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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
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24話 涼風見参

 ■■■


 その男はすたっとワースとクシナダの近くへ飛び降りてきた。ワースとクシナダは思わず互いの武器を打ち合うのをやめ、その男をまじまじと凝視してしまった。


 青碧に純白のかすりの入った着物を着こなした、腰元に一振りの蒼い片刃剣を下げた男だった。碧く黒い長髪に、誰が見ても同じ感想を持つようなキリリと引き絞られた端整な風貌だった。ゲームだからこそこのようなイケメン(もうこの言葉は死語となっている)は多い。それでも着こなし身のこなしは顔と合っていて傍から見てかっこいいと感じられた。

 その男は沼地にいくつか無造作に設置されている大岩の上から静かに飛び降りてワースとクシナダへ近づいてきた。


 その男は腰に挿してある、空に広がる一面の蒼のような、どこかしらか存在感を放つ刀のような片刃剣を鞘から抜き出した。その刃はりーんと静かな音を鳴り響かせる。まるで持ち主の静かで凛とした性格を表しているような、そんな印象を与えた。


「こんなところで何をしている?」


 剣と同様の凛とした声色がワースとクシナダの耳に入る。ワースはクシナダが突然襲い掛かってきた話を伝えようとしたが、クシナダは一歩その男へ足を踏み出した。『ジャンプ』と『足』により強化された脚力を持ってクシナダは蒼い剣士との距離を一瞬にして詰めた。戦闘の対象を途中介入してきた相手に変更したようだ。クシナダは勢いのままダブルブレードを振るった。


 蒼い剣士は微動だにせずにクシナダの接近を許した。クシナダがダブルブレードを振り上げ右袈裟左袈裟に切り刻もうとする。その刹那、蒼い剣士は動いた。

 剣をクシナダに突き付け、言葉を紡ぐ。


「『アイスべリング』」


 見れば、足元に青い魔法陣が浮かび上がり、氷属性魔法を発動させていた。

 切り掛かったクシナダは一瞬のうちに氷漬けになった。


「いきなり切り掛かってくるとは」


 その蒼い剣士はそう言い捨てた。クシナダは少し凍り付いた後、効果時間が終わり氷はぱりんと音を立てて砕け散った。


「げは、はぁはぁ……」

「まったく、君はPKかい?」

「……」


 クシナダは大きく咳き込み、ダブルブレードから手を放して地面に手をついた。よっぽど今の魔法が応えたようだった。ワースは杖を軽くくるりと振り、意識を切り替えた。


「クゥッ」

「まだやるかい?」

「ウオオオオオオオオオ!」


 クシナダは地面に落ちたダブルブレードを拾い上げて、その蒼い剣士に立ち向かっていくが、如何せんワース達にHPを削られ疲労していたていたため、大した攻撃を行うことができずに氷属性魔法で蹴散らされた。


 氷の礫をぶつけられて大きく吹き飛んだクシナダは形勢不利と悟り、そのままどこかへ走り去っていった。



「何だったんだ……?」

「君、大丈夫かい?」

「あぁ、ありがとうございました」

「もしかしたら邪魔したかもしれなかったけど見ていられなかったからね」

「いえ、助かりました」

「私の名前はYu。君は?」

「俺はワースです」

「そうかい」


 Yuと名乗るその蒼い剣士はふぅとため息をついた。


「ところでさっきのあれはなんだったんだい?」

「なんとも言い難いんですよね……しいて言えばPKですかね」

「何か、恨みでも買っているのかい、君は」

「いえいえ。どうやら誰でもよかったようで」

「そうか」


 ワースはふと後ろに控えるミドリを見た。ミドリはワースが自分のことを見てくれたことに気付きにっこりと笑った。戦いは終わったと感じることができた。


「その鎧は……?」

「あぁ」


 ちょうどYuがワースが着ているどろろメイルについて言及すると効果時間が終了しさらさらと砂のように崩れ落ちていった。ワースの耳にはどろろの声が聞こえてきて、それに対して小さくありがとうと言った。


「ちょうど終わったか。これはペットの能力で作った鎧だったんだ」

「へぇ、そういうのもあるのか」

「あぁ」

「で、その後ろにいるのは君のペットなのかい」

「そうだ。ミドリ、こっちおいで」

「きゅー」


 ワースの手招きに、ミドリはワースの前にのそのそと移動してきて腕の中にすぽっと埋まった。


「これは……!」

「エメラルドタートルっていう種族なんだが……Yu」

「……」

「おーい」

「……はっ(゜д゜)!」


 Yuはミドリを見つめたまま全く動かなくなり、ワースは心配になって声をかけた。

 ようやくワースの声に気付き、Yuは再起動した。


「ミドリが何かあったのか?」

「いや、なんでもない」

「そうか」


 Yuはミドリを見て思わず見とれていたことを隠した。自身がとあるもののロールプレイをしているがために、ペットという存在に対して諦めの感情を抱いていた。Yuは、あくまでもYuというキャラはクールでなければいけないと気を引き締め直した。


「そういえば、Yuは魔法剣士タイプか? さっき魔法をバンバン使っていたが」

「あぁ、そうだ」

「へぇ、俺は初めて見たな。みんな役割に特化していて、武器と魔法両方ともメインにしている人いなかったからな。俺だって、棒術と魔法を使うけど、あくまでも魔法メインだからな」

「私は剣も魔法を使いたかったからこういう感じでやっている」



 Yuは懐から飲み物アイテムを取り出しくいっと飲み干した。

 ワースもアイテムストレージから回復ポーションを取り出して一息ついた。




「さて、君はどうしますか?」

「そうだな……どろろのこともあるし、もう帰るかな」

「そうですか、なんなら私も一緒についていって構いませんでしょうか」

「いいのか?」

「はい、どうやら見たところかなり消耗しているようですし。ここで別れて途中で力尽きられても目覚めが悪いですし」

「それは助かる。いやぁ、どろろが戦線離脱した以上ちょっと不安でね」

「どろろ、というのは?」

「あぁ、言っていなかったか。俺のもう1匹のペットだよ。種族はマッドタスだ」

「亀が好きなんですね」

「あぁ、そうだ。亀が好きでこのゲームやり始めたようなものだからな」

「ほぅ、そうなのですか」


 YUは画面を操作し、ワースへパーティ勧誘メッセージを送った。

 ワースはそれを承諾し、Okを押した。

 ワースのパーティ画面を見ると、Yuという名前が追加されていた。


「見たところ君は後衛ですから、私が前衛を務めますね」

「ミドリは盾役を務められるから、Yuは中衛でいいんじゃないか」

「それではそうしましょう。ところで『索敵』はどれくらいですか?」

「あー俺は持ってないんだ。ミドリやどろろが代わりにやってくれていたからさ」

「それでしたら私が索敵します。いいですか?」

「もちろん」


 ワースとYuは並んで歩き出した。その後ろをミドリが追いかける。



「よろしくな」

「こちらこそ」








 ■■■


 ワースとYu、そしてミドリの2人と1匹はポイズンゲートの来た道を戻っていく。聞けばYuはこのポイズンゲートにすでに何度か来たことがあり、ラフプラテウから繋がる部分の地形は頭の中に入っているとのことだった。


「いた」

「了解」


 Yuが『索敵』によって近くにいたモンスターの存在をワースへ伝えた。


 ワースは付与術(エンチャント)をYuとミドリに掛けて戦闘準備を済ませる。


「いざ参る」

「きゅ」


 Yuは待機させていた魔法を発動させながら敵との距離を詰める。


 片手剣×氷属性魔法複合スキル『フリーズブレード』

 斬り付けたものを凍りつける氷属性を付与させた剣を片手にYuは走る。


 まだこちらを感知できていなかったバクリハブへYuは剣を振るう。


「しゃぎゃああああ!」


 接近されたことでようやく気付いたバクリハブだがすぐさま斬り付けられ、そして斬り付けられた部分が凍り付き動きが緩やかになった


「『ロックストライク』」


 そこへワースの地属性魔法が的確に飛び、動きの鈍くなったバクリハブを穿つ。


 周囲にいたバクリハブ達はYuとワースを取り囲むように動くが、その時にはすでにYuが剣を振るいながら魔法を詠唱する。魔法の詠唱状態は足が動かせない状態になるが、Yuはそれを足を動かさなくとも発動できる剣のスキルで補っていた。剣を振るい斬撃を飛ばし牽制しながら魔法を放つ。


 ミドリは前面に出るYuと隣り合わせながら防御系スキルと威嚇系スキルを使いバクリハブの行動を制限していく。


 そして、あっという間にバクリハブの群れを倒した。


「思ったよりあっさりしてたな。凄いな、Yuは」

「いいや、それほどでもないよ」


 Yuは周囲の警戒をしながら鞘に剣を収める。



「さぁ、もう少しでポイズンゲートを出られる」






次回は3月28日0時の予定です。

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