20話 デッドオア
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先に動いたのは墓守に一番近いワースだった。右手に持っていた杖を目にも留まらぬ速さで『南玄室の墓守』の胸元に突き出し、突き攻撃に加えて付与術を相手に掛ける。
「『鈍足付与』」
「……むぅ」
突き出された杖の先端を鎌で受け止め跳ね返し掛けられた付与術まで弾き飛ばす『南玄室の墓守』。『南玄室の墓守』は鎌でワースの攻撃を弾くと同時に鎌を一閃させるが、攻撃を弾かれたワースはその勢いのまま後退しその一閃を躱した。
「スイッチ」
「応ッ!!」
ワースが空けたスペースに入り込むようにニャルラが前に出て2本の剣を振るう。
「『双牙』ァアアアアア!」
両手に構えられた2本の剣が獣の鋭利な牙のように下から突き上がり、『南玄室の墓守』へ刺突をお見舞いする。鈍色に光る剣戟を『南玄室の墓守』は上体を逸らすことによって回避する。しかし、その剣が纏うオーラがぎりぎりで回避する『南玄室の墓守』の上体をかすかに焦がしわずかにHPを削る。
「チィッ!」
『南玄室の墓守』は地面に倒れ込むようにしながら後ろに下がり鎌を盾に魔法を詠唱しはじめる。前回と違い、前衛特化であるニャルラが前に出てため『南玄室の墓守』にとって武器を打ち合うのは分が悪いと判断したようだ。『南玄室の墓守』の体の周りに青色の粒子が纏わりつき、足元には円形の複雑な文様が描かれた魔法陣が怪しく輝く。
「接続:『妖精剣ニンフ』」
攻撃を躱されわずかに技後硬直するニャルラの上から、ノアが『召喚術』と『大剣』の融合魔法を使い一際碧く輝いた大剣を上段から振り下ろしながら『南玄室の墓守』へ突進した。魔法詠唱中によりその場から移動できない『南玄室の墓守』は、鈍色のオーラに包まれた鎌を下から振り上げて迎撃する。中空で大剣と鎌がぶつかり合い火花を散らす。上から攻めるノアの方が押していた。しかし、そうこうしている間に魔法を詠唱し終えた『南玄室の墓守』はノア目掛けて魔法を解き放つ。
「『ヘルブリザード』」
どす黒い煙のような吹雪がノアの体を吹き飛ばしワース達へ襲い掛かる。ノアは吹き飛ばされ体を凍り付かせられながらも、前回の経験を活かし大剣を盾にすることによって大事に至らなかった。『ヘルブリザード』はノアに当たるだけにとどまらず広範囲まで広がった。前に出ていたニャルラは体の一部を氷付かせながらもそれに構うことなく『南玄室の墓守』へ剣を振るう。同じく前にいたワースは杖を扇風機のように回転させガードする『棒術』のスキルを使ってなんとか直撃を避けた。他のメンバーも後ろに下がったりガードすることによって『ヘルブリザード』を防ぐ。プレーヤー達を攻撃するだけではなく、『ヘルブリザード』はさらにけして広くない部屋を凍り付かせ氷の世界を生み出す。前回ワースとノアの二人で戦った時よりも威力が上がっていて、これは『南玄室の墓守』がプレーヤーの数によって強さが変動することを示していた。
「『アイスメルト』」
『ヘルブリザード』によって少なからず『氷結』ないしは『凍傷』の状態異常に掛かったパーティメンバーを子音は回復魔法で癒していく。暖かな光がそれぞれパーティメンバーたちを包み込み、『ヘルブリザード』の冷たさを忘れさせた。
「ディノ、焼き尽くせ」
「ぐおおおおおお!!」
あるふぁの指示に従ってディノは『南玄室の墓守』の傍へ近寄り、口から高熱のブレスを放った。ファイアリザードマンであるディノのブレスはドラゴンのものと似通っていてその炎は『ヘルブリザード』の氷を容易く溶かした。『南玄室の墓守』はその炎を鎌で薙ぎ払い、攻撃対象をディノに変更した。漆黒の悪魔がディノに鎌を振るおうとするや否や、その鎌を持つ腕に何本もの吹き矢が突き刺さり、攻撃タイミングをずらした。ディノはその斬撃を紙一重で躱し、炎を纏うカトラスを振るい『南玄室の墓守』を攻め立てる。『南玄室の墓守』は腕に突き刺さる痺れ粉付きの吹き矢を忌々しく睨み付け、吹き矢を放ってきたあるふぁとディノに纏めて斬撃を叩き付ける。しかし吹き矢の痺れ粉により腕を思うように動かせない『南玄室の墓守』の攻撃を後ろからタイミングを計って前に出てきたマリンの盾によって全て受け止められた。本来なら受け止める盾ごと吹き飛ばす攻撃力であるが、立て続けに攻撃を喰らい消耗しているためそこまで攻撃力が落ちていた。
「このまま攻め立てるぞ!」
「「「了解!」」」
戦況が優勢だと感じたワースはパーティメンバーに檄を飛ばす。ワースは状況を見据えながらその場に適した付与術をパーティメンバーに施しながら常に戦況に目を配り続けた。
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戦闘開始から45分が経った。風はワース達の方へ吹いていて、戦況は良い方向へ進んでいた。
「『灼熱の烈風』」
アカネの鎌と『南玄室の墓守』の鎌ががっちり噛み合った状態でアカネは魔法を『南玄室の墓守』の背後に指定し発動させる。炎を纏った竜巻が指定した座標に発生し、身動きの取れない『南玄室の墓守』の背中を焼いた。『南玄室の墓守』の着ていた漆黒のローブはずたずたになっており、もうすでに『南玄室の墓守』の体力は尽きそうであることを示していた。
「ッカァアアアア! 『デスクライムエッジ』」
「『キャンセルアクセル』」
「ぐぁああああ!」
側面から鋭角にテトラが切り込んでいく。闇に隠れ隙を窺い、好機を逃さすざくざく攻撃を加えていくテトラはまさに暗殺者といったところだろうか。
「『コンセレート』、砕け、その命を」
ワースは攻撃の精度を高める付与術を施しつつ、口頭詠唱による土属性魔法を行使する。
「その末期の命に従い、敵を穿て。『カースエッジ』」
ワースは杖の先からいくつにも砕けた岩を発射する。それらは『南玄室の墓守』の体へ吸い付くように飛んでいく。
「こっちにも気を付けなってよ」
隙間を縫うようにしてニャルラが両手の剣を前に突き出しながら低い姿勢のままスライディングし、『南玄室の墓守』の足元を斬り付ける。
『南玄室の墓守』は苦しそうな顔をしながらその攻撃を受け体をかくかく動かしながら鎌を振り回す。しかしそれはただ足掻きにしかならず、状況は好転しなかった。
「これで止め」
姿を再び現したテトラは『南玄室の墓守』の背後に忍刀を突き立てる。ぶわっと黒い靄が噴き出し、『南玄室の墓守』の動きがぴたりと止まった。見れば『南玄室の墓守』のHPは0になっていた。
「……! …………‼」
『南玄室の墓守』は前のめりに倒れ、鎌を取り落す。漆黒に染まるその鎌は煙のようにすっと消え、『南玄室の墓守』はただ体を地面に突っ伏すだけだった。
「私は……守れなかったのか。あの時、あの場所で、私は任務を果たせなかったのか……」
誰に話しかけるというのではなくただ自分の愚かさを嘆くように、『南玄室の墓守』は独り言をつぶやく。
見ればその体に纏わりついていた靄がだんだんと晴れていた。
「私は……を果たせなかった。……に取り込まれてしまったのだな、ははは」
自重するかの如く呟いていた『南玄室の墓守』はおもむろに顔を上げ、言葉を紡ぐ。
「私を解放してくれた君たちに頼みがある、どうか***をたのm……」
『南玄室の墓守』の姿は薄れ、光の粒子となって消えていった。
「今のは……どういうことか?」
「それは……やはりそういうことか?」
「ワースはわかるの?」
「……あくまで仮説でしかない。だけど、もしそうだとしたら」
『エボニーフォレストタートルのHPロックの1-Sロックが解除されました。』
「とりあえずあと3つだ。問題はそこからだ」




