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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第3章 Imperial Capital
65/114

3話 アドベンチャー

 ■■■


 それぞれ行きたいところを整理して方向性を確認し2つに分けた結果こうなった。


 ワース・あるふぁ・テトラ・子音がグレイエッジの北にあるファングクリフと呼ばれる崖へ。

 ノア・マリン・アカネ・ニャルラがテフォルニアの西にあるチャコールファウンテンと呼ばれるほの暖かい洞窟へ。



「それじゃあ、行こうか」

「了解だよ」

「問題なし」

「うん」


 ワース達は傍らにミドリを連れて始まりの街北門の転移門をめざし歩き出した。





 ■■■


 始まりの街から北にブラウンマウンテンを超えた先にテフォルニアがあり、そこからテフォル湿地帯を超えると、グレイエッジという街がある。グレイエッジは切り立った崖の近くに位置し、西にあるジ・オリジンオーシャンという広大な海から出る水蒸気を受けて常に靄がこの街を覆っている。

 靄が覆う街グレイエッジ。建物は全て立方体でかつ灰色に塗られ、窓は全てすりガラスだ。それらが等間隔にぴしっと並んでいる光景は、独特の雰囲気を放っている。見る者の心を静まらせるような、心の色を白にも黒にもならない灰色にさせるようなそんな感じを与えた。


 ワース達はグレイエッジで店を少し覗いた後、目的のファングクリフへ向かった。




 グレイエッジを出て切り立った崖の道に沿って歩けば、そこはすでにファングクリフだった。灰色の牙のようにそびえ立つ崖。その外観は何か巨大な生物の骸骨であるかのようだ。巨大な崖の下は激しく波打つ海が広がっており、ところどころに波の浸食によってできた尖塔が牙のようにそそり立っていた。

 ファングクリフは広大な海:ジ・オリジンオーシャンを取り囲むようにしてどこまでも広がっており、ワース達の見える先には川が流れているらしく、海へ滝として水が流れているのが見えた。




「さーて、進もうか」


 そう言って鞭をひゅんひゅんと音立てて気合を入れたのはあるふぁだった。傍らにはペットであるフレイムリザードマンのディノが主に代わって周囲に耳をそばだてていた。


「ミドリ、どう?」

「きゅー!」


 ワースはエメラルドタートルであるミドリに調子のほどを確かめた。ミドリはこくんと頷き、自分が元気であることを体全体で表現した。背中のエメラルド色の結晶を光り輝かせ、脚をがっちりと地面に叩き付けるようにして踏ん張り、首を大きく反り上げて胸を張っていた。

 ワースはミドリの頭をよしよしと撫で付け、杖をとんと地面に突き付けた。


「ほわぁーすごいなぁ……」


 子音は手に持っている杖を地面にかつんと当てて周りを見渡した。

 切り立った崖の向こう側にはどこまでも広がる雄大な海があり、彼らがいるのはそんな崖の端の道なき道の上だった。後ろを振り返れば潮風に揺れる樹木がちらほら見受けられた。真っ青に染まり雲一つない空には何羽かの海猫がぐるぐるとキャンバスの上を走る筆のように旋回飛行を続けていた。現実世界でこう言った風景を見られる場所は数少なく、子音はこの美しい光景に目を奪われていた。


 テトラはというと、自らの役目を全うしようと周囲に『索敵』のレーダーに注視しており、万が一『索敵』に掛からないモンスターに備えて周りの風景にも目を配っていた。手は忍刀の柄に添え、いつでも抜刀できるように警戒していた。そもそもテトラの『索敵』レベルであれば、その網を掻い潜れるモンスターなんてそうそういないものだが、それでもテトラは警戒を続けた。前に一度自身の『索敵』で認識できないほど『隠密』のレベルが高い敵と出くわして、それ以降どこか過敏になっているのだった。




「テトラ、モンスター達はいる?」

「ここからまっすぐ500メートル先に6体の反応」


 ワースが問いかけると、テトラは間髪入れずに答えた。


「……狼、名前はグレイファングウルフ。名前の通りの外見」

「了解」

「狼、かぁ」

「何かあるの、あるふぁ姉ちゃん」


 あるふぁがどこか気の抜けた声を出し、子音がそれをたしなめるようにじろりと見る。


「いやー、狼だったらテイムは面白くないなって話」

「そうだったね、爬虫類しか興味ないもんね」

「そうじゃないよ、両生類とかも興味あるよ」

「結局変わらなくない?」

「たしかに」


 あるふぁはくくくと笑い声を上げて鞭を地面へ一振りする。


「どういった感じで倒す?」

「いつも通りでいいだろう。ミドリとディノが前衛、あるふぁとテトラが中衛で、俺と子音が後衛。ミドリとディノには基本的に敵の攻撃を受けて攻撃し、あるふぁは状況ごとに位置取りしてミドリとディノの邪魔にならないように攻撃。テトラは状況を見つつ側面から攻撃。子音はとりあえず誰かのHPが半分切ったらヒール。それまでは支援。俺は魔法攻撃をしつつ援護って形かな」

「「「了解」」」

「基本はこんな感じだろう。後は、相手次第だな。狼となると機動力が面倒だな。あるふぁ、機動力を奪えるか」

「もちろん」

「それじゃ、それメインで頼む」

「距離300メートル。こちらに気付いている模様」

「わかった、それじゃあ、行こうか」


 ワース達はそれぞれ武器を手にグレイファングウルフの集団との距離を詰めた。








 ■■■


「ぐるおおお!」


 真っ先に攻撃を仕掛けたのはあるふぁのペットのディノだ。地面を大きく蹴り、カトラスを振りかぶり水平に斬りかかる。

 グレイファングウルフは飛び退いて攻撃を躱すが、その勢いに早速呑まれ始めた。


「まず、1発目。『ストーンランス』」


 ワースが口頭詠唱で展開し終えた魔法を撃つ。

 石を固めて作り上げられた細長い手持ち槍がワースの頭上から射出され、左側手前にいたグレイファングウルフの右足を穿った。


「真ん中狙ったつもりだったんだけどな」


 ワースはそんなことを言いながら次の魔法を詠唱していく。


「『衝撃緩和』」


 子音がダメージを軽減させる支援魔法をディノに掛ける。光魔法の中に属するこの魔法は付与術(エンチャント)と違い能力値を変化させることはないが、ダメージならば何でも軽減してしまうものだ。また、怯みや転倒などといった一部の一時的状態異常の発生率を抑えることができる。


「わおおおーん」


 1匹のリーダーと思わしきグレイファングウルフが雄たけびをあげ、他のグレイファングウルフがその雄叫びに支持されるようにして動き始めた。どうやらディノに集中攻撃するようだ。


「ぐるおおおっ」


 ディノはカトラスを縦横無尽に振り回し、襲い掛かってくるグレイファングウルフを斬り付ける。グレイファングウルフが爪で切り裂いて来たり、牙を突き立ててきたときは腕に括り付けてある円形の盾で防いだ。しかし、グレイファングウルフの動きが速く、なかなか攻撃を当てることができず、ディノのHPはめりめりと減っていった。


「ディノ!」


 あるふぁはディノの背中に手を当ててスキルを発動させる。『テイムマスター』スキル『応援』。ペットのHPが半分以下の時に発動可能となるスキルで、発動してから30秒間STRとVITとAGIを1.2倍する。直接触れないと発動できないが、ここ一番という時に活躍できるスキルだ。


「『中位回復(ミドルヒール)』!」


 子音のヒールがディノの元に届き、半分まで減ったHPを回復させる。


 それまでディノの後ろで鞭を振るっていたあるふぁはディノの前に出て鞭を地面に向かって振るう。


「『地鳴り』!」


 『鞭』範囲型スキルであるこの攻撃は周囲にいたグレイファングウルフ2体を捉え、『恐慌』状態に陥らせた。一時的に攻撃が行えなくなるこの状態異常により、5体のグレイファングウルフの集団の攻め手を減らした。


「がるるるる!」


 グレイファングウルフのリーダーは牙をむき出しにして、咆哮する。

 次の瞬間、その姿はあるふぁの目の前に現れ、鞭を持つ手に噛み付いた。


「っ、痛っ」


 あるふぁはがりがりと減っていくHPに目をやりながら空いた手でグレイファングウルフの頭をがんがん殴りつける。


「きゃいん」


 グレイファングウルフのリーダーはがんがんと殴りつけられ、何度か目で堪らず口を開いた。あるふぁの職業『調教師(トレイナー)』のパッシブスキル『調教師』が発動し、獣であるグレイファングウルフに怯みを発生させた。


「『マッドシェイカー』」


 ワースの魔法が発動し、最初より数が減っているグレイファングウルフ4体全員をぬかるみに変えた地面に引きずり込んだ。

 爪を立て必死に抵抗するグレイファングウルフを、それまで攻撃を受け止めていたミドリが強靭な前足で踏み付ける。

 ディノもそれに加わり、泥に囚われ『転倒』と『特殊束縛』の状態異常にかかるグレイファングウルフにダメージを加えていく。



「『引導渡』」


 先ほどから『隠密』で姿を消し、グレイファングウルフの集団の背後からちまちまと奇襲をかけていたテトラが姿を現し、グレイファングウルフの1体に忍刀を突き刺す。


「これで終わりかな」


 ワースは最後に残ったグレイファングウルフの頭を杖で突き、そのわずかに残ったHPを削りきった。




 大して時間をかけることなく戦闘の終わりを告げた。



「うーん、新フィールドとはいえまだここは大して強くないってことかな」

「そ-みたいだね」

「でも、この先何があるかわからない」

「テトラさんの言うとおりだね」



 ワース達は取得したドロップアイテムを確認したり、ステータスを確認し終え、目の前に広がる道なき道を見た。


 目の前にはまだ見ぬものがあるに違いない。


「進もうか」



 ワースの言葉を契機に、4人と2匹は歩き出した。






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