7話 チャコールファウンテン
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ワース達がファングクリフを探索している頃。
ノア達はテフォルニアの西にあるチャコールファウンテンと呼ばれる洞窟にいた。
チャコールファウンテンは、テフォルニアの街の西門から出ると遠くに見える大きな黒い山である。全体的にごつごつとしたフォルムをしていて大きな海の傍にそびえ立っているのがこの山だ。山全体が石炭で構成されていて、ところどころでは今も燃え続けていると言われている。至るところに存在する採取ポイントでは石炭に加え、珍しい鉱石を手に入れることができる。
そんなチャコールファウンテンの中にノア達はいた。中は至るところに炎がいい塩梅に燃えていて蝋燭代わりとなって洞窟を照らし、ノア達は周囲を警戒しながら足を進めていた。
『召喚剣士』ノア、『剣術士』ニャルラ、『鍛冶師』マリン、『冒険者』アカネの4人。それにノアのペット:アイスニードルウルフのしずくと、マリンのペット:オーシャングラムシェルのシェリーを含めたのがこのパーティだ。
ノアについては以前紹介したのでここではその他のメンバーを紹介する。
ニャルラはワース達と何度もパーティを組み、クランを作るということでメンバーに入ることを快諾した。職業も『剣士』から『剣術士』に昇格している。『剣術士』は『剣術』を使いこなし、より強力な剣技が使えるようになっている。ニャルラの服装は、今から約二十年前に流行ったVRMMOを題材としたアニメの主人公にものと酷似していて、部分的に金具を使って基本的に黒色の布装備で、上からそれまた真っ黒い裾が長めのコートを羽織っている。『黒づくめ』とあだ名がつきそうなぐらい真っ黒だった。背中には2本の剣が交差するように括り付けてある。一本は鞘も刀身も真っ黒な『ブラッドブラッキー』という名の剣。もう一本は『ブラッドブラッキー』とは対照的に透き通るような青色の『オーシャンクリスタル』という名の剣。ニャルラはこの2本の剣を器用に操って戦う。
ニャルラは『二刀流』というメリットを取得しており、片手剣を左右の手にそれぞれ双剣よりも自由に動かして攻撃することができる。もっとも『二刀流』を取得するには専用のイベントクエストを発生させて無事クリアしなければ取得できず、取得しているプレーヤーは多くない。強力な『二刀流』にも弱点はあり、癖が強いため上手に使えるとなるとかなり少ない。ニャルラはこの『二刀流』を完全に扱いきれているとは言えないが、モンスターを倒すには十分なほど操れている。『二刀流』以外にも『体術』系列のレベルが上がり『足』の派生メリット『豪脚』を手に入れていた。剣以外の攻撃手段も揃っていると言えよう。
マリンは鍛冶屋として店を出しながらも、ワース達といると面白いという理由でクランに入った。いつも一緒に行動できるわけではないが、空いた時間や材料を集める間は一緒に行動する。ワースに触発され、ある程度までステータスやメリットが充実した時に『テイム』を取得した。βテストの時はうまくいかずテイムできずにいたが、セイガイ洞窟で材料集めをしていたところオーシャングラムシェルという甲羅が大きな亀モンスターを見つけ無事にテイムした。シェリーと名付け、いつもマリンと一緒にいる。海にいたのだが、海亀タイプではなく陸亀タイプなシェリーはその大きな甲羅の防御力と口から吐く泡でよくマリンを助けている。
マリンの主武器は片手槌で、盾を併用して攻撃を受け止めつつ横から叩くという戦い方を取る。元々戦闘系ではなくメリットの半分を生産系で埋めているため、戦闘にはあまり自信がないが、盾役としてはなかなか優秀である。自分が鍛えた自慢の盾は生半可な攻撃を受け止めるだけでなく跳ね返すほどである。アップデータの直前になんとか作り上げた現状で最高の装備に身を固めたマリンは他のメンバーと同じくらい戦えると自負している。このチャコールファウンテンではもちろん採取や採掘でどんなアイテムが取れるか楽しみであるが、それ以上にパーティをしっかり組んで戦闘でどれだけ役目を果たせるか楽しみにしていた。
アカネは以前ワース達と一緒にグリーンロード攻略を手伝ってもらった時以来、何度かワース達と一緒に行動を共にした。普段はそれで動きながらも臨時パーティには積極的に参加し、自身の強化に勤しんだ。戦闘をこなしレベルが上がれば上がるほど手にするお金は増え、初めの目的だったかわいい服を手に入れるということも達成できていた。それがアカネにとって楽しみなっていた。ワースがクランを作ったと聞いて自分も、と思ったがその時はまだ1次職の『狩人』だった。せっかくだから2次職になってからワース達のクランに入りたいと思い、なんとか頑張って2次職である『冒険者』になった。かくしてアカネもクラン『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』に所属することになった。『冒険者』という職業は『狩人』と比べて攻撃力に欠けるものになるがそれを補うようにして冒険するうえで必要となる『索敵』や『目』といった情報系メリットを一纏めにした『冒険者の心得』というメリットを取得できる。ステータス的にはAGIにしか補正が掛からないが、デフォルトで行動阻害系状態異常にある程度の耐性を持っていたり、役に立つメリット・スキルが取得できたりとボーナスが多い。
銀色の縁取りのあるライトブルーのミニスカートに黒のレギンスを履いて素肌の露出を減らし、白地のシャツに上にはパールピンクのコートを羽織って裾を風になびかせて、背丈ほどの大きな緑色の鎌『マンティススラッシャー』を背負ったのがアカネだった。メリット『鎌』をメインに鍛えてきたアカネはその派生メリット『大鎌』を取得し、この大鎌『マンティススラッシャー』を装備できている。
ノア達は『索敵』に優れるアカネを先頭に盾役のマリンと一番の戦闘職のニャルラが続き、そしてこのパーティのリーダーになっているノアが後方に控えてチャコールファウンテンを進んでいた。
「ん。モンスターっす」
「了解」
アカネの呟きにマリンはにやりと笑みを浮かべながら盾を構えなおす。先ほど見つけた採掘ポイントで入手しにくかった鉱石系が手に入ってご機嫌だった。
「数は6。名前は『スミビト』っす」
「炭人ってw」
「どんな感じなんだろうねぇ」
「るーるー」
アカネの言葉にニャルラは思わず吹き出し、マリンはのんびりとどんなドロップアイテムを落とすか期待に頬を吊り上げた。シェリーはマリンに追従するように笑みを浮かべ、後方のノアは静観を貫き通した。ノアは初めてのフィールドでどこまで戦えるか気になっていた。チャコールファウンテンに突入してからいくつか採取ポイントと採掘ポイントを見つけたが、これまで戦闘はなかった。つまりこれがチャコールファウンテンでの初戦闘となる。
「戦闘はいつも通りで。決して気を抜かないように。どんな攻撃をしてくるかわからないからね」
「了解っす」
「はーい」
「わかったよ」
進んでいくと奥から真っ黒な人型が6つもぞもぞと歩いてくるのが見えた。きっとこれが『スミビト』だ。
「戦闘開始」
ノアの声に一番先に動いたのはアカネだった。
大鎌に手を掛けて足を踏み出す。
「『ダッシュ』!」
弾丸のように飛び出したアカネは一気に距離を詰め、大鎌を振るった。がきんと音を立ててスミビトと大鎌がぶつかり合い、両者は互いに弾かれ合った。
「思ったよりこれ、硬いっすね」
アカネは弾かれた勢いで後退し、距離を取った。ヒット&ウェイがアカネの信条だった。見たことないモンスターにはとりあえず斬りかかってみて、そこから戦法を練る。そこから他のメンバーが追撃する、それが戦闘におけるアカネの役割だった。
スミビトはいきなり攻撃されたことに驚き、ぷんぷんといかにも怒ってますよという素振りを見せて6体一斉に突撃してくる。
「それじゃあ、気を付けないとな」
ニャルラは至極楽しげな表情を浮かべて『ブラッドブラッキー』を抜き放ち、スミビトの1体にすり寄り袈裟掛けに振り下ろした。アカネの時のように弾かれはしなかったものの刃はスミビトの体表で受け止められていた。
「これじゃあ、スキル使わないと切れないわ」
ニャルラは左手を握り締め拳をその1体に撃ちつけ後ろによろめかせた。
「ふーん、斬撃耐性はあっても衝撃には強くないんだね」
「まぁ、そうだろうね!」
もう1体をアカネが担当し、マリンとシェリーは残った4体の動きを止めるべく盾と甲羅をそれぞれスミビトへ押し付けた。
「喰らえ、『コンパクトインパクト』」
マリンは盾を押し付けたまま片手槌を振るい、スミビトの腕に当てる。どんと音を響かせて腕はぽろりと取れてしまった。
「うわーこれ、脆いじゃん」
「へぇ、凄いじゃん」
後方では戦況を見据えながらノアは『召喚術』を使用する。
「おいで、ぽるん」
「お呼びですか、ご主人様~」
ノアの傍らに手のひらサイズの水色の妖精の姿の女の子がふわりと現れる。ノアの召喚獣“ぽるん”だ。『中級水属性召喚術』から『上級水属性召喚術』までランクアップしたため、召喚獣の姿をかなり弄れる様になり、ノアはぽるんを妖精の姿にした。言葉もある程度喋れるようになり、戦闘技術も上がっている。いくつもの水属性魔法を操り、召喚術で召喚できる妖精ほどではないが魔法で敵にダメージを与えられる。
「援護を頼む」
「了解しました~」
ノアは自身も水属性魔法を発動させながらぽるんにそう命ずる。青色の魔法陣が足元に現れ、詠唱状態のノアはすっとスミビトを見詰める。見たところ飛び道具や魔法を使う者は無し、ただ殴ってくるだけで斬撃には強い、といったところかとノアは呟く。ニャルラが拳と足を使ってスミビト1体を殴り倒し、アカネがマリンやシェリーが押さえるスミビトの注意を引き、そこにしずくが氷柱を吐きながら加勢している。
「行くぞ! 『フレシキブルレイン』!」
「『バブルブレス』~」
ノアの持つ大剣の先から青い光がスミビト達の頭上に立ち上り、そこから雨上がりの太陽の光のようにまっすぐスミビト達に伸び水流を浴びせた。続いてぽるんの魔法が発動し、泡の塊がぶくぶくと湧き上がりスミビトを包み込んだ。
「ん……あまり水属性魔法は効かないんだな」
ノアの呟きにマリンはこくんと頷く。
「あぁ、そうみたいだねぇ。やっぱりこういった攻撃が一番だろうね、コイツらには」
そう言ってマリンは黒光りする片手槌を振りかぶり、スミビトに叩き付けその体を破壊した。
それから2,3分もしないうちに無事にスミビト達を倒し終えた。
「スミビトだけに、ドロップも炭か」
そう、スミビトのドロップアイテムは何の捻りもなく『炭』だ。マリンが嬉しいような嬉しくないような微妙な顔をしているのもそれが原因である。
「まぁまぁ、まだ入ったばかりだからね。先に進もうか」
「はーい」
「了解っす」
「はいはい」
ノア達はチャコールファウンテンを進んでいく。まだ見ぬモンスターやアイテムを求めて。
 




