表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀が好きすぎる魔法使い  作者: ひかるこうら
第2章 Going up Evolution Stage
58/114

22話 狂気乱舞

 ■■■


「ムゥ」

「疾っ!」


 いきなり襲いかかってきた男:クシナダとワースは互いの獲物を振るいながら凌ぎを削り合った。


 ワースが持つ杖は、木のごつごつとしたいかにも魔法使い然とした杖をベースに、レイニードラゴンの翡翠色の鱗や甲殻で周りを覆い、先端にマッドゴーレムのレアドロップ『泥人形の核玉』を付けた『ゴーレムコアオークロッド(レイニードラゴンカスタム) マリンカスタムver.5.01』という名の杖だ。この杖の追加効果は地属性ならびに大地属性を強化し、付与術に対しても強化する。まさにワースのために作られた特注品だった。マリンにずっと強化してもらっている杖で、いくつか杖を持っているが、ワースはこれが一番扱いやすいと感じていた。

 ワースの場合、杖は魔法の補助道具として使う他に、『棒術』を発動させる武器として扱っていた。ワースの職業は『付与術師』であるがために、付与術を発動させながらの棒術や、魔法詠唱時間中の移動できない間の自衛手段として、杖はワースにとって重要な武器だった。レベルアップの度にINTに振る傍らSTRにもそれなりに振っていたため、棒術の威力も他の武器職には及ばないもののそれなりのダメージを与えることはできるのだった。



 一方クシナダが持つ剣は、普通の片手剣よりも幅広な両刃の片手剣だった。銀色の刃がギラリと輝き、柄には赤と青の2種類のラインが入り、持ち手は2つ組み合わせた形をしていた。この片手剣はただの片手剣ではなかった。分類名は『ダブルブレード』。赤いラインの入る主剣に青いラインの副剣が収納され、合体したまま片手剣を振るうことも、分離させて双剣として扱うこともできる剣だ。扱うには『片手剣』『双剣』の両方のメリットを持っている必要があるが、元々『双剣』は『片手剣』の派生であるため取り立てて条件があるわけではない。このダブルブレードは他の武器と比べ攻撃力と耐久値の最大値が低いという特性を持っているが、それを補えるほどのスキルの多さ・トリッキーな攻撃のしやすさ・戦法の多さがある。初めから両方の手に剣を持つ双剣とは違い、合体・分離を使い分けることによって相手へ攻撃を読ませないようにすることが可能となる。

 クシナダのダブルブレードの名は『カウディスブレイブ』。臆病さと勇気さという相反するものを兼ね備えたダブルブレードだった。誰か鍛冶職プレーヤーの手で作られたものではなく、突発的に発生したイベントクエストで手に入れられたいわゆる“魔剣”だった。クシナダは初めこの剣を見た時、驚き喜んだ。まさに自分が求めていた剣だと。今まで剣と呼べるものならどんなものでも使ってきた。リアルと違い、この世界なら自分に合った武器が手に入ると思っていた。しかし、片手剣も双剣では自分にとって軽く感じ、大剣や斧では重すぎると感じた。こう、びびっと感じるような武器に出会えていなかった。それでもクシナダは剣が好きだったから片手剣・双剣を使ってきた。そして、この『カウディスブレイブ』と出会い、クシナダはまさしく運命だと感じた。ゲームだというのに今までにないくらいしっくりくる感触がクシナダをさらに喜ばせる。






「ラアアアア!」

「ぐぅっ」


 クシナダの右袈裟がけに振るうダブルブレード『カウディスブレイブ』がワースの体を捉え、両断しようとばかりに豪速で振り下ろされた。片手剣スキル『ブロウスラッシュ』。初動はあまり速くないものの風を纏う斬撃であるがために当たり範囲が大きい。ワースは逃げられないと感じ、高速で自身に付与術(エンチャント)を掛けながら杖『ゴーレムコアオークロッド(レイニードラゴンカスタム) マリンカスタムver.5.01』で防ごうとする。しかし、『武器防御』を取っていないばかりか攻撃力に差があるワースではダブルブレードの一撃を受け切れずに後ろに吹き飛ばされた。

 何もなしに受ければ一撃でHPを全損を免れなかったが、ワースが咄嗟に使った『緊急防御上昇』という付与術(エンチャント)により、クシナダの攻撃を半減させてなんとか生き残った。


 吹き飛ばされたワースを、ミドリが甲羅で優しく受け止め、その間隙を縫ってどろろはクシナダへ飛び出した。


 どろろは牙をむき出しにし、クシナダに噛み付こうとした。クシナダは突然の攻撃に驚いたものの、条件反射によりダブルブレードを振り下ろした状態から2本の剣を分離させ、副剣を抜き出しどろろへ斬り付けた。スキルも何も発動していない、ただの通常攻撃だったが、どろろの牙に当たるや否やオレンジ色の激しい光を放ってどろろの牙をへし折った。


「ぎゃっ!」


 どろろは悲鳴を上げながらもクシナダへ喰らい付く。鈍重な体をクシナダに押し乗せ、クシナダを押し倒すことに成功した。どろろは自らのHPが大幅に削られているのを感じながら、ただマスターであるワースのことを考えて力を込めるのだった。クシナダはどろろの様子に軽く驚き、押し倒せれたままうまく起き上がることができないでいた。




 ワースはミドリに受け止められながらアイテムストレージから回復ポーションを飲み干した。それから流れるようにして付与術(エンチャント)の発動を行い、どろろを見た。ちょうどどろが斬り付けられるのが見えた。

 クシナダの攻撃のエフェクトとどろろのHPから今のがクリティカルだったことがわかった。クリティカルとはまれに発生するダメージ倍加効果だ。武器攻撃を行った時に、0.1パーセントにも満たない確率で発生する。発動した時の攻撃が倍になり、掛かっている能力変化を無視することができる。

 ワースは歯噛みしながら、付与術(エンチャント)がちゃんと掛かるのを待った。

 次に何を行うか頭の中で必死に考えながら。


 ミドリはワースの体を受け止めた後、どろろが攻撃を喰らったのを見た。

 ミドリはすぐに脅威であるクシナダへ駆け出した。


「きゅー!」


 ミドリはオレンジの光を放ちながらクシナダクシナダへ突っ込む。

 どろろはミドリが来るのを見て、タイミングを合わせて飛び退いた。そこへミドリが突進攻撃をぶちかました。


「ムゥウ!」


 クシナダは突進してくるミドリの姿を認め、体が倒れたままの体勢ながらダブルブレードを交差させて衝撃に備えた。

 どしん、と音と立ててミドリはクシナダを轢いた。しかし、クシナダは轢かれながらも剣で衝撃を抑え、体を横に転がしてダメージを負いながらも体制を立て直した。その動きはまるでサーカスを見ているかのようだった。人間離れした動きがワースの目に異様に映った。






「『攻撃増加(パワーアップ)』。なんで、お前は俺たちに攻撃してきたんだ?」


 ワースは杖をひゅんひゅんと振り回しながら、クシナダに問い掛けた。


「ソレハ、戦イヲ俺が求メテイルカラダ」


「それだったら、モンスター相手でもいいじゃないか」


「俺ハ、剣ト剣デ鬩ギ合ウ様ナ戦イガシタイ」


「……まぁ、いいや。とにかくお前がバトルジャンキーだってことがわかった」


「フン、ソレナラ戦イヲ再開シヨウジャナイカ」


「狂っていやがる。まったく」


 ワースはそこで言葉を区切った。


「ふざけんな、といいたい」


 ワースは杖をクシナダに向けて、秘かに詠唱待機させていた魔法を放つ。



「喰らいやがれ! 『マテリアルインパクト』!」





 巨大な岩の塊がワースの目の前で生成され、クシナダに向けて全てを巻き込む災厄が放たれた。







次回は3月14日0時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ