くないか?」

「いやいや、いつになくやる気を出すワースなんて亀が関係しないと見られないからね」

「たまにはやる気出すさ」


 ワースとノアはこんな会話を交わし。


「あー昨日は眠れなかった」

「大丈夫?」

「いやーあんなざっぱりいかれるといくらゲームでも肝が冷えるわ。人が死ぬときってあんなに呆然とするもんなんだねって理解できたよ」

「……よしよし」

「テトラちゃんありがとー全然手が届いてないけど」

「心配してた」

「ありがとありがと」


 マリンとテトラはまるで姉妹のようにハートフルな光景を生み出し。


「おいおい子音、今からそんな怯えてたって何も始まらないぞ」

「いやだって……またあれが来るんじゃないかって思ったら」

「あーまぁわからんでもないんだけどな。でも、所詮ゲームだろ。実際に死ぬわけじゃないし、安心しろって」

「まったくあれって何だったんだろうねーバグ?」

「他の門でも見つかったみたいっすよ。イベントモンスターじゃないっすかね」

「じゃバグじゃないのか―まったくよくもあんなのをゲーム制作陣が作ったよね。あれにはびっくりしたわー」

「同感っす。悪魔かと思ったっすねー」

「アクマ……うぅ」

「おいこら、余計に振るえるなって。あるふぁさん、これどうしましょ」

「叩けば直るって。ほいっ」

「痛っ、何するんですか姉さん!」

「ほら直った」

「あーなるほど」

「昔のテレビみたいっすね」


 こんな感じで戦闘前なのにどこか気の抜けた光景が繰り広げられていた。



「おっと、後1分か。もう一回確認するけど、今日もまたエボニーフォレストタートルの背中に飛び乗って中央の山へ突入してそこにいるだろうボスを倒す。いいな?」

「その情報源が不確かだけど、まぁもう一度HPロック掛かるかもしれないし懸念材料は減らしておく必要があるね」

「うんうん、それで構わないよ」

「……ばっちぐー」

「とにかく突撃っすね」

「問題ないです」

「それで大丈夫だねー」

「何もなくても地上部隊がなんとかしてくれるだろうし」


 ワースの言葉に皆が頷く。ワース達の後ろには同じようにエボニーフォレストタートルの背中に乗り込むプレーヤー達の一団が控えている。彼らも士気を高めている。



「それじゃ行くぞ!」

「「「おう!」」」


 帝都北門の扉が開き、プレーヤー達はその中へ突撃した。





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