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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
84/114

21話 ターニングポイント

 ■■■


 あるプレーヤー達はエボニーフォレストタートルの背中を目指して突き進む。エボニーフォレストタートルのHPが唐突にロックされ、それが何らかの理由によって解除されないことが分かった現在、それを探るべくまだ探索が行われていない甲羅の上に行くのは道理だろう。先日ワースとノアが甲羅の上に行くことができてボスらしきモンスターと交戦したという情報は、エボニーフォレストタートルの広大な甲羅の上に攻略のカギがあることを示唆していた。


 いくつものパーティに分かれたプレーヤー達はそれぞれのルートをたどってエボニーフォレストタートルの甲羅の上へと上がる。運悪く登っている最中に落ちたり落石に巻き込まれてあえなく散ったプレーヤーもいたが、大方のプレーヤー達は無事にエボニーフォレストタートルの甲羅の上にたどり着いた。


 事前に情報があったおかげで混乱はなく、プレーヤー達はあると考えられる東西南北の玄室を目指して探索が行われた。結果2時間以内の間に該当の石室の発見。南玄室にはワース達『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』がすでにアタックしていて、残る3つの玄室にはそれぞれ発見したパーティが突入した。最深部にはすでにワース達が遭遇した通り墓守との戦闘があった。ワース達と違いいくら情報があれど戦闘に関しては情報通りにはいかず初見での戦闘となりかなりの苦戦が強いられた。それでも東玄室ではファーストアタックでの墓守の討伐に成功し、続いて北玄室では後続のパーティによって墓守が撃破され、残る西玄室も何度かパーティが壊滅しながらも何度目かのパーティのトライによって墓守を倒すことができた。


『エボニーフォレストタートルのHPロックの1-Eロックが解除されました。』

『エボニーフォレストタートルのHPロックの1-Nロックが解除されました。』

『エボニーフォレストタートルのHPロックの1-Wロックが解除されました。』

『これにより第1ロックが解除されました。これよりエボニーフォレストタートルの行動が再開されます』





 東西南北の玄室最深部にいた墓守がすべて倒されるのと同時に、それまで動きが鈍かったエボニーフォレストタートルが目をカッと見開き一際大きな声で嘶いた。背中に背負われた山が地響きを立てて動き出し、それに合わせて落石の勢いが強まる。地面に亀裂が入り、エボニーフォレストタートルの体はずずっと地面を潜る。脚がちょうど地面に埋まるものの、地響きは収まるどころか一層強くなり、地面からは鋭利な岩がせり上がり、侵入者を拒むような柵のように現れた。プレーヤー達はこの変化に驚きながらも攻めあぐねていた状況が打破できたことに歓喜の声を上げた。


 そして、それから1時間後。エボニーフォレストタートルのHPバー7本目に到達すると同じ頃に一層苛烈になったエボニーフォレストタートル攻撃の前にプレーヤー達は攻め切ることができずに次の日へ戦いを持ち越すことになった。まだ戦いは終わらない。ちょうど折り返し地点を迎えたばかりだ。








 ■■■


 ちょうど北門でエボニーフォレストタートルのHPロックが解除されプレーヤー達が雄たけびを上げながら突撃していくのと同じ頃。

 南門では、ヴァーミリオンフェニックスを前にしてプレーヤー達は苦戦を強いられていた。



 現在ヴァーミリオンフェニックスのHPバーは5本ある内の2本目半ばまで削れている。ヴァーミリオンフェニックスは、初めHPバーは1本だったがそれが尽きると復活し今度は3本に増えた。それをまた削り切るとまたまた復活してきて5本に増えた。復活を遂げるたびに攻撃の手は強くなる一方で、新たに現れたHPをなんとか減らし、空に浮かぶヴァーミリオンフェニックスを体力を消し飛ばし地面に引き下ろした。


 それまでの傾向から再び復活し、今度は7本のHPを持ったヴァーミリオンフェニックスが現れるかと想定されていた。

 しかし、倒されたヴァーミリオンフェニックスは自身を火に包み再び姿を現した時、その姿はそれまでの鮮やかな朱色に染まる1羽の鳥ではなく、そこには赤・黄・青・紫・白の色に分かれた5羽のヴァーミリオンフェニックス達が羽を広げて天を仰いでいた。

 朱雀、別名鳳凰には諸説あり、雄雌がいるという説がある。それから考えればヴァーミリオンフェニックスも2羽になることは想定されていたが、まさか毛詩陸疏広要の5色の鳥がデザインされていたなんて誰もが考え付かなかった。





「ちょっと、これ……」

「これは……倒しきれるのか?」


 メイは盛大に炎を吹き上げる赤いヴァーミリオンフェニックスを前にしながらそう呟いた。この5羽のヴァーミリオンフェニックスのHPはそれぞれが5本のHPバーを持ち、全部の個体のHPバーを1本ずつ削らないといけないよういなっている。仮に5羽のHPバーが1本目だった時、どれかの1本目がまだ残っている限り他の個体の2本目を削ることはできないのだ。簡単なHPロックがかかっていると言ってもいい。おかげで5羽に平等にダメージを与えていかなくてはいけない。

 5色のヴァーミリオンフェニックスは色によって特徴がある。赤は主に炎・焔属性魔法を地上で撃ち放つ。黄は中空から鋭利な爪や嘴で飛び掛かる。青は赤に寄り添いながら翼をはためかせ近づくものを吹き飛ばしていく。紫は上空を飛び回り火の粉を全体へ撒き散らす。白は後方から羽を飛ばし、さらに目からビームを放つ。

 これだけ多彩な攻撃を、HPが減るたびにより強力に放ってくるヴァーミリオンフェニックスを前に、プレーヤー達は次々と敗れていく。


 メイと一緒に戦っていた『五色の乙女』のメンバーたちもその攻撃の前に次々と倒れていきそこにはメイしか残っていなかった。

 そこへ『世界を渡る猟団』のクルエールがやって来て傍らで共に戦っている状態だった。




「やっぱり5羽はきついって」

「想定外だ、こんなの。ここは2羽ぐらいが普通だろ」

「ほんとねーまさかの5羽とか運営に抗議したい気分だわー」



 メイは放たれる火炎球を盾で受け流し、赤のヴァーミリオンフェニックスへ足を進める。基本的に赤のヴァーミリオンフェニックスは移動しないため、攻撃しやすいのだが、その分攻撃してくるペースが速い。その上他のヴァーミリオンフェニックスの攻撃もあるため、メイは盾で攻撃をいなすとすぐに接近を試みて攻撃を加える。クルエールも同じように身の丈ほどの大剣を器用に操って赤のヴァーミリオンフェニックスへ攻撃を与えていく。



「これで頑張るのにゃー」

「ふんっ、ふんっ!」

「おいいぃぃっ!? いきなりタゲを取らないでくれよぉ」


 メイ達の向こう側では、猫のような姿の燕尾服の女性と筋肉ムキムキの巨漢と全身鎧フルフェイスに身を包んだ男が曲芸のような変態的動きをして赤のヴァーミリオンフェニックスを攻撃していた。


「おい、ミルフィ~ユ。こっちにもバフ掛けてくれないか!?」

「田中くんはそのまま頑張るのにゃーこっちはいろいろと忙しいのにゃー」

「そ、そんなぁ……!」

「筋肉があればそんなこと屁でもないぞ」

「天下無双のおっちゃんはそれでもいいだろうけど、こっちとらただのゲーム廃人でしかないんだぞ。いくらゲーム補正で肉体が強化されているったってVRゲーだから限界がある、って」

「筋肉こそ正義。お主も鍛えればよかろう」

「天下無双ちゃんはほんと筋肉大好きだにゃーほれぼれするにゃー」

「そうだろうそうだろう」


 喋っている会話はそれこそふざけたものだが、その動きはキレがあり赤のヴァーミリオンフェニックスの動きを予測してそれに合わせて攻撃していた。




「やば、黄色が来るぞ!!」


 後方で魔法攻撃を仕掛ける一団から危険喚起の声がかかり、他のヴァーミリオンフェニックスと戦っているプレーヤー達はそれに備え攻撃の手を止める。



「うへぇ、また黄色いのが来るの?」

「仕方ない。メイ、頼むぞ」

「うん、クルエールの分もガードしておくよ」


 メイは赤の赤のヴァーミリオンフェニックスから距離を取りつつ黄のヴァーミリオンフェニックスの攻撃に備え盾を上に構えた。








 ■■■


 北門では最初想定されていた以上の激戦が繰り広げられている。

 それは南門でも同じだった。もちろん東門や西門でも同じことが言える。東門のラピスラズリブルードラゴンがヒールを連発したり、西門のシルバーライトニングタイガーが自身の配下のモンスターを大量に召喚したりとどこでも激戦が繰り広げられていた。



 ちょうど今日が4日目。明日からは7日間というタイムリミットの後半戦が始まる。

 プレーヤー達は無事にレイドボスを倒し、レイドイベントの帝都に入ることができるのか。


 戦いの行方は、まだわからない。これがまだ折り返し地点(ターニングポイント)なのだから。






オリキャラを送っていただいたアルスとロメリアさんに感謝を。

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