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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
7/114

4話 青年は同士を見つける

 ■■■


「えっー!」


 唐突に素っ頓狂な女の子の声がグリーンロードに響く。少女を囲む、他の少女たちは声をあげた少女に困惑の目を向けた。


 それは、パーティの仲間と共にわらわらとポップしてくるモンスター達を一掃し、束の間の休息をとっている最中に起こった。少女は届いたメールを開き文章を読むなり叫び声を上げたのだった。


「メイ、どうしたん? メールになんかあったん?」


 褐色の肌の金髪の少女は、声をあげた少女へ問い掛ける。


「何があったんです?」


 水色の髪を背中の中頃まで垂らしている女性(そこにいる女の子達の中で一番年上そうに見えるため少女ではなく女性としておく)もまた、メイの行動に首をかしげながらも少女に答えを促した。


「いや、お兄ちゃんからなんだけどね」


 唐突に声をあげた少女の返答に、周りの女の子達はどよめきの声を上げた。


「それで、なんだって? お兄ちゃん、実はお前がいないとダメなんだ……とか?」


 ピンク色のショートカットヘアーのいかにも元気そうな女の子がからかうように言った。


「……ランラン黙ってて。私も知りたいから」


 その隣にいた緑色のボブカットの小柄な女の子が言った。


「えっと、なんかお兄ちゃんがグリーンタートルをペットにしたんだって」

「「「「えっー!!!」」」」


 メイの仲間の女の子達4人は、そんなメイの言葉に驚いた声をあげた。


「いや、だってグリーンタートルでしょ!? あれってユニークモンスターだよ!?」

「うんそうなんだよね、一体どういうことなんだか」

「じゃ今から行かん? もうあたしらもう帰るところだし」

「どうかしらメイ。私もそのお兄さんを見てみたいわ」

「うん、ちょっと聞いてみる」


 メイは兄へ会いに行ってもいいかメールを打ち始めた。




 ここでメイ達のパーティについて説明しておこう。

 褐色の肌で金髪の少女の名前はカリン。武器はハンマーでパーティのダメージディーラーを務める。

 水色の髪を背中の中頃まで垂らしている女性の名前はアジサイ。このパーティのリーダーだ。水属性魔法を主力としている。魔法による攻撃と支援を両方を行う。

 ピンク色のショートカットの髪の元気そうな女の子の名前はランラン。武器は片手剣で、索敵や罠解除などを行う。

 緑色の髪のおとなしめな女の子の名前はナゴミ。魔法を使うが、回復魔法も使い、パーティにおいてヒーラーの役割だ。

 それにメイを加えると、数々なゲームを共に渡り歩いてきたパーティ『五色の乙女』のメインメンバーが揃うことになる。ゲームによって人数に増加はあるものの、メインメンバー5人共仲が良く、ゲームの中だけでなくリアルでもオフ会をするほどの仲だ。



「メイにお兄さんがいるとは聞いてはいたけど、一緒にプレイしてたのね……」

「それもそうだけど、そのメイのお兄さんがユニークモンスターをテイムしてしまうだなんて……」

「ユニークモンスターのテイムなんてβテスターの時にはいなかった」

「もしかして、そのお兄さんって凄腕だったりして」


 メイを除いた4人はそれぞれ勝手なことを言い合っていた。メイ自体が顔がよく、ゲームもうまいということで、その兄に対する期待が高まっていた。

 少ししてメイは4人の方へ顔を向けた。


「もうそろそろ晩御飯にするからログアウトするって」

「えー 会いたかったのに」

「今晩またログインするからその時はどうって言ってたよ。詳しい時間と場所は任せるって」

「じゃあじゃあ、ちょっと時間おいて、22時に東門の銅像前でいいんじゃない?」

「わかった、ご飯の時に伝えとくよ」




「それでは、一旦街に帰ってアイテムの整理とかしましょう」


 パーティのまとめ役であるアジサイが仕切った。アジサイの雰囲気故に、いつもアジサイがまとめ役に入るのだった。、


「メイ、ご飯は大丈夫?」

「ナゴミちゃん、それは大丈夫だよ。19時まではログインしてていいって」

「それは良かった」

「じゃ帰ろー」


 5人の少女達は悠々と道を歩きながら街へ帰っていった。途中襲いかかってくるモンスターを薙ぎ払いながら。






 ■■■


「うーん、おいしいっ」

「そういってくれると作ったかいがあるな」


 明奈と真価は晩御飯を食べていた。食卓にあるのは朝作ったカレーとスープ。このスープは真価は早めにログアウトして作ったものだ。コンソメベースにホタテや海藻を加え、味に深みを加えたものだ。


「そうそう、さっきのあれだけど、22時に東門の銅像前ってことにしたの」

「その4人って……」

「カリンちゃんとアジサイさんとランランちゃんはβテスターで、ナゴミちゃんは私と同じ本サービス開始組だよ」

「そうか、なるほど。βテスターって数少ないんだよな、凄い人たちじゃないか」

「まぁそこは運だよ、ホントは私だってβからやりたかったけど、所詮抽選だもの」

「そうか、それで一つ聞きたいのは、やっぱりグリーンタートルをテイムするのは凄かったのか?」

「そりゃそうだよ。そもそもテイム自体が難しくて、ましてユニークモンスターとなるとβテストの時にはいなかったんだよ。正式サービス始まっている今だとどれくらいいるかはわからないけどそんな話聞かないし、たぶんお兄ちゃんが初めてじゃないかな。テイムはLUC値が高くないと成功しないし、そこにもリアルラックが関わって来るし、お兄ちゃんどうやってテイムしたの?」


 明奈は自分がいない間に何が起きたのか気になっていた。まさかユニークモンスターのテイムに成功するなどと思いもしなかった。元々真価が時折想像もしないようなことを成し遂げることがあり、今回もそれかと思った。


「うーん、俺も特に何かしたって訳じゃないんだよな。抱き着いて噛み付かれて、それで落ち着かせようとしたら俺の手が光って、だな」

「……ユニークモンスターに噛み付かれて、大丈夫だった?」

「あぁ、大丈夫だったぞ。HPの半分をもってかれたけどな」

「全然大丈夫じゃないじゃん」

「無事ペットにできたから問題なし」

「はぁ、お兄ちゃんったら……いつもこうなんだから」


 明奈は溜め息を吐いた。真価はいつだってそうだった。自分が興味を持ったことになるととことんやる。自分の体のことなぞ考えることなしに。ただがむしゃらに、興味の持ったことを突き進んでやるのだった。


 晩御飯をつつがなく食べ終わり、二人はわずかな休憩を取った。いくらゲームとはいえ疲れるものは疲れる。休めるときに休む、それが明奈の経験からくる鉄則だった。


 休憩を取った後は、そのまま一日を終えるにはまだ早いので、再びMMOの世界に旅立つ二人。


「じゃ、向こうでまたね」

「あぁ、またな」





 ■■■


 ワースが目を開けると、そこは先ほどログアウトした宿屋の一室だった。隣に、手足を甲羅の中にしまい込み、頭だけをそこに出しながら寝ているミドリがいた。

 ワースが横たわっていた体を起こすと、ミドリもそれに合わせてもぞもぞと起き始めた。宿屋でログアウトしたときにミドリはベッドの足元にいたが、いつの間にかワースともにベッドで寝ていたようだ。


「とりあえず、時間がくるまで店でも回るか」


 現在時刻21:01。約束の時間までゆうに時間があり、それまで時間が余っている状態だった。ワースの呟きに、まるで言葉を理解しているかのようにミドリはこくんと頷いた。



 宿屋を出たワースとミドリ。先程グリーンロードから帰ってきた時はあまり人の数は多くなかったのだが、この時間となると多くの人が始まりの街に帰ってきているようだった。夕食を食べ終え再びログインしてきた人、仕事が終わり家に帰ってきてログインしてきた人、はたまたずっとこの街を徘徊している人など、様々な人達がこの始まりの街の中にいた。

 あまり人に注目されたくない真価は、隣を歩いているミドリをどうにかして隠しておけるものはないかと、メニュー画面を開いた。ペットを収納できる機能なぞないかもしれないと思っていたワースだったが、ありがたいことにそれに類する機能がミドリのステータス画面にあった。ワースはステータス画面に浮かぶ『CLOSE』の文字をぽちりと押してみれば、あら不思議。ミドリは光の粒子となって姿を消した。代わりにアイテム欄にミドリの名前が表われた。


「ペットをしまっておけるんだな……」

「βの時にはなかった機能だねぇ……」

「……これって再び出してあげることもできるよな?」

「それはできるでしょ? 出来なかったら訴訟ものよ」

「そうですね…… ってあなたは誰!?」


 ワースは思わず会話をしてしまった人の方へ振り返った。そこにはタンクトップのシャツを着た大柄な女性が立っていた。


「あぁ、すまないね。ついつい面白いものを見つけてしまったから話しかけてしまったよ。私の名前はマリン。まだ店は持っていないけど将来は名を轟かす鍛冶屋になる女だよ。よろしく」

「あぁ、よろしくお願いします。

 ……それで、いきなり声かけてきてなんなんですか?」

「だから言ったじゃないか。面白いものを見たから、ついね」


 マリンは女の人にしては似合わない大声でがははと笑った。男の中で平均的な身長のワースよりも頭一つ分大きいマリンはどこか嬉しそうだった。


「いや、βの時はテイマーをやってたんだけどね。これが大変で大変で、ろくにテイム出来やしなかったから、こうしてペットを持っている人を見ると嬉しくなっちまうんだよ」

「そうだったんですか、やっぱりテイマーは難しかったですか?」

「そうだね。はっきり言ってテイムは運と時間だからね、ロマンでしかないよ。特に序盤はね。LUC値をあげないとまともにテイム出来やしないんだよ。LUC全振りでようやく芋虫を、だったかね。LUC全振りで戦闘は安定しないし、だからといってテイムしたペットが序盤の敵なんだからね、たかが知れてるのさ。まぁ、グリーンタートルをテイムした君なら話は違うだろうね。なんといっても硬さで定評のある亀さんだからね」

「そうだったですか、べーたてすと?はやっていないので参考になります」

「そう、正式サービスで鍛冶屋に転向した私が言えた立場じゃないけど、頑張ってくれ。リアルラックでユニークモンスターをテイムした君に、興味が湧いて来たな、よし、初心者な君にいろいろ協力してあげようと思うんだよ」

「あ、ありがとうございます」

「ただし、教えるには一つ条件がある」

「……なんですか?」


 ワースはいきなり真面目な表情を浮かべたマリンを前にごくりと息を呑んだ。溜めを作り、真面目な表情を浮かべたままのマリンの口から厳かに言葉が紡がれた。


「君のペットを、じっくり見せてくれ」






 ■■■


「おいで、ミドリ」


 ワースとマリンは場所を移し、『風水亭』と呼ばれるバーに入った。マリンがβテストの時から行きつけだった店だそうだ。『風水亭』にはカウンター席とテーブル席、そして2階に個室があり、二人は個室の席を取りその中でワースはミドリを呼び出した。仕舞う時は『CLOSE』だったが、呼び出す時は『OPEN』に代わっていて、ぽちりと押せば先ほどの光景を逆再生するかのようにミドリは姿を現した。



「いやーグリーンタートルねぇ、正直びっくりだよ私は」

「正直妹に言われるまで凄いこととは思わなかったんですよね……」

「ユニークモンスターのテイムなんてとんでも凄いことなんだぞ。ノーマルモンスターのテイムだってすごいはずなのに、これを見てしまったらあまりの凄さに顎が外れてしまいそうだよ。あ”ぁーあのきゅんとした瞳、ほんとかわいいじゃないか」

「ちょっ、あの、体をゆさ、ぶるのを、やめっ」

「おっと、済まない。思わず興奮して君を揺さ振ってしまったよ。大丈夫かい?」

「……はい、なんとか」


 ワースは目の前のマリンを改めて見た。目がキラキラと輝いていて、心なしかうずうずしていた。ワースはマリンが自分と同類だとわかった。


「触っていいですよ」

「おおっ、それでは早速……」


 そう言いながらマリンはミドリをぺたぺた触りはじめた。始めはぺたぺたなでなでといった感じだったのが、次第にぐにぐにと撫で回すように触っていた。


「マリンさん、亀は好きですか?」

「ん? 当たり前じゃないか、こんなにもかわいいだろ」

「そうですよね! 特にこのつぶらな瞳と前脚が」

「君、わかっているじゃないか! やっぱり君も亀は好きかい?」

「はい、もちろんですよ。ある意味でこのゲームを始めたのは亀と会うためです」

「たしかにPVで亀系モンスターが登場していたものね…… そうそう、上野動物園の爬虫類館とかは行くかい?」

「暇を見つけては通っています。あそこはゆうに一日中いれますものね」

「わかるねぇ、わかるねぇ。伊豆の亀族館は?」

「何度も行きましたよ。あそこはいいところですよね」

「そうだねーつい行ってしまうんだよね。一時期閉鎖を危ぶまれたが、なんとか残ってくれて嬉しいと思うよ。私にとってあそこは安らぎの場だからね……」

「ほんとですね、よかったマリンさんが話のわかる人で」

「それはこっちの台詞だよ。そうだそうだ、フレンド登録しておこう。」

「こちらこそお願いしようと思っていました」

「よし、それじゃ……」


 二人はフレンド登録しあった。ワースのフレンドリストにメイとマリンと、女性名ばかりが次々と登録されていく。


「そうか、君の名前はワース君か」

「よろしくお願いします、マリン姐さん」

「むぅ、その呼び名は始めてだがなんかむず痒いな」

「でも、なんか。その方が合ってますよ」

「そうか、ならそれでいい」


 ふとワースは時計を見た。時刻は21:53。もう待ち合わせ場所に行かないと時間になっていた。


「すいません、この後待ち合わせがあるので……」

「わかった。行ってきなっ、と言いたいが少し待ってくれ」


 マリンはそう言いながら、ごそごそと自分のアイテム欄から何かを探し出した。


「ワース君、君にこれを餞別にあげよう」


 そう言ってアイテムを実体化させた。一個の指輪だった。銀色のリングに何か刻印が刻んであった。


「これは、一体……?」

「わずかながらAGIを上昇させる指輪だ。先程作ったばかりの物だ」

「いや、こんな物もらえないですよ」

「店に行けばもっと性能が良い物もあるだろうから気にすることはない。これはミドリちゃんを見せてくれたお礼だ、フレンドになれた記念というべきかな。ぜひ、受け取ってくれるかな。特に深い意味はないのだよ」

「……わかりました。ありがたく頂きます」


 ワースはそう良いながら目の前に表れたトレード画面を見た。そして金額の欄を0から1500に変更してOKを押した。


「えっ、お金なんていらなかったんだが……」

「いいえ、これは俺からのお礼と気持ちです。これからもフレンドとしてよろしくお願いしますという気持ちです」

「ワース君……君はいい人だね。お姉さん、惚れそうだよ」

「まぁまぁ、後で姐さんの作った武器とか見に行きますからね」

「うむ、君が来た時に備えて武器を作っておくよ」


 ワースはミドリを再度仕舞い、この席を取ったマリンと共に店を出た。この後マリンはワースと出会った時と同じように始まりの街をぶらつくようだ。


「では、また」

「あぁ、最高の武器を用意しておくよ」


 ワースは約束の時間に遅れないように東門へ走り出した。その様子をマリンは店先に立ったまましばらく見つめていた。


「なかなか面白そうじゃないか、ワース君」


 マリンの顔には笑みが浮かんでいた。






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