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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
71/114

9話 レイドマッチスタート

 ■■■


 それから一週間。プレーヤー達はアップデートに伴い追加された要素を楽しみつつ来るレイド戦:帝都攻略に向けて己を鍛えた。ワース達もその中に入っている。


 そして、時間は流れるように過ぎ去り、ついに帝都攻略が始まった。




 ■■■


 Merit and Monster Online公式ホームページ


 最新の公式イベント


 『帝都攻略』

 始まりの街から遙か北東の方に位置する帝都。帝都には強大な力を持つ存在が眠っており、外部との接触を断ち、伝統を守り続けてきた。


 そんな帝都だが、なんと異変が起きたようだ。なんとも東西南北を守護するモンスターが一斉に暴れ出したという。帝都内は混乱に見舞われていて、この混乱を収めることができない。


 さぁ、諸君。帝都へ赴き門を守護するモンスターを鎮め、異変を調査せよ。そして、帝都に平和をもたらせ。



 条件:このイベントはレイドイベントです。参加資格は特に制限はないが、始まりの街から北東の方にある帝都への入り口となるプレキャビーまでたどり着くことが必須です。

 人数制限はありませんが、事前にプレーヤー同士でレイドパーティと呼ばれる特別なパーティに加わっている必要があります。これは東西南北で1つずつ用意され、このレイドパーティに参加することでレイド戦に参加・及びレイド戦におけるデスペナルティの免除が為されることになります。


 このレイドボスは、それぞれ東西南北の門の4ヵ所で戦闘することになり、この4体を倒すことによってレイドクエスト第1段階クリアとなります。

 この第1段階クリアの期間は2月8日から2月15日までの1週間です。

 この期間中に各門にいる全プレーヤーで4体を倒すことで、帝都へ入りことができるようになりレイドイベント第2段階へ移行します。

 第2段階については、第1段階クリアが為された時に公開します。


 レイド戦は各レイドボスの膨大なHPを何度も戦って削っていく形になります。全員のHPが全損することで1回の戦闘が終わり、終了してから23時間後に再挑戦することができます。各プレーヤーは一度レイドボスと戦うと次回以降そのボスと戦うことになります。別のレイドボスと戦闘することはできないのでご注意ください。


 レイドイベント第1段階でボスとなる門の守護者はこちらとなっています。


 北門:エボニーフォレストタートル。

 西門:シルバーライトニングタイガー。

 南門:ヴァーミリオンフェニックス。

 東門:ラピスラズリブルードラゴン。


 こららのレイドボスを倒すと、そのレイドボス特有アイテムを手に入れることができます。活躍すればするほどアイテムは豪華に大量になっていきます。レイドボスに与えた総ダメージランキングや被ダメージランキングも行いますので、ふるってご参加ください。






 ■■■


「後30分だな」

「あぁ……」

「なんだか緊張するねぇ」


 ワース達はプレキャビーで一頻り準備を整え終え、北門組の移動が始まるまで待機していた。

 ワース達『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』は、北門のエボニーフォレストタートルに挑むことにしていた。大きなクランであれば人数を分けて他の門へも挑戦者を送り込むのだが、一桁しかいない少数クランであるワース達はそんなことせずに全員で同じ門へ突入することにしていた。挑む相手はもちろん亀であるエボニーフォレストタートルに決まっていた。


 ワースはこの日のために新しく手に入れた素材を使ってさらに強化を重ねた杖を片手に周囲を見渡した。

 今回このレイドイベントに参加するプレーヤーは約4万5千人。第1陣プレーヤーのほとんどに加え、第2陣プレーヤーの半数を含んだ数だ。こうしたイベントをお祭りのように捉え、どのプレーヤーも楽しげに祭りの開演を待ち焦がれる。デスペナルティが免除され且つ痛みに対する緩和が行われているためいくら殴られてもあまり痛くない。それこそゲーム気分で楽しめるようになっていた。




「ちゃんと準備は出来てるよな?」


 心配性なノアがもう一度アイテムストレージの中を、目を皿のようにして確認する。その隣でしずくはご主人様の様子を黙って見守っていた。ノアの様子に隣にいたアカネも心配そうに自分のアイテムストレージを確認していた。




「……楽しみ」


 テトラは頭の上にレイを乗せてミドリの背中に腰かけていた。テトラのペットであるレイは飼い主であるテトラに似て落ち着きを払っていた。テトラの髪の中に体を半ば埋める様にして戦闘の始まりを待っていた。テトラはミドリの甲羅の感触を確かめて精神統一を図っていた。





「ふわぁぅ。今回はちょっと張り切りすぎたかな……」

「姐さん、大丈夫?」

「うんうん、眠いけど大丈夫だよ」

「いろいろ頼みすぎて悪かった」

「いいや、私がやりたかったからやった。やりたくなかったらやらないからそこのところは心配いらないよ。そういう時は素直にありがとうって言ってくれればこっちも嬉しいよ」

「……ありがとう」

「ふふ」


 マリンは眠い目をこすりながら低い姿勢をするワースを見詰める。マリンはこのイベントのために通常のお客さんの装備のメンテナンスはもちろんのこと、『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』のメンバー全員分の装備を強化・調整を行った。その作業が昨日遅くまで掛かってしまったため、今も眠気が残っている。でも、マリンはメンバーがよりいい装備で戦えることに一つの満足感を味わっていた。




「ディノ、フルーツ、げろっぴ、そしてねーこ」


 あるふぁは周りにいる自分のペットであるフレイムリザードマンとデザートウワバミ、マッドトリップガエル、シェイテッドキャットに声をかけた。どれもあるふぁの大事なペットだ。いつもはパーティ制限があってどれか1匹しか連れて歩けないが、今回レイドイベントでは人数制限がないため、あるふぁは全員参加させることにした。


「頑張ろ」

「ぐるおお」

「しゃー」

「げこげこ」

「にゃーご」


 あるふぁの呼び声にペット達はやる気に満ちた声を上げた。




「うぅーなんか緊張するよ……」

「大丈夫だって。子音の役割は俺らのバックアップだろ? いつも通りだって」


 緊張のあまり体ががちがちに固まっている子音にニャルラはのんきそうに声を掛ける。


「どーせ前で戦わないんだし、気楽にやってけばいいって」

「そうはいっても……」

「俺なんか、ほら。どこも緊張してないだろ?」

「……うん」


 まったくもって緊張の色を見せないニャルラの姿を見て、子音は少し緊張を解す。


「涙目の男の娘を、宥める男の娘……! (ジュルリ┌(┌ ^o^)┐」

「おい、やめろ。それはシャレになんねぇぞ」

「そうだよ! 第一男の娘なんて心外だよ!」

「はいはい、すみませんー」


 隣から口を挿み二人から怒られるマヤ。1週間前に出会ってから何度か出会う機会があり、ニャルラと子音はマヤと気楽に話せる仲になっていた。それゆえの不躾な一言である。どちらも中性的で一歩間違うと女性と見間違われるその顔付きから、マヤは男の娘と20年前に流行った言葉で呼んでいた。


「まったく。シルバレの方はとっくに準備万端だよな」

「えぇ。今宵の黒炎刀は血に飢えてますよ……!」

「ふふ、俺のブラッドブラッキーの方が今にも血を啜りたがってるぜ」

「ぬふふ」

「くふふ」

「「ふふふ……!」」

「ちょっと二人とも。気色の悪い笑いは止めてくれないかな?」


 子音が暴走し掛けた二人を止める。


「へへ、緊張は解けたかな?」

「えっ、あっ」

「戦闘前にあんなに緊張されてもな。まぁ、なにはさてあれ子音が本領発揮できるようで何よりだ」


 ニャルラは悪戯に成功した子供のような無邪気な笑みを浮かべるのだった。




「準備はいいか!」


 拡声器のようなアイテムを片手に甲冑に身を包んだ女性が斧を杖のようにして仁王立ちしながら声を張り上げた。


「知っている人は多いだろうが、一応この場で行っておく。私は『青い薔薇』のクランリーダーを務めさせてもらっているサクラだ。今回の帝都北門攻略において私が指揮をとらせてもらう。よろしく頼む」


 サクラの堂々とした物言いにプレーヤー達は興奮の声を上げた。


「さぁ、行くぞ!」

「「「おぉ!」」」


 サクラの指揮のもとに、一団は北門をめざし行進しはじめた。






 ■■■


「はぁ」


 『五色の乙女』として南門のヴァーミリオンフェニックスを攻略することになったメイはため息をついた。『五色の乙女』は規模としていえば中規模で、今回のイベントでは人を四つに分けて四か所の門に向かわせることにしたのだった。メイは『五色の乙女』南門担当として割り振られたメンバーを纏めてこのイベントに参加するのだった。


 メイは自分と共に『五色の乙女』として戦うメンバーを見て軽くため息を漏らした。

 それもそのはず。


「準備ちゃんとできてるー」

「もちもち。みかんはー?」

「明日の宿題がまだ……」

「あっ、忘れてた」

「ちゃんとやらないとダメだぞ、かおりん」


 メイと共に戦う『五色の乙女』の面子はメイを含めて6人。その内の3人は問題ではない。戦闘ではまずまずだし(メイ基準の話である)、性格も悪くなくむしろいい子達である。問題は、残る2人になるわけだが、これまた戦闘や性格の問題ではない。戦闘に関しては他の3人よりも上である。

 何が問題なのかといえば、この2人。メイの同級生なのである。

 メイは学校では品行方正な優等生で名が通っていてあまりゲームが好きでない、となっている。これは現実(リアル)仮想現実(ゲーム)をきっちり区切りたいという考えからである。ゲームをやっているとなれば、一緒にやろうと言い出す人も出てくるわけで、そうなるといろいろとめんどくさいと考えていた。

 友達である三条香織と小林美柑は事あるごとにメイをこのMMOに誘ってきて、結局メイは自分が高レベルプレーヤーであることを明かすことはなかった。しかし、何の因果かこの2人は『五色の乙女』に入ってきてしまい、何ともメイの頭痛の種になっていた。普段であればなんとかやり過ごせるが、メンバーが分断された状況でメイはこの二人にリアルバレしないかひやひやしていた。二人のことはすぐにわかったが、逆に二人はメイのことをまだわかっていない。

 嘘をついているという罪悪感、いつバレルのではないかという焦燥感がメイの心の奥底で苦しめていた。


 メイは気持ちを切り替えるべく、顔をぱんぱんと叩いた。


「みんな、持ち場はわかっているね」

「「「はい!」」」

「それじゃあ、頑張っていくよ」


 メイはそうメンバーに告げ、自身の意識を戦闘モードへシフトさせた。





「おーい、それじゃあ僕たちも行くよ!」


 この南門攻略の指揮官として『世界を渡る猟団』クランリーダーのワ☆タ☆ルが声を張り上げた。

 戦いの幕開けを目指して、一行は南門前に足を進めた。







 ■■■


「我らが青き龍ラピスラズリブルードラゴンを打ち倒すぞ!」

「「「うおおおおおおお!」」」


 『ドラゴンナイツ』クランリーダーのアレックスが、東門攻略の指揮を執り全体の士気を上げていく。





「やーれ、ドラゴン退治は気合が入るな」

「そうだとも、なんとも厨二心をくすぐられるというか……」

「ばーろー、それは兄貴だけだ」


 レオナルドはそう嘯く。彼自身も早くもこのイベントに興奮しているという事実を隠して、隣にいる男を嗜める。


「まったく男どもは何とも」

「まぁまぁ、いいじゃないの」


 ローズとフィレンツェがその後ろで言葉を交わす。

 『チョコレート・カレーライス』は東門に挑戦することにした。それは単にリーダーであるベロッキオの独断だった。


「まぁ、祭りだ。楽しまないと損だぜ」

「カイトの言うとおりかしら」


 戦いの前の高揚した空気にプレーヤー達は興奮を隠しきれない趣だった。





「楽しみだねぇ」

「そうだね」


 メルといずなもまた東門攻略組の中にいた。彼らもまたこのお祭りを楽しみにしていた。


「斬って斬って斬りまくる」

「まぁほどほどにしておきなさい」

「へーい」


 二人の距離は遠くも近くもないままだ。これが彼らの距離。今までも、これからも変わらぬ距離。

 二人は同じパーティメンバーとして、連携を組みながら龍に挑む。




「ククク、楽シミ」

 ダブルブレードを背中にしょい込む男はただ戦闘が始まるのを一人静かに待ち構えていた。







 ■■■


「後、5分。皆さん、準備は万端ですか?」


 鈴を鳴らすようなきれいな声が拡声器を通して西門を陣取る集団の耳に流れ込む。

 声の主は『シルバーバレット』クランリーダーのエリス・グロリア。大規模クランのクランリーダーの分担として、この西門攻略組の指揮を執っている。声に合わせて、彼女の腰に掛けられている拳銃がかたりと揺れる。




「いやー、なんかこういうのってぶち壊したくなる空気だよね」

「そこで同意を求められても……」

「壊すなら俺を……!」

「てい♪」

「ぐぇ」


 シェミーが手に持っていた槍をボルゾイの脳天に振り下ろす。いくらダメージが発生しないと言っても痛みは感じられる。ボルゾイは痛みに頭を抑えながらにへら気色の悪い恍惚とした笑みを浮かべる。


「暴れるのはボス戦が始まってからです」

「はーい」


 ニコラスの言葉にシェミーは素直に頷いた。


「あの笑顔! このためなら俺は何だってできる気がする……!」

「くそぅ、この笑顔を汚したらという妄想が止まらん」


 シェミーを取り巻くようにして何人もの男たちが頭を抱えたり天を仰いだりしている。この男たちはシェミーのバックアップ組織:シェミハザ機関の連中だ。


「はーやーく、戦いたいな」


 シェミーは周りの男たちに目もくれず、ただ前を見据えていた。










 そして、時計の分表示はぴったり00を示し、レイドイベントの開始を告げた。


 戦いの刻が、今ここに始まったのだ。




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