5話 青年は女の子と戯れ、ゴーレムに弄ばれる
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「これがメイのお兄さんがテイムしたグリーンタートルですか……」
「ユニークモンスターなのにテイムするなんて、凄いネ!」
「なんかつぶらな瞳がかわいい……持って帰っていい?」
「ランランのセリフは気にしないで。それで、どうやってテイムしたの?」
ワースはメイと他の女の子4人に囲まれていた。正確に言えばワースではなく、中心にいるのはミドリだった。それでも女の子に囲まれているワースの姿は、傍から見ればいわゆるハーレム状態だった。
ワースはマリンと別れた後、始まりの街東門にある龍をモチーフにした銅像まで走って行った。そこにはすでにメイとその友達4人がワースのことを待っていた。すぐさま女の子に囲まれたワースは、せがまれるようにしてミドリと出会った話をした。
「凄いですね、一発でですか。βテスターにはそんな人はいなかったですね」
「そうなのか。無我夢中でテイムしたからよくわかんないけどな……」
ワースすこし照れくさくなり頭をかいた。自分よりも年下の女の子から賞賛の目で見られることなど今まで経験なく、未知の感覚にワースは戸惑っていた。
「それでもワースさんは凄いです」
「そう褒めないでくれよ。たまたまだったんだってば。えぇっと、君の名前はアジサイさんかな?」
「あぁ、ワースさんはそもそもゲーム初心者でしたっけ。見ればわかりますが自己紹介させていただきますね、私はアジサイです。さん付けじゃなくて大丈夫ですよ、ワースさん。ちなみに私はワースさんと同じ魔法使いですよ」
ワースの腰に挿してある杖を見ながらアジサイは言った。
「私の名前はカリンや。よろしくしてな」
「あたしの名前はランランだよ、よろしくね」
「私はナゴミ……よろしくお願いします」
「あぁ、俺の名前はワースだ。よろしく」
ワースは目の前の少女達に圧倒されながらなんとか挨拶した。あまりメイと同じ年頃の女の子との交流はなく、若さってきゃぴきゃぴだな、と年甲斐もなく思いながら返答するので精いっぱいだった。
「そういえばお兄ちゃん。レベルはどのくらいになっている?」
「今Lv.5だ。それがどうした?」
「いや、初めてこういうゲームするにしてはレベル上がるの早いね」
「そうなのか?」
「そうですよ、ワースさん。本当に初心者なのですか?」
「そうだぞ、それはメイも知っているだろ?」
「そうは言ってもねぇ、お兄ちゃんってこんなさくさくレベル上がっちゃうような人だっけ。もしかしてユニークモンスター倒したせいかな」
「まぁ、言動から初心者だっていうのはわかりますけどね。一種の才能なのでしょうかね」
「出会った頃のリーダーはおたおたしていたもんね。戦い方もあれだったし」
「っ!! ランラン、変なことは言わないの」
「はーい」
『五色の乙女』の女の子たちの声は姦しく辺りに響いた。
「それでこの後、どーするつもりなの?」
メイはワースに問い掛けた。
「うーん、適当にふらふらと行くつもりだ。また新しい亀達を目指してね」
「やっぱりお兄ちゃんらしいね。それで、相談というかなんというか……」
「うん? なんだ?」
「これからなんだけど、私達と一緒にパーティ組んだまま行動しない?」
「……つまりどういうことだ? なぜ、そんな提案を?」
「このパーティにお兄ちゃんがいれば戦力的に調度良くなるし、お兄ちゃんだってこの先を行くにしたって私達と一緒なら遠くまで行けるよ」
「うーん。ありがたいんだけどちょっと、な。俺はどんなにしたって遠慮するだろうし、足を引っ張るだろう。だから遠慮しておくよ」
「お兄ちゃん……」
「まぁ、連絡とか手伝いぐらいならいつでもいいぞ」
「ありがとうございます、ワースさん」
アジサイはワースに対して深々と頭を下げた。
「いいって、いいって。なんかあったらよろしくな」
そう言いながらワースは後ろをくるりと振り向き歩き出した。
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「いやー、参った参った」
ワースは夜の街の中を歩きながら一人ごちた。
ワース:真価は元々女の子と話すのが苦手である。彼女いない歴イコール年齢なのだから仕方がない。そもそも初恋の対象が人間でないところから、彼がどういった人間かわかるだろう。ちなみに初恋相手は幼稚園で飼っていたクサガメのかめたん♀(3歳) だ。あくまで一方的な恋愛だったと付け加えておく。
「さてと、どこへ行くかな……」
ワースは始まりの街の北門を目指して歩いていく。
始まりの街の北は山岳地帯となっている。足場が悪く全体的にゴツゴツとしたモンスターが多い。東西南北に門を構えている始まりの街において東は草原が、西は海に繋がっている。南は森が、北は山へ繋がっている。どれもレベル的にはあまり変わらないが、東が人気である。その次が南、次が西、最後に北となる。
ちなみに南は昆虫タイプのモンスターが、西はヤドカリや水棲生物のモンスターがいる。
ワースには考えがあった。北には人がほとんどいない。それは出てくるモンスターの耐久が高めで武器攻撃ではダメージが与えにくい。そのため他の場所の方が狩りの効率がいい。
だが、ワースにとっては有利だった。魔法を主体としているため攻撃には困らないし、モンスターの動きが鈍いため鈍重なミドリの練習になる。そして何よりミドリを出しておいて目立つということが無くなる。そもそもあまり人がいないのだから。
「ミドリ、行こうか」
無事北門を通り、ブラウンマウンテンの麓まで辿り着いたワースはミドリを呼び出した。
ミドリは呼び出されてぼんやりと月明かりを受けて光る周りを見渡した。そしてある一点を見つめた。
「うん? あぁ、なるほど。モンスターか」
ワースはミドリの視線の先にいたスモールゴーレムに気が付き声を上げる。
「さくっと倒しますかね」
ワースはどんどんと迫り来るスモールゴーレムに杖を振りかざした。
「『サンドボール』!」
砂の塊がスモールゴーレムにぶつかり戦闘が始まった。
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「ふぅ、こんな感じか」
ワースは深く息を吐いた。
時間はすでに0:58。本来なら0時までにはログアウトするつもりだった。
そんなワースはブラウンマウンテンから離れ、始まりの街の北門の影で休んでいた。隣でミドリも目を閉じて休んでいた。もっとももう深夜だ。もう寝てもおかしくない時間だ。
なぜ、こうなったのか。
事態は23時半頃。ミドリとの連携が取れ、調子を掴んだワースがふと道端にあった宝箱を見付けた。思わず開けてしまったワースの目の前に一つのウインドウが表れた。
『クエストが発生しました。
このクエストは途中で止めることはできません。
終了条件:“思い出のブローチ”を始まりの街北部に住んでいるマリアに届けること
注意:思い出のブローチを所持している間にブラウンマウンテンにいる場合ゴーレム達が襲って来ます。
無事に思い出のブローチをマリアに届けて下さい。』
ワースが辺りを見るとスモールゴーレム達がワラワラと現れてきていた。
そして、襲い掛かって来たスモールゴーレム達を杖で薙ぎ払い魔法で粉砕し、なんとか街まで戻ってきた。
そのせいで回復アイテムは全て使いきり、MPはすっからかん、HPも半分以上削れ、危ないところだった。
それでもなんとかワースは帰って来ることができた。それは魔法を撃つワースをミドリが体を張って守り切ったおかげでもあった。
「もう夜も深くなってきたところだし、さっさと届けに行かないとね……」
ワースはよろよろと立ち上がった。
そしてマップに表示されているところまで歩き出した。
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「お兄ちゃん、だいぶ遅かったね」
「メイ、起きてたのか?」
「攻略サイト回りながらだけどね」
明奈は眠そうな表情を見せることなく、ようやくゲームから戻って来た真価へ言った。明奈は自分が先にログアウトしていても、こんな時間になるまで兄を心配して起きていたのだった。
「ありがとな、俺に付き合って起きていてくれて」
「別にいいって。それで何かあったの?」
くすぐったそうな笑みを浮かべたまま真価をじっと見つめた。
「あぁ、ブラウンマウンテンにいたんだ。スモールゴーレムの集団に襲われて大変だったよ」
真価は一部始終を明奈に話した。
「よく死ななかったね」
「確かにな。おかげで俺自身とメリットのレベルも上がったし」
「ミドリちゃんはどうだった?ちゃんと闘えたの?」
「十二分に働いてくれたよ」
真価は感慨深く言った。
クエストのためスモールゴーレムが何体も襲い掛かってくる中、一歩も引かず、噛み付き攻撃や突進で着実にダメージを与え、ワース自身に攻撃がいかないようにうまく立ち回っていた。
「そっかぁ、良かった」
「まぁな、メイ。このゲームを一緒にやろうと誘ってくれてありがとう」
「そう言ってくれると私も嬉しいよ」
明奈はにっこり笑った。その笑みは心から表れているものだった。
「もう寝よっか」
「だな」
明奈はするすると自分の部屋へ帰って行った。
「明日からも楽しみだな」
真価は一人ごちた。
「……だけど、リアルの方もおざなりにしてはいけないよな」
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Name:ワース
Lv.7
Merit:『土属性魔法』Lv.15
『魔力運用』Lv.6
『調教』Lv.3
『棒術』Lv.11
『付与術』Lv.1