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亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第1章 Begining the Game
6/114

3話 青年は亀と出会う

 ■■■


「という訳でグリーンロード、通称“スライムロード”に来ました。プレイヤーで一杯です。解説のワースさん、どうですか?」

「メイ、何を言ってるんだ?」

「……ちょっと、その返しは悲しいなって」


 辺り一帯は背丈の低い草に覆われた道。所々に現れた水色のスライムをプレイヤー達は各々の武器で倒していく。

 剣で倒す者、魔法で倒す者、様々な人達がいた。


「さーて、一狩りしますよ」

「はーい」


 ワースは素直に返事した。本当はスライムなんてほとんど興味がわかなかったが、レベルアップのため仕方ないと割り切った。

 いずれは亀と出会うため、そのための予行演習のようなものだと考えた。







 ■■■


「『サンドボール』!」


 ワースの放った砂の塊が今にもワースへ飛び掛かってこようとするスライムに当たり、スライムは悲鳴を上げながら光の粒子となって消えた。



「はぁ、こんな感じか」

「うん、いい感じだよ」


 ワースの独り言に明奈は答えた。ワースの隣にいるメイは、手に握る剣で襲い掛かってくるスライムを容易く倒していた。


「なるほどスライム相手に『サンドボール』は3発か」


 ワースは今知った情報を脳内メモに書き込んだ。


 MMOにおいて魔法は、初めに対象を設定し使う魔法の名前を口にしてようやく発動される。魔法の名前を口にしてから発動されるまでの間はプレイヤーはその場から動くことができない。足元に魔法陣が描かれ、足が地面に張り付いたかのようになる。発動されるまでの待機時間はそれぞれ魔法ごとによって設定されている。スキルの硬直時間と似ているが微妙に違っている。

 ようは、振り回せばいい武器と違い、魔法はタイミングを合わせて敵に叩き込まなければいけないということだ。


「それじゃ、どんどん狩るか」

「お兄ちゃんもだいたいわかってきたようだし、ペース上げてくよー」


 メイはワースの顔を見ながらそう言った。


「一つ聞きたいんだが、メイはこのVRMMOって初めてだろ?」

「そもそもみんな初めてだよ」

「そういうことが言いたいんじゃなくて、なんでそんな慣れるの早いんだ?」

「だってリアルの体と同じように動くじゃん。思った通りに動かせばイイだけの話だから、何の問題もなくない?」


 メイのセリフにワースは、たしか明奈は剣道部だったなと思い出した。部活の度に剣握っていればこのぐらいできてしまうのかと、ワースは驚きを覚えずにはいられなかった。


「ははは……とりあえず武器と魔法は勝手が違うと言っておくよ」

「そんなものかな。魔法だってある意味シューティングゲームみたいなものでしょ? よっと、次行くよー」


 メイは新たなスライム(えもの)を目指して剣を振り上げた。ワースも残りMPを確認しながら、手に持つ杖を握り締めた。


「なら、『棒術』でも使ってみるかな。昔取った杵柄、じゃないけどどこまでやれるかな」







 ■■■


 その後、二人はわらわらと湧くスライムを倒していった。そうこうするうちに、二人とも着々とレベルが上がり、Lv.3になったところで一息つくことにした。


「とりあえず、こんなものかな」

「はぁ、疲れたぞ……」

「なんとかレベルを2上げれたのは良かったね」

「あぁ、戦い方がわかってきたし」

「お兄ちゃん、けっこー筋良いよ」

「そうか、ありがとな。でも、メイのと比べると、まだまだだなって思うけどな」

「そりゃ、お兄ちゃんはゲーム初心者(ビギナー)なんだから仕方ないって。」


 メイはそう言いながら剣を鞘に納めた。メイは敵に飛び込んで切っては切るというダイナミックな戦い方をする。その中にガードとか回避とかそういったものが一切ない。たまにスライムだけでなく、突進攻撃を使うワームに対しても、ほとんど同じやり方で攻撃していく。本人曰く、敵の動きを予測できれば序盤の敵なぞに攻撃を貰うことはないということで、お金を溜めたら盾を買って攻撃の幅を増やしたいと思っているのだった。


「それにしてもあの『棒術』をあそこまでものにしているお兄ちゃんってどうなの?」


 メイは先ほどから魔法を使わず杖を華麗に操りながら攻撃を仕掛けた兄のことを思い出しながらそう呟いた。

 『棒術』とはその名の通り棒を使うメリットで、刃物のついていない細長い棒状のものがメリットの効果対象となる。

 まず『棒術』をセットしているだけで、通常の棒による攻撃の威力が増す効果が現れる。しかしこの上昇率は武器系メリットの中で最下位だ。範囲が緩いため仕方ないかもしれない。『棒術』のスキルは棒の攻撃力を強化するものが多く、またガードする系統のスキルもある。しかしそのバリエーションは他の武器メリットに比べて少ない。

 とはいえども、魔法主体の戦闘スタイルならば『棒術』でも十分に効果を発揮できる。

 『棒術』はエフェクトが地味な分消費するMPが少ない。そのため魔法と並行して使うには使い勝手が良い。また、ほとんどの魔法行使の助けとなる『杖』が『棒術』の対象に入っているため、魔法使い系との相性もいい。もちろん、『棒術』はあくまで牽制の意味合いでしか使いようがなく、きちんとダメージを与えるにはSTRがそれなりに必要だったりピンポイントに攻撃を打てる技術が必要だっり難点も抱えるのだった。メリット枠も限られていることから、基本的に接近戦を考慮する必要のあるソロプレーヤーぐらいにしか『棒術』は使われないのだった。


 ワースは自分が社交的でないことを知っているし、いつまでも妹の世話になるわけにいかないことをわきまえていた。だからこそ『棒術』を取った。


 ワースは『棒術』の使い心地を試す。

 最初から使えるスキル『突き』は、目の前に突きを繰り出す攻撃。それは手慣れた手つきでモップを操る熟練の清掃員のよう。初め、ワースは手元で勝手に動くその速さに翻弄されたものの、『突き』を使った数が二桁に達する頃にはすでにコツを掴みポイントを狙って的確に当てることが出来た。




「そろそろお昼だし、一回ログアウトしない?」

「あぁ、そうだな。それがいい」

「それでそれで、今日はお昼何なの?」


 ワースとメイの両親は出張でしばらく家にいないため、この夏休みの間は互いに料理を担当することになった。今日はワースの当番の日だった。メイはそのことを尋ねていた。


「朝作ったカレーがあるから、お昼はそれにするつもりだ」

「そっかーそれじゃ街に戻ろ」


 メイは来るときと同じように少し小走りで始まりの街へ駆けていく。それをワースは嘆息しながら追いかけた。街に戻れば、ログアウトするための宿屋がある。宿屋は安全にログアウトするためのもので、ログアウト中に自動回復してくれることもあり、何か遠出している時以外はここを利用する他なかった。初めてのログアウトということもあり、ワースは操作に手間取ったが無事に二人ともログアウトに成功した。







 ■■■


 ログアウトした後、二人は頭から『ドリームイン』を外し昼ご飯を食べた。作り置きしておいたカレーを温め、ちょうどいいところで皿にご飯を盛り付けカレールーをそろそろとかけ、横に買っておいたコロッケを添えた。


 二人だけの食卓だが、それはあまり珍しいことでもなんでもなく、いつも通り談笑を交わした。もちろん話す内容は『Merit and Monster Online』だった。


 昼食後、食器を二人で協力して洗い、そうしてから再びログインした。




「お兄ちゃん、私は友達と待ち合わせることになったんだけど、一緒に行く?」

「いや、それだと悪いから俺は俺で行くよ」

「そっか、別に悪くないのに……」

「いつまでたっても妹に頼っているようじゃ駄目人間だからな。いろいろ行きたいところあるし」

「うん。でも、なんかあったら連絡ちょうだいね」

「あぁ、わかった」


「じゃ、時間だからもう行くね」

「行ってらっしゃい」


 見送るワースと名残惜しげなメイ。メイは迷いを断ち切るようにして待ち合わせ場所まで走って行った。たったったという足音がワースの耳に残った。


「さて、少しレベル上げでもするか」


 ワースはグリーンロードへ向かった。相棒となる杖を片手に握り締め。







 ■■■


 レベルが上がり新たなスキルが使えるようになった『土属性魔法』と『棒術』を使い、ワースはスライムとワームを次々と狩っていた。

 ワームは見た目芋虫のモンスターで、スライム同様にいわゆる序盤の敵だった。思ったより俊敏なスライムと比べ、鈍重であるが糸を吐くワーム。これらがグリーンロードの主なモンスターだった。


 そして、空が夕日に変わろうとする時、ワースのレベルが5に上がった。




「よく頑張ったよな……俺。もうくたくただよ」


 そんなことを呟いたワースは少し地面にへたり込んだ。HPMPはポーションで回復しているためまだまだあるが、目には見えない疲労がたまりワースは疲れていた。


 ふとワースが顔をあげると、視線の先に今まで見たことのないモンスターがいた。


 ユニークモンスター。稀に現れるモンスターのことで、普段出てくるモンスターとは一線を画す何かを持っているモンスターだ。格段に強かったり、取得経験値が多かったり、はたまた特殊な挙動をするのがユニークモンスターだ。


 ワースの目の前に現れたのはグリーンロードのユニークモンスター、グリーンタートルという緑色の大きさは人間の子供くらいの亀だ。


 そのグリーンタートルはのそのそと亀が歩いてくるには若干速いくらいのスピードで迫ってきた。

 ワースでなければ近づいてくる前に迷わず魔法なりをぶつけたことだろう。亀のモンスターはゲームによって扱いは変わるものの基本的に物理攻撃に耐性があり、魔法攻撃に弱い。近くにいると噛み付き攻撃や突進してくるため、離れて攻撃するか、攻撃して一旦離れるを繰り返すヒットアンドアウェイ戦法が有効と考えられる。実際にこのグリーンタートルもその慣例に沿って魔法攻撃に弱かった訳だが―――





 ワースは目の前のグリーンタートルに杖を向けなかった。


「かっ、亀だあああ!」


 奇声を上げてグリーンタートルに抱き付いたワース。

 そう、ワースはこのMMOで亀に会いたかったのだ。何より亀が好きなワースのことだ。ただいまワースの中には戦闘中ということは忘れ去られ目の前のグリーンタートルをぺたぺたと撫でその体を抱きしめることで一杯だった。


「こんなおっきな亀を触れるなんて夢のようだなぁ、あはは。わーいVRゲームサイコーリアルじゃなかなかできない体験だよーうわー毎日でもこうしてたいわー」


 当然というか何と言うか、ワースはグリーンタートルに何度も噛み付かれた。


「ぐはっ」


 ワースのHPががくんがくんと削られた。そして8割近くあったHPが3割を下回っていた。真価は鈍い痛みを感じていた。その場で少し休みたくなるような普段だとなかなか味わわない痛みだった。


「いてて……こらっ、そんなことしたらダメだぞ」


 それでもワースはめげずに立ち上がった。


「まぁまぁ落ち着けよ。俺はお前に危害を加えるつもりはないんだ」


 ワースは自分のHPを見ることなくグリーンタートルを落ち着かせようとした。本来なら相手はただのモンスターなのだから静止の声を聞かずに襲い掛かってくるはずだった。


 しかし、何がトリガーとなったのか、ワースの手が小さく光り、グリーンタートルは攻撃の手を止め落ち着いた。


「よしよしいい子だ」


 そう言いながらワースはおとなしくなったグリーンタートルの頭をぽんぽんと撫でた。





 ワースの前にウインドウが現れた。


 『ワースはグリーンタートルを『テイム』することに成功しました。グリーンタートルはワースのペットになりパーティに入ります。グリーンタートルに名前をつけますか? YES/NO』


 ワースは何が起きたのかわからないままYESを押し、“ミドリ”と名付けた。


 するとグリーンタートルの頭にミドリと表示され、きょとんとした表情でミドリはワースを見つめていた。


「まじか……」


 ワースは思わぬことに呆然としながら、メイにメールを送った。



 To:メイ

 Sub:なぁ聞いてくれよ

 今グリーンタートルがペットになったんだけど、どうしたらいい?



「ミドリ」


 ワースはメールを打ち終わりミドリに声をかけた。ミドリはワースの呼び声に反応して顔を向けてくる。ミドリは自分の強靭な脚を、けしてワースを踏みつぶさないようにたしたしすりつける。


「かわえぇ……」


 ワースは再びミドリを撫でる。ミドリは気持ち良さそうにしていた。


「VRゲーム始めてよかった……」






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