12話 フェニックスファースト
■■■
うおおっという叫び声の中、南門攻略の先陣が切られた。
この南門攻略において、指揮官を務めるワ☆タ☆ルはいくつかグループを分けた。
まず第一に、初戦ということもあり情報を綿密に手に入れる必要があるため、そういったことに長けたプレーヤー達を纏めて一つのグループで用意した。彼らはヴァーミリオンフェニックスの近くに張り付いて、様子を観察したり簡単な検証実験など行い情報をどんどん手に入れていくことが目的だ。
第二に、オーソドックスにヴァーミリオンフェニックスを直接抑え、攻撃を加えていく前衛として近接武器や盾を扱えるプレーヤー達を3グループ置いた。それぞれローテンションを組んでヴァーミリオンフェニックスと相対するように指示出してあった。
前衛と同じように中衛・後衛をそれぞれ3グループずつに分けた。回復職のプレーヤーはダメージを受けたらすぐに回復できるように前衛や中衛に配置した。
連絡は綿密に行い、不測の事態が起こってもすぐに対応できるようにいくつものパターンを想定した。ワ☆タ☆ルはいくら初戦とはいえ 気を抜かないようにと考えた。
プレーヤー達が門の中へ入ると、そこには円形の闘技場のような空間が広がり、その中央に一際目につく“朱”があった。地平線に沈みゆく夕日のような、秋の紅葉した楓のような、鮮やかな朱色がそこにあった。全長3メートルほどの体をゆっくりと持ち上げ、畳んでいた燃え上がるような翼を徐に広げていく。ふさふさと全身を覆う羽毛はまるでそれ自体が炎であるかのように揺らめき、ヴァーミリオンフェニックスは金色の双眸を見開いた。翼を空高く広げ、首をもたげたその姿は神々しく、見る者を圧倒させた。
プレーヤー達はヴァーミリオンフェニックスの神々しさにしばし見とれた。その大きさもさることながら一動作が優雅で、天の遣いだと言っても信じてしまいそうな神々しさがそこにあった。
動きを止めてしまったプレーヤー達だが、ヴァーミリオンフェニックスが戦いの咆哮を上げたことにより再起動した。ヴァーミリオンフェニックスの動きを抑えるべく前衛プレーヤー達が一目散にヴァーミリオンフェニックスへ接近を図る。前衛プレーヤー達に混じって情報取集組や中衛プレーヤー達も走ってヴァーミリオンフェニックスとの距離を詰める。
メイは右手の白銀に光る盾と左手の盾と同じく白銀に光る直剣を握り締めて、ヴァーミリオンフェニックスへ走り寄った。ヴァーミリオンフェニックスを抑えるべく、メイと共に前衛で戦う5人の『五色の乙女』のメンバー達もメイに続くようにして纏まって動いた。
『きしぇええええええええええええええええええええええええええ!』
ヴァーミリオンフェニックスは甲高い咆哮を上げる。翼を広げ、燃え上がる羽毛を撒き散らし、向かってくるプレーヤー達に火の嵐を浴びせ掛けた。
ヴァーミリオンフェニックスの頭上に浮かぶHPバーはたったの1本。これにはどのプレーヤーも驚いたが、一部のプレーヤーはその理由について推測を立てた。名前にあるフェニックスから不死鳥、つまり何度か復活するのではないかと考えた。だからこそ今HPバーは1本しかないのだと考えたのだった。
前衛プレーヤー達はそれぞれ盾で火の玉を防いだり、落ちてくる火の玉を躱したりして攻撃をやり過ごした。真っ先にヴァーミリオンフェニックスに張り付く前衛プレーヤー達はヴァーミリオンフェニックスの足元や腹目掛けて各々の武器をぶつけた。メイも盾を構えながら左手に握る直剣を煌めかせて斬り掛かった。
■■■
しばらくヴァーミリオンフェニックスは翼を広げてからの火の玉を撒き散らす攻撃しかしなかった。初期位置から全く動くこともせず、ただ翼を広げたまま特に身動きを取らなかった。まるでその姿はプレーヤー達の攻撃をただ受け止めているかのようで、それでいて反撃の準備を整えているように見えた。
ヴァーミリオンフェニックスのたった1本しかないHPバーが前衛プレーヤーの猛攻や中衛プレーヤーの斉射、後衛の一斉魔法攻撃により順調に削られ、ついにそのHPバーに残った残量が尽きようとしていた。傍から見ていればこんなに簡単にHPが削れていいの、と言いたくなるぐらいの減り方だった。この頃になるとプレーヤーのほとんどはこのままHPバーを削り切ってもまだ次があることに気付いていた。
「こいつのHPはもうすぐ終わりか」
燃え上がるような赤髪を背中まで垂らしたスタイル抜群な女はそう呟いた。手には背丈に迫るほどの両手剣が構えられていて、要所要所しか隠されていない露出度の高い真っ赤なボンテージを身に纏っていた。
「そのようですね、でもきっとこの後来ますよ」
その女:クルーエルの言葉に、隣にいたメイは言葉を返した。
「フェニックスというのだからきっと一回殺しただけではダメだろう」
「そうですね。炎を吐いてそこに身を投じて蘇ったりするんですかね」
「どうでるかが見物だな」
「えぇ」
メイとクルーエルは実は知り合いだったりする。メイは『五色の乙女』の幹部、片やクルーエルも『世界を渡る猟団』の幹部なのだ。その繋がりで何度かパーティを組んで一緒に戦ったりした仲だった。最近では一緒に街のカフェで一緒にスイーツを食べたりとなかなか良好な関係を築いていた。
『き、きききききぃき…………』
HPバーのわずかに残っていたドットが完全に消え、ヴァーミリオンフェニックスが壊れかけたラジオのような声を出して動きを止めた。
「一同距離を取れ―――――――!」
指揮官のワ☆タ☆ルは一旦HPの尽きたヴァーミリオンフェニックスからプレーヤー達に離れるよう拡声器を使って呼びかけた。それに従ってプレーヤー達がじりじりと後退していく中、ヴァーミリオンフェニックスは広げていた翼を体にしまい込む。大きかったヴァーミリオンフェニックスの体はしぼんだ風船のように小さくなっていった。そして、プレーヤーほどまで小さくなったヴァーミリオンフェニックスは空に浮かび上がり、ある程度まで浮かび上がると今度は勢いよく地面に墜ちた。卵が地面に落ちるように、ぱしゃと音を立てて墜ちたところから炎が走り辺り一帯に広がっていった。プレーヤー達が後退していくのを追い掛けるように走る炎に、それまでゆっくりとだったのを一目散に、プレーヤー達は後退していった。
燃え盛る炎の中、地面からひときわ輝く光がゆっくりと立ち昇っていく。その光は揺らめきながら徐々に大きくなっていく。
一定の大きさまで大きくなったその光の球から、にょきっと一対の光が伸びて伸び上がった。その一対の伸びた光はぱぁっと広がり翼となった。
翼が広がると今度は、翼の間からにょきっと光が伸びて頭が生み出された。
同じように足と尾羽が出来上がり、再びヴァーミリオンフェニックスがその姿を現した。
光は徐々に弱くなり、一層鮮やかになった朱色の全身が燃え盛る炎の中で輝いた。
表示されたヴァーミリオンフェニックスのHPバーは3本。先ほどよりも増えていた。
復活を遂げたヴァーミリオンフェニックスは雄たけびを上げてその両翼を羽ばたかせて空へ飛び上がった。
空を舞ったヴァーミリオンフェニックス。その翼は夕焼けの空のように輝き旋風を巻き起こす。
プレーヤー達はただその姿を見ているだけではなかった。後衛はヴァーミリオンフェニックスに向かって魔法を放ち、中衛は残弾が尽きるまで矢弾を撃った。前衛の盾を持つ者はヴァーミリオンフェニックスの旋風を受け止めるように盾を構える。
メイも盾を構えて他のメンバーを庇うようにヴァーミリオンフェニックスの旋風を受け止める。隣のクルーエルも両手剣を盾のように斜めに構える。旋風はプレーヤーを吹き飛ばさんとばかりに吹き付けてくる。プレーヤーの中には運悪く風に煽られて転倒してしまう人もいたほどだ。
ヴァーミリオンフェニックスは攻撃を受けながらも、空を舞いながら翼を振り絞るように風を巻き上げて旋風を地面に浴びせる。炎を纏った旋風がじりじりとプレーヤー達のHPを削っていく。あちこちで回復役があせあせと仕事をしていた。
ヴァーミリオンフェニックスは空中のある一点で静止するといきなり体を反転させて地面に突っ込んできた。地面すれすれまで体を叩き付けるように急降下したヴァーミリオンフェニックスはプレーヤー達を薙ぎ払いながらよりプレーヤー達がいる方向へ低空飛行する。炎を纏いながらの突進はいくら盾で受け止めようとも、その巨体と炎ゆえに直撃すれば運悪くHPを全損してしまうほどの攻撃だった。ヴァーミリオンフェニックスの突進を止めようと攻撃を浴びせても、その突進は止まることなくプレーヤー達を蹂躙する。
ある程度プレーヤー達を蹂躙したヴァーミリオンフェニックスは再び空に舞い上がり、今度は口から炎の棘をいくつも吐き出した。その炎の棘は徐々に大きくなりながら落ちてきて、地面に突き刺さった。炎の棘は触れれば炎ダメージが、辺り一帯に熱という継続ダメージが与えられる罠として機能していた。
炎の棘を吐き出したヴァーミリオンフェニックスは空から炎の羽を撒き散らし、それを羽ばたきで高速化させて地面に撃ち出した。
「うわっ、なにこれ」
「これはひどいな。一々対応していかないと」
水魔法の使えるプレーヤーがヴァーミリオンフェニックスの炎をどうにかしようとするものの、ヴァーミリオンフェニックスが撒き散らす炎の勢いが強くてなかなかうまくいかない。
「……次からは火耐性だけでなくて炎そのものに対しての対策が必要という訳ね」
「まったくだ」
結局だんだんと数を減らされていったプレーヤー達は、一回復活を遂げた第2形態ヴァーミリオンフェニックスのHPバー3本の内1本も削りきることなく全滅した。
オリキャラとして有部理生さんよりクルーエルを登場させてもらいました。ありがとうございます。