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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
72/114

10話 タートルファースト(1)

 ■■■


 戦いが始まった。

 今まで閉ざされていた門が開かれ、奥に隠されていた存在を露わにする。



 それは一言で言えば、真っ黒で大きな山だった。霧に包まれた門の中の空間に、ずぅーんずぅーんと地響きを立てながら見上げるほどの大きな山が歩みを進めていた。色は漆黒、姿は山。霧に包まれているせいで全容は明らかになっていないが、目の前の山の頂きまでの高さから察するに5階建てのビルよりも高いのだ。そこから順当に考えれば足元は一つのコンベンションセンター以上の大きさになっているだろう。

 帝都北門を守護するエボニーフォレストタートル。巨大な山を背負う黒き大亀。本来帝都を守護するはずだが異変により狂暴化してしまったモンスター。それがプレーヤー達の前に立ちはだかる。


 エボニーフォレストタートルを中央に、始まりの街中央広場並の大きさの円形闘技場がそこに広がり、その周りには石で積み上げられた外壁が天高くそびえ立っていた。天井には燦々と輝く真っ白な太陽が見受けられ、エボニーフォレストタートルの巨体が影となり地面にくっきりと明暗を作っていた。地面は真っ白な砂で覆われ、辺り一帯に広がる真っ白な霧と相まってどこかしらか神聖なイメージを漂わせている。霧が晴れればおそらくエボニーフォレストタートルの黒とはっきりとしたコントラストを見ることができるだろう。

 エボニーフォレストタートルにフォーカスして表示されるHPバーは最大の10本。さすがレイドボスといったところか。1本1本がフィールドボスのそれよりも少し長く、1週間ですべてを削り切れるか不安になるだけのHPを持っていた。




 プレーヤー達はその巨体にしばらく身動きができなかった。想像はしていたとはいえ、いざその巨体を目の前にすると圧倒され、驚きと恐怖が体を支配してしまったからだ。


「事前に説明したとおりに動けえええ!」


 身動き取れなかったプレーヤー達に喝を入れるようにして、北門組指揮官を務めるサクラが拡声器を使いながら大声で叫ぶ。その叫びにプレーヤー達はようやく体を動かし始めた。


 近接武器を持ったプレーヤー達が前衛、中距離の攻撃を仕掛けたり前衛を支援するプレーヤー達といざ前衛が危険になった時の控えとしての後ろに控えるプレーヤー達が中衛、魔法やその他遠距離攻撃できるプレーヤー達や回復魔法を使うプレーヤー達が後衛、とざっくりとした編成になっている。あまりに参加するプレーヤー達が多いためこうざっくりとした編成できなかった。大まかな作戦は立てるものの、半ば各自自己判断して戦うことになっている。


 斧や大剣、槍など様々な武器を持った前衛プレーヤー達は一斉にエボニーフォレストタートルに接近しその周りを取り囲むように移動する。まだどんな攻撃を仕掛けてくるかわからないのである程度距離を取って周囲をぐるりと取り囲んだ。


 中衛プレーヤー達は前衛プレーヤー達に支援魔法(バフ)を掛けたり、エボニーフォレストタートルに弱体魔法(デバフ)を掛けたり、早くも弓や魔法で攻撃を仕掛けたりし始めた。


 後衛プレーヤー達は一斉攻撃を仕掛けるべく魔法を発射させる準備を整え、エボニーフォレストタートルの動向に注視していた。








『うおごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん』


 辺り一帯に響き渡る鳴き声を上げ、エボニーフォレストタートルは目の前に群がるプレーヤー達を見下ろした。そして、咆哮を上げながら突然体を揺らし纏わりつく霧を打ち払った。

 霧が払われ、その全容を明らかにしたエボニーフォレストタートル。大木のようにそびえ立つ脚、山一つをそのまま生やした堅固な甲羅、そして歯向かうものを容赦なくかみ殺す牙なき牙。黒く重なり合う鱗に覆われた瞼をカッと見開き中にある金色の瞳を輝かせ、威嚇するように口を咬み鳴らした。

 ワニガメとゾウガメをまぜこぜにし、背中に大山を背負わせたエボニーフォレストタートルの姿に早くもワースは興奮を押し隠せそうになかった。


「うひょおおおおお!亀だ、亀がいるよ。うあーやっぱりでかいなーどうだ、ミドリ。これはなんともかっこよくて仕方ないだろう!そうだろうそうだろう、やっぱり玄武と言ったらこのくらいごつくてがっしりしてめっきりしてなくちゃあね。それでいて亀らしいとなれば、最高だね!」


「……ワース、落ち着きな」


 隣にいたノアはワースに頭を軽くはたき正気に戻させた。


「はっ、な、なんだ!?」

「よし、戻った」

「ノア君も、ずいぶんとワース君の扱いに慣れたね」


 しみじみとマリンはノアを見ながらそう言った。


「何の話だ?」

「ワースには関係ない」


 近くにいるテトラにまでそう言われて、ワースは少し落ち込んでしまった。しかし、再びエボニーフォレストタートルを見て気分が盛り上がっているワースだった。

 『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間達』のメンバーは基本的に中衛の位置で戦うことにしていた。もっともニャルラはすでに前の方まで行ってしまっているのだが。前まで出すぎないけど適度な距離を取ってエボニーフォレストタートルと戦おうとしていた。


 ワースの傍にいるミドリ・どろろはワースのきらきらとした目を見て一緒に喜び、どろろの背中に乗っているべのむんはなぜかため息をついた。




「行くぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 前衛にいるプレーヤー達が掛け声を上げながらエボニーフォレストタートルに接近し武器を振るう。まだ特に攻撃してこない現在、気を付けるはその脚だった。地響きを立てながら足踏みするエボニーフォレストタートルにタイミングを合わせながら、接近し張り出している甲羅を武器で殴りつける。豪の者は上下する脚に無謀にも近づいてその大きな爪目掛けて武器を振るう。


「喰らえええええ!」

 『ドラゴンナイツ』に属する全身レモン色の鎧に身を包んだ男:ピカギラスは真っ先にエボニーフォレストタートルの顎を狙って槍を突き出す。雷を伴った突きが唸りをあげてエボニーフォレストタートルの顎を突く。エボニーフォレストタートルは全く動じることなくその攻撃を受け止めた。


 それに続いて同じ場所を狙うように『世界を渡る猟団』の鍛冶屋兼槌使いのボゲットという半裸むきむきおじさんは炎を纏ったハンマーを下から振り上げる。その一撃はたしかにエボニーフォレストタートルに当たったものの硬い鱗に弾かれてしまった。

「ガッハハハ! 全然効かなかったぜっ!」


 その後をニャルラが飛び出して背負っていた2刀を抜き出し同時に切り掛かる。どちらも硬い鱗を前にして弾かれるが、幾度の攻撃により鱗に軽い切り傷を作ることには成功した。


 その他のプレーヤー達は基本的に足や甲羅を、勇気あるプレーヤーは顔を攻撃した。






「ささ、ワースは置いておいて。戦いの始まりですよ」

 

 サブリーダーのノアの言葉に一同は頷き、攻撃を始めた。

 ノアは召喚獣のぽるんを召喚し魔法の発動を行わせ、ペットのしずくに氷柱を溜め込ませる。

 子音はメンバー一同に支援魔法(バフ)を掛ける。

 マリンはペットのシェリー共々どんな攻撃が来るかエボニーフォレストタートルを見詰める。

 テトラは自身に隠密を重ね掛けして前衛の方へ走って行った。

 あるふぁはペット達に指示を出しながら前衛との距離を図る。

 アカネは甲羅の山を狙って風魔法を放った。


 そして、ワースは。

「一発目から大きいの行くか、ミドリ!」

「きゅ!」


 ワースはミドリの甲羅に手を当ててスキルを発動させる。


「『ソウルコネクト』、からの『エメラルドバースト』!!」


 ミドリのスキルを自分のものとして発動させるワースの杖の先からエメラルド色に輝く光の帯がまっすぐエボニーフォレストタートルへ射出された。そのビームはエボニーフォレストタートルの背中の山にぶち当たり轟音を鳴り響かせた。当たった部分からもくもくと煙を上げ、ワースは予想以上の効果に少し驚いた。


 おおっ、と歓声が上がり、サクラの指揮の許、宙にはたくさんの弓矢や銃弾がエボニーフォレストタートルへ殺到した。

 そこへ後衛の準備が整い、合図に合わせて一斉に魔法が放たれ宙に何色もの花火が舞った。

 隕石が衝撃波を撒き散らしながらエボニーフォレストタートルの山へ衝突し、空に浮かぶ雷雲が青白い雷を何重にも落とす。何百もの紅蓮の炎弾が唸りをあげてエボニーフォレストタートルへ迫り、刃のように磨き上げられた氷塊が宙に浮かび隊列を組むようにして次々とエボニーフォレストタートルへぶち当たる。轟音と閃光を放ってエボニーフォレストタートルの体は爆発に包まれた。





「いよっ、まったく派手だにぃ」

「ふぇええ~」


 魔法少女のコスチュームのようなふりふりとした服の少女と兎の着ぐるみを着た少女はエボニーフォレストタートルから少し離れた中衛の位置で、魔法一斉攻撃の様子を見ていた。

 イノセントという魔法使いの少女はテンション高いまま詠唱待機中の魔法を追撃として発動させる。突き出した杖の先からばちばちとはじけるような音を立てる電撃が迸り、エボニーフォレストタートルへ飛んでいった。

「イッエーイ☆」


 一方、カニンヒェンという兎の着ぐるみ少女は先ほどからずっと弓矢を飛ばしていたが、魔法一斉攻撃の激しさに重ね、イノセントの魔法にさらにびっくりしてしまい矢を落としてしまった。


「大丈夫ですか?」

「は、はい! だ、だいじょうぶれす」


 近くにいた『シルバーバレット』のアメリアは苦笑しながら矢を拾い、カニンヒェンに手渡した。


「まぁ、驚くのも仕方ないよね」

「あれ、もしかして『シルバーバレット』のアメリアさんですか!?」

「え、えぇ」

「まさか会えるなんて~嬉しいです」

「そう、そう言ってもらえると嬉しいわ」

「カニンヒェン、その辺にしておくだにぃ。アメリアさん、すみませんだにぃ」

「いえいえ。がんばりなさいね」

「は、はい!」


 アメリアはカニンヒェンの小動物的仕草に微笑み、魔矢(マジックダーツ)を当てるべく移動していった。








 ■■■


 後衛による魔法一斉攻撃がひとまず終わり、一旦引いていた前衛プレーヤー達はエボニーフォレストタートルへ接近し武器を振るう。

 見ればここまででHPはようやく1本のバーの1割が削れたところだった。だいたいプレーヤー達のMPの半分近くを消費してこれだけだからいかにレイドボスは堅いかが良くわかるだろう。


 エボニーフォレストタートルは首をもたげ、プレーヤー達を睥睨した後上を向き、甲高い咆哮を上げた。


『ぎゅおおおおおおおおおおおおおお!』


 すると背中の山から臙脂色の閃光が迸り、辺り一帯を地震が襲った。同時に地割れを起こし、亀裂から大岩が宙に浮かび上がった。咆哮を上げるエボニーフォレストタートルと軋みながら浮かび上がる岩たち、その姿は何か演奏でもしているかのようだった。

 咆哮を上げ続けたエボニーフォレストタートルはプレーヤー達を再び見つめ、ふんと鼻息をついた。それを合図に浮かび上がっていた大岩がプレーヤー達に向けて落下し始めた。


 ごごごご、音を鳴り響かせて大岩はプレーヤー達を押し潰す。回避できずろくに抵抗できなかったプレーヤーはあっけなくHPの大半を削られ怯んでしまう。そこへエボニーフォレストタートルは足踏みでなく、プレーヤー達目掛けて歩み始めた。ただ歩くだけだったら大したことないと思うかもしれないが、この山のような巨体が歩みを始めればプレーヤーなんてあっけなく踏み潰されてしまう。まるで人がアリを踏み潰すように。


 前衛にいたプレーヤー達はなんとかその巨体から逃げようとするが、地割れを起こした地面と、辺りに転がる大岩に邪魔されてうまく逃げることができない。エボニーフォレストタートルが歩くたびにプレーヤーが一人また一人と踏み潰されていく。


 中衛にいたプレーヤー達はそれぞれ前衛プレーヤー達を援護したり、後退しながらエボニーフォレストタートルへ攻撃を続行していた。



「もういっちょだ! 『エメラルドバースト』!」

「きゅー!」


 ワースはミドリの背中に乗りながら『ソウルコネクト』からの『エメラルドバースト』を敢行していた。ミドリの背中と同じ色の光を杖に灯し、エボニーフォレストタートル目掛けて解き放つ。

 ごっ、と衝撃波を放ちながら自身の付与術(エンチャント)と子音の支援魔法(バフ)によって強化された『エメラルドバースト』はエボニーフォレストタートルの甲羅にそびえ立つ山の中腹に当たりそこにあった木々を薙ぎ払う。


「あぁん! 私もあーいうのしてみたかった!」

「ねぇちゃんには無理でしょ」

「わかってるよ! でも、ペットと連携攻撃って浪漫だよねぇ……」


 あるふぁはフレイムリザードマンのディノの背中に乗りながらワースを羨ましがる。戦闘の片手間、自分のメリットで何かできないかと思索を初めて見るのだった。





「撃てええええええ!」


 前進するエボニーフォレストタートルへサクラは再度魔法攻撃を放たせるべく叫び声を上げた。


 再び宙に舞い開く万色の華。それぞれ破壊力を持った嵐がエボニーフォレストタートルを襲う。その猛攻にエボニーフォレストタートルは思わず前進する脚を鈍らせた。



 戦いはまだ始まったばかり。

 エボニーフォレストタートルは目の前に広がる閃光に目を細めながら息を吸い込んだ。




今回は以前募集したオリキャラが何人か登場しています。

月草イナエさん、ikarebitoさん、名瀬結論さんありがとうございます。


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