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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
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16話 ワースライディング

 ■■■


 ミドリを走らせ、エボニーフォレストタートルへ近づくワース。それを四方に在る大木が阻止しようと枝を伸ばすが、ワースの付与術(エンチャント)によって速さを上げられたミドリにはそれを躱して前へ突き進むことは容易だった。

 ミドリに続くようにベのむんを背中に乗せたどろろが地面の砂を巻き上げるようにして追走する。


 全てはエボニーフォレストタートルへ触れるため、ひっつくため、その背中の甲羅に乗るため。

 前回は首に何とかしがみつけたものの感触を楽しむことなく振り落とされてしまったが、今回は後ろから狙う。


「ミドリ、行くぞ!」

「きゅー!」



 ミドリはそのまま加速し続けて、エボニーフォレストタートルへ前進する。


 エボニーフォレストタートに接触するその瞬間、ミドリは勢いよく足を踏みしめて急反転を行った。振り回されるような強烈な重力を感じながら、ワースはその勢いを利用するようにエボニーフォレストタートルへ飛び出した。


「いっけえええ! 『ソウルロープ』!」


 ワースは飛び上がりながら、右手に持っている杖の先端から白く輝くロープを射出した。『魂術』によって作り出された魔法のロープはエボニーフォレストタートルの甲羅のでっぱりに引っ掛かり、ワースはそのロープを頼りにエボニーフォレストタートルの甲羅にしがみついた。





「ワース!?」


 エボニーフォレストタートルへ飛び掛かるワースの姿を見て、ノアは思わず声を上げる。その危なっかしい挙動に不安を覚え、しずくを連れてノアも後を追うことにした。


「危ないことするなよな」


 ノアは大剣を担ぎ直し、手元にぽるんを引き寄せながらしずくの背中に乗る。行く手を阻むように大木が枝を振り回すが、それをノアは臆することなく前へ前へ突っ込ませた。しずくはノアの意志を受けて、一歩も足を止めることなくその俊足を発揮した。


「喰らえ、『アイシクルフォール』」


 ノアは大木の枝が振り上げられるのを見ながら召喚獣ぽるんを媒介にして氷属性魔法を発動させる。ノアの両側に瞬時に作り上げられた氷の壁が、大木の妨害を防ぐ。氷の壁に守られるようにしてノアを乗せたしずくは大木の範囲内から抜け出し、エボニーフォレストタートルへ迫った。







 『ソウルロープ』によりなんとかエボニーフォレストタートルへしがみついたワース。ロープと一体化した杖をしっかり握りしめ、さながらロッククライミングのようにエボニーフォレストタートルの甲羅を登っていく。あと少しで甲羅の平たいところに出られる、そんなところでワースは体を揺さぶられながらなんとかごつごつとした甲羅の壁を這い上る。ゲームだからこそ腕が痛いと感じることはないが、筋力であるSTRにステータスを多く割り振っているわけでないため全くの余裕を持っていられるわけではなかった。

 ワースは力を入れて体を引っ張り上げ、ようやくエボニーフォレストタートルの甲羅の上に這い登ることができた。


「はぁはぁ、ゲームでこんなに疲れると思わなかった……」


 ワースは甲羅の上でへたり込みながら周りを見渡す。ここはエボニーフォレストタートルのお尻に近い場所なだけあって全貌を目の当たりにすることはできないが、その巨大さを改めて実感することができた。視界いっぱいに広がるごつごつとした大地。本来の地面から浮き上がった生きている巌は、中央にそびえ立つ天を衝く山から岩を落とし、黒々とした幹を張り巡らせた木々を乗せその存在の強大さを示していた。


 ワースは自分がどこにいるか改めて自覚し、武者震いに打ち震えた。まさに今巨大亀の背中に乗っているのだから。現実世界ではまずありえない、視界を覆い隠せるほどの巨大な亀に乗るということが、今まさに成されていることに、ワースはこのゲームの素晴らしさに浸っていた。


「ふふ、いやはやまさか夢にまで見たおおっきな亀さんの甲羅の上に乗るという偉業が今まさに行われている訳ですよ。はは、ははは、ハハハはハハハッは……あぶな、ちょっと鼻血出てきそうになった」


 そんな感じでトリップしているワースの傍に、ワースを追い掛けしずくに乗ってやってきたノアがしずくを隣に侍らせながらよろよろと歩いて来た。


「ふぁ、さすがに飛び乗るのは無茶だったよ……」

「うわぁこの岩石みたいな甲羅、っていうかこれ地面と一緒じゃないか。玄武かと思ったら実は蓬莱亀でしたってところで留まらずインドの地球を支えるっていう亀じゃね? どんだけ要素ぶち込んでるんだよ、ふははははは」

「おい、ワース。目覚めろー」


 ばしん、とどこからともなく取り出されたハリセンがワースの脳天を揺さぶり、ワースは正気に返った。


「ふぁあ、あれノアなんでここにいるんだ?」

「そりゃあ、心配だから追い掛けてきたに決まってるだろ? こんなところでトリップしてるんじゃないかと思ったらやっぱりそうだったよ」

「いや、だって。夢のようじゃん、これ! 現実世界じゃあこんなことありえないんだよ! InterestingでFantasticでWonderfulなことだよ」

「ほら、そこで無駄な流暢な発音しない。まぁ、わからんでもないけどさ。ちょっと周りを見ようぜ」


 ノアは苦笑しながら腰に手を当てて諭すようにワースに語り掛ける。


「周り、よく見てるよ。ほら、ここ木の根が張り出してるよ、すごいね」

「そうじゃなくて……ワース君、さてここはどこでしょう」

「エボニーフォレストタートルの甲羅の上、または楽園(パラダイス)

「そうだね、レイドボスのエボニーフォレストタートルの甲羅の上だね。で、今はどんな時間?」

「どんな時間って、門の攻略でしょ」

「つまりどういうこと?」

「守護者であるこいつらを倒す時間だよな」

「そう、正解。それで、俺ら以外のプレーヤー達は何をしているでしょうか。特に魔法職のプレーヤーは?」

「こいつらを倒すために戦っているよな。魔法職だったら、魔法を詠唱してぶちかま……あっ」

「そう、そうなんだよ」


 ノアはようやくここまでたどり着いたかと嘆息しながら、くいっと遠くを指示す。


「そろそろだと思うよ。ここにたくさんの魔法が飛来してくるのが。ちょうど4本の大木が倒されたからね」



 ワースは顔に手を当てて焦りの表情を浮かべる。


「早く逃げないと」

「そういうこと。ほら、ここだと良い的になっちゃうから、向こうの方へ行こうか」

「了解、ほらミドリ……って置いてきちゃったか」


 ワースはミドリ達を置いてきて単身でここまで来たことに気が付いた。


「ワース、危ない!」

「ほぁ!」

「わおん!」


 地面の方から真っ黒な槍が飛んできてワースのいるところへ突き刺さった。しずくが飛び付いたおかげでワースは運よく回避に成功し、しずくに押し倒されるようにして尻餅をついた。


「いてて、なんだよ」

「ぐばぁ!」

「は?」


 見れば真っ黒な槍にしがみつく様にしてベのむんがそこにいた。

 どうやらべのむんはどろろが甲羅から射出した槍に乗ってここまで飛んできたようだ。身軽なべのむんだからこそできた芸当だろう。置いてけぼりをくらうところをどろろが察してべのむんを送り届けてあげた、というハートフルな状況が地上では起こっていたらしい。ただどろろの照準が少し外れたため肝心のご主人様を撃ち殺してしまうところだったが。



「ぐばぐばぁああ!」

「わかったわかったって、そんなに飛び付くなぁああ!」


 ワースから離れたしずくの後を、べのむんが勢いよく飛び付いてきたが、どうにも喜びの余りべのむんの口からヘドロが飛び出ていてワースが軽い毒状態に陥っていた。べのむんから離れたからこそ毒状態はすぐに解除されたが、


「ぜーはーぜーはー、べのむんの気持ちはよーくわかった。ほら、一緒に行くぞ」

「ぐばばあ!」

「はは、ワースは亀にモテモテなんだな」

「なんか最近その傾向が強いんだよな。俺としては嬉しいけど、ちょっとな」

「うん、ワースらしいと思うよ。それじゃあ、魔法を躱すこともあるけどせっかくだし向こうの山の方へ行こうか」

「そうだな」



 ベのむんを連れたワースとしずくを連れたノアは、エボニーフォレストタートルの甲羅の上を探索することになった。







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