表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
68/114

6話 シルバーバレット

 ■■■


 ファングクリフを進むワース達。その前を『シルバーバレット』第2隊が歩いていた。共闘は出来ないが、一緒に進むことによって数が多くなってくる戦闘を互いに分け合って互いの負担を減らそうとした。

 何度かの戦闘ごとに前後を入れ替え、今は『シルバーバレット』第2隊が戦闘を受け持ち、ワース達は休憩を兼ねながらその後ろを歩く。後ろを歩いているからと言ってまったく戦闘がないとは限らず後ろからアッシュテイルズガルが襲い掛かってきたりするが、基本的にモンスターは前からやってくる。プレーヤーの気配を感じ取ったモンスターがその狩りをするべく姿を現す。



 今ちょうど『シルバーバレット』第2隊の前に姿を現したのはグレイファングウルフとアッシュファングウルフの複合の群れだった。数は合わせて10。


 先頭を歩くアメリアは自身の『索敵』で正面から近づくその群れを認識し、隣を歩くフロイランにそれを伝えた。『盾剣士(ガードナー)』のフロイランは右手に持つ下に尖った正五角形の大きな盾を持ち上げ、左手に持つレイピアを盾に隠すようにして戦闘準備を済ませる。いつでも盾で受け止めながらレイピアで攻撃できるようにするためだ。盾で敵を抑えレイピアでちくちく刺す、それがフロイランの基本戦法だ。他には盾で敵を打ち払い怯んだところに一気にレイピアでラッシュをかけるという戦い方もできる。


 フロイランから伝達を受け、その後ろを歩く他のメンバーも戦闘準備を整える。

 いち早くモンスターの存在を知ったアメリアは両肘に括り付けてある小さなバックラーの位置の調子を整え、使用する魔矢(マジックダーツ)の種類を絞る。アメリアの職業(ジョブ)は『魔矢使い(マジックダーツァー)』だ。『弓使い(アーチャー)』の上級職の『魔矢使い(マジックダーツァー)』はかなり様相を変え、半ば魔法職の様となる。魔力を込めて作り出した魔矢(マジックダーツ)という投矢を使い、それを手で投げつけることで攻撃する。道具を使わず手で投げることで、威力・命中ともにそのプレーヤーの技量によるものが大きくなる。魔矢(マジックダーツ)はその他の魔法や弓矢に比べ飛距離が短いが、連射性に優れて取り回しや種類に優れている。火・風・水・土・光・闇属性といった属性魔矢(エレメンタルマジックダーツ)は標準装備としてもちろんのこと、状態異常付与メリットと組み合わせて状態異常魔矢(バッドコンディションマジックダーツ)や、属性魔法メリットと組み合わせて当たった瞬間に一定の魔法を発動させる遅延魔法魔矢(スローマジックダーツ)などといった様々な種類を扱うことができる。それこそメリット『魔矢(マジックダーツ)』をベースとしてどのメリットを組み合わせるかによってどんな魔矢(マジックダーツ)が扱えるかが変わってくる。プレーヤーのビルドによっても戦術が変わってくるためなかなかに極めがいのある職業である。アメリアはメリット『土属性魔法』と組み合わせた土属性遅延魔法魔矢を主戦力としてバランスよく上げたステータスを武器に動き回りながら魔矢(マジックダーツ)を連射するスタイルを取っている。両肘に付けたバックラーのおかげで混戦状態に陥っても多少身を守ることができるようにしている。


 アメリアの後ろを歩くマヤは背中に斜め掛けに背負うその身に勝るほどの大太刀の柄に手を掛け、一気に大太刀を鞘から抜き出し刀身を露わにした。抜き出した大太刀の刀身から黒い炎が轟と音を立てて燃え上がる。『大太刀(おおたち)』とは『太刀(たち)』の派生メリットで、太刀よりも大きくリーチの長い大太刀を使う。マヤの持つ大太刀は『黒炎刀(こくえんとう)』という名前だ。この『黒炎刀(こくえんとう)』はあるイベントクエストの末手に入れたもので、この大太刀を扱う者の生命力を奪って切れ味を増し、斬ったものを燃やし尽くすという説明がある。実際に斬撃に『黒炎(こくえん)』を付与する効果がある。この『黒炎(こくえん)』は炎属性と闇属性の複合のようなものとなっており、低確率で斬った相手を火傷状態異常にさせる。一方でこの『黒炎刀(こくえんとう)』を持っている間はHPが削られていく。まさしく生命力を吸っているといえる。また剣の峰で相手を打つとスキルは発動できないもののわずかにHPを回復することができる。マヤはこの『黒炎刀(こくえんとう)』を使う時は基本的に黒炎の刃で斬り付けながら、HPが減ると隙を見て峰で殴って回復するという戦法をとる。もっとも、峰で殴った時の回復量はたかが知れているので、パーティメンバーの回復に頼らざる負えない。

 マヤはその高火力な『黒炎刀(こくえんとう)』で敵を斬り付け、一気に殲滅する。攻撃を受ける前に攻撃して敵を倒せばいい、という戦法をとる。単体ではあまりにピーキーすぎるのでパーティメンバーの支援あってこそ安定した行動が取れる。


 マヤの隣を歩くふみりんは、腰に括り付けてある2丁の愛銃『ツヴァイエクスプロージョン』をくるりと回転させながら抜き出し、両手にすっぽりと収める。『銃使い(スナイパー)』のふみりんの戦法は単純明快である。弾丸(たま)が尽きるまで敵に撃ち続けるだけである。移動しながら撃ったりするが、なにより反動やリロードが面倒であるため基本的固定砲台となりがちである。走り撃ちするときは右の拳銃で撃ち弾丸(たま)が無くなったら左と入れ替える。命中精度よりは弾幕を張って制圧するのが好きである。


 その後ろにいるいつきはパーティメンバー全員に支援魔法と付与術(エンチャント)をほぼ同時に掛ける。『支援士(バッファー)』であるいつきは様々な支援魔法・付与術を扱う。支援魔法と付与術(エンチャント)のメリット・デメリットを踏まえていて、無駄の無いように効率的なバックアップを整える。今現在パーティメンバーに掛けているのは一戦闘の間パーティメンバー全員のSTRとAGIを底上げする支援魔法『行軍支援』と、武器で直接攻撃するフロイランとマヤ、ふみりんの3人に武器攻撃の際に威力上昇・急所率微上昇効果のある付与術(エンチャント)戦意高揚(ヤルキアゲアゲ)』を掛ける。


 その隣のロゼッタはこれまたいつきと共にパーティメンバーに効果のある歌を歌う。『聖歌隊(クワィアー)』のメインメリットである『聖歌(サークレッドソング)』は『(ソング)』と同じように歌を歌い一定のところまで歌うと効果が発揮される歌系スキルを覚える。歌系スキルの特徴は歌えば歌うほど効果が強化・持続されていく。戦闘中に歌うのは難しく、一定の声量・途切れないことが条件となるがその分見返りも大きい。例えば今ロゼッタが使用している『大地讃頌』はパーティメンバーのHPを一定量づつ自動的に回復していく。これでマヤの『黒炎刀(こくえんとう)』の反動ダメージをほぼ無効化し、他のメンバーにしても多少攻撃を受けてもすぐに回復できるようになる。もっとも少し歌っただけではほとんど持続しないが、戦闘中歌い続けるとずっと効果を発揮していくことになる。ずっと歌うと現実では疲れるが、ここはゲームであるため大して疲れない。また『聖歌隊(クワィアー)』は歌うだけが仕事ではなく、楽器を鳴らすことによって似たようなことができ、楽器を武器に敵を殴ったりできるのが特徴だ。ロゼッタは手にハンドベルを持っていてそれをチリンチリンと鳴らしながら楽しげに歌っていた。いざとなったらそのハンドベルでモンスターを殴りつけることをパーティメンバーは知っている。さりげなくハンドベルが対象に入るメリット『槌』のレベルがそこそこ高いため混戦になってもしばらく戦えるだけの力は持っている。



 『シルバーバレット』第2隊のメンバーはそれぞれ戦闘準備を済ませ、グレイファングウルフとアッシュファングウルフの群れを待ち構える。真っ先に攻撃をするのはふみりん。メンバーの中で一番飛距離が長い。


「いっけえええ! 『レイブラスタ』!」


 スキルを発動させながら銃弾を撃ち放すふみりん。一匹のグレイファングウルフの額に着弾した弾丸は爆発を起こし着弾したグレイファングウルフのHPを大幅に削る。MPを大きく消費するこのスキルは飛距離が長く威力も大きいため、ふみりんは本来の戦い方から外れているが気に入っているスキルである。攻撃されて気が立ったグレイファングウルフとアッシュファングウルフの群れは一斉に距離を詰めてくる。


「そおい!」


 飛ぶようにして近づいてくる狼たちにアメリアは片手に3本づつ、両手に作り出した魔矢(マジックダーツ)をクロスさせた両手を外へ打ち払うようにして魔矢(マジックダーツ)をばら撒く。それぞれが土属性遅延魔法魔矢で、着弾した瞬間に魔法が発動して小さな砂の竜巻(サンドストーム)が生み出される。砂の竜巻(サンドストーム)を受けて足並みが鈍るものの構わず突っ込んでくるグレイファングウルフをマヤがにやりと笑みを浮かべながら『黒炎刀(こくえんとう)』でスキル『横薙ぎ』を使う。


「らああああ! 燃えろおぉおいぃ!!」


 けして女子らしかぬセリフだが、大きく禍々しい『黒炎刀(こくえんとう)』を扱うマヤにはぴったりなセリフだった。見事3匹を横薙ぎし、その一撃で3匹とも後ろへ吹っ飛ばす。今もマヤの手には黒炎が立ち上りHPを削るが、ロゼッタの歌によって相殺され、マヤは痛みと癒しの両方を感じていた。普段は礼儀正しい少女だが、戦闘となると様子が変わるタイプだった。この『黒炎刀(こくえんとう)』の影響もあるが、元々その様子はあった。

 マヤは笑みを深くしながら次の獲物を狙って『黒炎刀(こくえんとう)』を振るう。


 マヤの範囲から逃れて襲い掛かるグレイファングウルフとアッシュファングウルフを、フロイランは『挑発(タウント)』を使いながら自分に注目を寄せさせて大きな盾で受け止める。動きを一瞬止めたグレイファングウルフを盾の中に隠していたレイピアで一突きし、隣のアッシュファングウルフの額を狙ってスキルを放つ。


「『ポンプスピア』」


 突く・引き戻すの速さが速いこのスキルで、アッシュファングウルフの注目をフロイランに惹きつける。例え後ろにいるふみりんやアメリアが攻撃しても、ターゲットを変更されないよう惹きつけるのがフロイランの役目だ。ターゲット管理に優れているため隊長に選ばれたフロイランにとってこの程度のターゲット管理は簡単だった。あくまで自分が倒すのではなく、パーティとして機能するようターゲットを管理する。例えラッシュを掛ければ倒せそうでもその役目は他のメンバーに任せ、自分は自分の仕事をする。その意識がはっきりしているのがフロイランだった。


 その後ろから魔法を飛ばし一匹のグレイファングウルフの動きを束縛しているのがいつきだった。支援魔法と付与術(エンチャント)を使う以外に、いつきは土属性魔法の拘束系魔法を使い、パーティの負担を軽くしようとしていた。ちょうど跳躍していたグレイファングウルフが足を置いたところに小さな泥沼を作り足を沈めて動きを束縛する。ポイントを見極め、的確に足を沈めるその手際は手慣れたものだった。本来なら鎖状の拘束魔法を使いたいが、この状況だとなかなか使い辛いため諦めて泥沼作戦を展開していた。


 ロゼッタはパーティメンバーに守られながら一人歌を歌う。パーティメンバーのHPを自動回復させる歌を。その歌声は戦いの場らしかぬ雰囲気を醸し出し、ロゼッタのいる空間は荘厳な雰囲気に包まれれていた。さながらロゼッタのソロライブを行っているかのようだった。






 それぞれの役目を果たしながら戦闘はわずか5分もかからずに終わった。

 いつきとロゼッタの手厚い支援に加え、フロイランのターゲット管理が冴えた戦闘だった。







 ■■■


「お疲れ様です」

「えぇ、そちらもね」


 ワース達『亀が好きすぎる魔法使いと愉快な仲間たち』と『シルバーバレット』第2隊は少し広がった休息ポイントで休憩を取っていた。休息ポイントとは、モンスターのPOPしなく中には入ってこない特別な場所で、こういったダンジョンのある一定の間隔で存在する。少し広がっているため休憩にはもってこいの場所である。


 二パーティはその場で休憩を取りながら、このファングクリフの話をしながら、今後の帝都前の4方の門で行われるレイドボス戦について話をした。


「プレキャピーまではもう行きましたか?」

「えぇ、それは一応。行った時は特に何もない町だと思いましたけど」

「ふふ、私たちもそう思いましたわ。何の変哲もなく足止めされた場所に何があるかと気になってましたわ」

「それが結局レイドボス戦の舞台へ行く場所ですからね。驚きですよ」


 ワースはフロイランと話をしながら情報を聞いていく。さすが攻略組と言われるだけのクランとだけあって、まだ始まっていないレイドボス戦についてある程度の情報を持っていた。


「そうそう、貴方たちはどこの門に行きますか? 当然、貴方たちもレイドボス戦には参加なさるのでしょ?」

「えぇ、もちろん参加しますよ。どこの門かはまだ決めていませんけどね」


 レイドボス戦は、基本的にプレーヤー達はそれぞれ一つの門のボスと戦った方がいいと言われている。それはボスの傾向を掴んでより大きなダメージを与えるほうがいいためだ。そのためプレーヤーの中ではどの門を攻略するかが話題になっている。相性の問題もあるが、基本的には好みの問題が大きい。朱雀モチーフのヴァーミリオンフェニックスのいる南門と青竜モチーフのラピスラズリブルードラゴンのいる東門が人気である。


「まぁ、俺は北門にしたいと思ってますよ」

「その理由を聞いてもいいかしら」

「単に亀が好きだからですよ」

「ふふ、面白いわ。たしかに貴方は亀が好きなんでしたものね」

「はい、亀が好きすぎて。できればテイムしたいなと。まぁレイドボスですから無理でしょうが。そういう『シルバーバレット』はどうなのですか?」


 ワースは微笑を浮かべるフロイランに照れを感じることなく疑問をぶつける。


「『シルバーバレット』としては特に決めていないわ。隊ごとに自由に決めていいと聞いているわ。私たちは現状では北門にするつもりでいますわ。もしも貴方たちも北門にするであれば同じになりますね」

「何か理由でもありますか?」

「理由は私たちのパーティ構成ですわ。他のボスですと動きが俊敏で、パーティメンバーを守り切れないでしょうが、鈍重な亀ならばなんとかなると思ったからですわ」

「なるほど」



 ワース達とフロイラン達は雑談を交えながら情報交換をする。それと同時にそれぞれの疲労を回復させた。


「さて、時間がもうそろそろだよな」

「あれ、帰還結晶はお持ちでないのですか?」


 フロイランはアイテムストレージから一つの緑色のクリスタルを見せる。


「あぁ、今回実装された課金アイテム」

「これがあれば一気に街まで戻れますのよ」

「残念ながら俺たち一つも持っていないんだよね」

「そうですか、それではここでお別れですね。私たちはこのままもう少し探索をしますので」

「それですね。短い間でしたが、お世話になりました」

「いえいえ、こちらこそ。有意義な時間でしたわ」


 フロイラン達はこれから来た道を戻っていくワース達を見送る。





「へぇ、いいもの持っていたね」


 あるふぁがワースに話しかける。


「あぁ、帰還結晶か」

「私も一つぐらい持っておくかな」

「俺も考えておこう」


 ワースは疲れが少し残る体を抱えながら杖をついて来た道を戻る。他のメンバーはまだまだ元気を残している様子に自分も頑張らねばと気を引き締めた。


「今日は収穫があったな」

「うん」

「ですね」

「がっぽがっぽだね。マリン姐さんに武器強化してもらいたいところだね」


 ワース達は少し数を減らしたモンスター達に気を付けながら帰り道を急いだ。海の上に浮かぶ真ん丸の月がワース達を照らしていた。







 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ