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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
66/114

4話 ファングクリフ

 ■■■


 前へ進むワース達一行。

 崖っぷちを歩く一行だったが、その足取りは軽い。


 なぜなら、ここまで4回ほど戦闘を行ったが大して消耗せず、なおかつ見たことのないアイテムを手に入れることができたからだ。さすがは新フィールドといったところだ。手に入れたアイテムは、グレイファングウルフのドロップアイテム『灰牙狼』の牙や毛皮といったものや、グレイファングウルフより一回り大きく牙がむき出しになっているアッシュファングウルフのドロップアイテム『灰被牙狼』シリーズ、それに加え道端の採取ポイントで拾えた『海沿草』というMP回復アイテムや『崖縁土』という柔らかい土が回収できた。この土は武器や防具に使えそうなアイテムだ。


 ほくほく顔のワース一行。

 そんな彼らを嘲笑うかの如く、空の支配者が鬨の声を上げる。





「「「クケー!!!」」」


 上空から聞こえてくる鳥の鳴き声。

 ワース達は一斉に顔を上げた。すると、そこには10羽以上もの鳥がばさばさとワース達の頭上を旋回し、見下ろしていた。


「注意!」


 ワースの声に、パーティメンバーは一斉に身構える。

 この状況はおそらく、鳥たちが襲い掛かってくる。



「……数は12。名前は『アッシュテイルズガル』」

「了解。サンキュ、テトラ」

「ん、問題はどのように攻撃してくるか、ということ」


 テトラのその疑問にあるふぁは口を挿む。


「オーソドックスに上空から急降下して突いてくるんじゃないかな。海猫だったらそうじゃない?」

「翼で殴ってくるかもよ。もしかしたら風魔法を撃ちだして来たり……」

「そうだねぇ、ゲームだからそれもアリだね」


 あるふぁの見解に子音が新たな切り口を示す。二人の息がぴったりと合っているのは、さすが姉弟といったところか。


「攻撃方法によっては、こっちの攻め手が足りないぞ……」

「ワースの土属性魔法か、子音の火属性魔法以外は降りてくるまで何もできないね」

「僕の魔法は威力不足だよ……」

「そうだったね、とするとワース頼みになるね」


 あるふぁのあっけらかんとした物言いにワースはため息をつく。


「はぁ、俺の魔法だって対空には向いていない。土属性は空中ではどうも分が悪い。これが風属性なら逆だったんだがな」

「今こうしている間も攻めれる、それが風属性。雷属性ならなおさら」

「はは……、まぁやってやれないことはないんだけどな」


 ワースは未だに上空で警戒しながらアッシュテイルズガルを見据え、ミドリの隣に立つ。


「一発だけだ、これができるのは。開幕一発目は任せろ」

「なんだかわからないけど頼むよ」

「お願いします」

「……ワース、頑張って」

「じゅらじゅら」


 3人と1匹の声援を受けて、ワースはミドリの甲羅に手をやる。


「ミドリ、準備はいいかい」

「きゅ、きゅわきゅわ」


 ミドリはいい返事を返し、ワースはそれに顔がほころぶのを感じた。

 そして顔を引き締め直し、スキルを発動させる。



 『魂術』スキル『ソウルコネクト』。

 対象となる相手に直接手を触れ、魂を繋ぐ。手を触れたパーティメンバーのステータスやスキル表示が一時的にワースの視界にウィンドウとして映り、ワースはその中からお目当ての物を探す。お目当てのスキルを見つけたワースはそれを迷わず押し込んだ。


 ミドリの背中のエメラルドの結晶が光を放ち、その光はワースの杖の先に集まり、上空へ解き放たれた。


 対象とした相手のスキルを自らのスキルとして発動させるこのスキルによって、ワースはミドリのスキル『エメラルドバースト』を発動させた。

 『エメラルドバースト』とは、エメラルドタートルであるミドリの背中の大きなエメラルドの結晶から溜めこんだ光を解き放ち敵に攻撃するスキル。INTもDEXも大して高くないミドリが使うと狙いが荒く大してダメージを与えられず、せいぜい密接した状態からの反撃にしか使えないこのスキルだが、ワースがこうして使うと、ワースの高いINTとDEXのおかげで威力の高い魔法攻撃として使えるのだった。ビーム攻撃であるこのスキルは、上空にいるアッシュテイルズガルを何羽も巻き込んで空へ解き放たれる。収束した光の束がアッシュテイルズガルを襲い、喰らったアッシュテイルズガルは地上へ叩き落され、残ったアッシュテイルズガルは味方が攻撃を喰らったことへ怒り地面へ急降下を始めた。




「さぁ、来るぞ」


 ワースは『ソウルコネクト』を解除して、ミドリから離れる。ミドリは心残りのある声を出しながらも、目の前の戦闘へ意識を移した。


 あるふぁはディノに指示を出し、鞭を片手に上空を見据える。もう片方の手で吹き矢を掴み、急降下してくるアッシュテイルズガルを狙う。

 テトラは足に力を入れて落下してくるアッシュテイルズガルと急降下してくるアッシュテイルズガルとのタイミングを計り、『ジャンプ』を発動させる。いくつものスキルを重複させて高く飛び上がったテトラはちょうど降りてきたアッシュテイルズガル目掛けて忍刀を振るう。

 子音は上を見据えながら杖を振るい支援魔法を発動させる。対象は飛び上がるテトラ。ダメージを軽減させる『衝撃緩和』に加え、自動的にHPを回復させる『回復加護(リジェネーション)』をテトラに掛けた。


「「クケエエエ!!」」


 急降下してきたアッシュテイルズガルは嘴を地上にいるワース達に突き刺してくる。それをミドリやディノが率先して受け止める。ミドリはその堅固な甲羅で、ディノは片手に持つ円盾で。ミドリは難なく受け止め、お返しに至近距離からの『エメラルドバースト』をぶちかます。一方ディノはというとアッシュテイルズガルの突く攻撃の威力が高く、円盾で受けるもののその衝撃に当たり負けして軽く仰け反ってしまう。ディノはなんとかカトラスを振るうもののアッシュテイルズガルは上空に戻ってしまう。


「グエエエ!」


 ワースが使った『エメラルドバースト』を喰らい地面に落下してきたアッシュテイルズガルは、地面に激突する前に風魔法を使い地面にふわりと浮かび上がり、そのまま低空飛行してワースを目指して突進する。

 ワースはその様子を見ながら杖を軽く振り回し、突進するアッシュテイルズガルに狙いを定める。


「グルエエエエ!」

「『瞬閃』!」


 ワースの杖とアッシュテイルズガルの嘴が瞬く間に交差し、両者はそれまでいた位置を入れ替え、その場で動きを止めた。





「くっ、やっぱりダメージを喰らうか」

「グゲエエ……」


 ワースは左腕を抑え、アッシュテイルズガルはその身を地面に横たえる。

 両者は互いに攻撃を交わし合い、痛み分けの状態になっていた。

 ワースの杖がアッシュテイルズガルの翼を抉り、アッシュテイルズガルの嘴がワースの左腕を抉る。

 HPを見れば、ワースは全体の2割が削れており、アッシュテイルズガルは最初に受けた『エメラルドバースト』と合わせすでに7割が無くなっていた。


「まぁ、いいだろう。これで終わりだ。『ステルスピア』」


 ワースは振り向き際にぱちりと指を鳴らす。すると片翼をもがれたアッシュテイルズガルのもう片方の翼が羽を撒き散らして真ん中に大きな穴が開く。

 大地属性魔法『ステルスピア』。

 設置型魔法であるこの魔法は、指定した場所に不可視の槍を地面の中に設置しておくことができ、任意のタイミングで地面から地上へ突き出させることができる。ワースはこの魔法を至るところに設置していたのだった。


「これで1匹は始末した訳か」


 ワースが仰ぎ見れば、まだアッシュテイルズガル達は何羽も上空を旋回している。

 思ったより苦戦しそうだとワースは感じた。








 ■■■


「らぁ!」


 吹き矢を早々に戻し、鞭を振るうあるふぁ。その隣に円盾とカトラスを器用に扱うフレイムリザードマンのディノがいた。吹き矢によって多少の牽制は出来たものの、アッシュテイルズガルは何羽かで編隊を組み突撃してくる。アッシュテイルズガルの特徴はその鋭い嘴だった。当たればHPをがりがりと削られるその嘴を前に突撃してくるのがなかなかに厄介だった。


「『スマッシュ』!」


 急降下してくるアッシュテイルズガルを狙って鞭を叩き付けるもののなかなか当たらない。


「あぁもうめんどい!」


 あるふぁはそう悪態をつく。こちらからの攻撃はなかなか当たらないのに、向こうからの攻撃は喰らってしまうのだから。ストレスがたまるのも仕方なかった。当たったとしてもダメージは軽微。元々あるふぁの鞭はダメージを与えるよりも状態異常を与える方が向いている。しかし、このアッシュテイルズガルはどうも状態異常に対してある程度の耐性を持っているようでなかなか状態異常にならない。


「『ライジングフェルネ』!」


 鞭を蛇のようにしならせ、黄色いオーラを纏わせてびしりと打ち据える。

 中空を走るその黄色い稲妻はちょうど降下してきたアッシュテイルズガルに当たり、その体を硬直させる。

 状態異常『麻痺』が発生したのだ。


「ディノ、ごー」

「ぐるる」


 あるふぁはディノに指示を出し、ディノは痺れて動きが鈍くなったアッシュテイルズガルの姿を確認し、カトラスを意気揚々と振るう。あっという間にアッシュテイルズガルのHPを減らしていく。

 他のアッシュテイルズガルがあるふぁ達に襲い掛かるが、あるふぁが鞭を走らせ牽制を掛けつつ、それでも構わず飛んでくるのはディノが盾で受ける。



「あ、あ、ああ!」

「子音!」


 何羽かが後ろにいた子音目掛けて降下してきて攻撃してくるのがあるふぁの目に移った。


「ええい、小癪な!」


 あるふぁは鞭を振るい、子音に群がるアッシュテイルズガルを打ち払う。アッシュテイルズガル達は上空に戻り、再び機会を窺う。あるふぁは手の打ちようがないことに口を噛み締める。


「ディノ、次来たら火炎しなさい。いいね」

「ぐるる、じゅわじゅわ」


 フレイムリザードマンであるディノは口から火を噴くことができる。しかし、その火炎は周りを巻き込む危険があるため普段は使わないようにしている。この状況はたしかに周囲のあるふぁ達を巻き込む可能性はあるが、それ以上にアッシュテイルズガルを倒すにはこの方法しかなかった。


「お姉ちゃん」

「いいから。ほらまず仕事しなさい」


 子音はこくりと頷き、回復魔法の詠唱を始める。あるふぁを始め、HPがだいぶ減ってしまっていた。


「大丈夫か」

「えぇ、なんとかね」


 ワースの声にあるふぁは苦笑混じりに答える。



「テトラは……っとあそこか」



 ワースが空を仰ぎ見れば、そこには宙を舞う漆黒の少女の姿があった。

 『ジャンプ』を使い、アッシュテイルズガルを足場にして空を舞う。一歩足を踏み外せば、地面に落ちて大ダメージを負ってしまう。そんな危険を顧みずテトラは空を跳びながらアッシュテイルズガルに刃を突き立てる。



「『疾風舞』」


 舞を踊るかのように軽やかに空を駆けるその姿は目を見張るものだった。そして、確実にアッシュテイルズガルの数を減らしていった。



「『軽業着地』」


 なんとも端的に意味を表したスキルを使い、テトラは低空にいたアッシュテイルズガルから飛び降り地面に降り立つ。

 テトラはワース達にVサインで答えた。


「これで残り6羽。残りもそこそこダメージを負ってる」

「ありがとう、テトラ。さぁ、行くぞ」



 ワースの言葉に他のメンバーは声を上げた。






 そして、5分後。

 なんとかアッシュテイルズガル達を全滅させることができた。


 ワース達は戦闘が終わりドロップアイテムを確認する間もなく地面にへたり込んでしまうのだった。




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