20話 荒野大地
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レインルークから東に向かったところに、ほとんど植物は生えておらず、まさに不毛の大地とも呼べる荒れ果てた台地があった。
その場所の名前は“ラフプラテウ”。
まだ攻略されつくしていない未開の地と言っても差し支えのないだろう。
そこにワースはミドリとどろろを引き連れて前へ前へ突き進んでいた。
「ふぅ……」
ワースは手ごろな岩を見つけてその上に座り込んだ。肉体的な疲労はないが、幾度ものモンスターとの戦闘により精神はめりめりとすり減っていた。このラフプラテウでは、すばしっこい動きを見せる鼠や上空からヒット&ウェイしてくる鷲やとぐろを巻きながら敵が来るのをじっと待つ蛇とかが登場していた。
ワースはミドリやどろろと連携して難なくモンスターたちを倒していった。
「なぁ、ミドリ」
ワースはアイテム欄を見ながらミドリに話しかけた。ミドリは周囲の警戒を行いながらワースの方を見る。
「久しぶりだな、こうしてゆっくりできるのは」
「きゅー」
そう、ワースはミドリたちの他に誰かと一緒にいるのではなかった。
特に最近、何かにつけて誰かと行動することがほとんどだったワースにとって、一人でいるのは久しぶりだった。
今回はノアも、メイも、レオナルドもいない。ワースとミドリたちの邪魔をする者はいなかった。
「よしよし」
「きゅきゅー」
すり寄ってきたミドリをワースはぽんぽんと撫でる。硬質な表皮のごつごつとした感触に、その内側に感じられる柔らかな肉の厚みがワースの手に独特な感じを与えた。押せば押すほど中のしっかりとした肉の感触がなんともいえない気持ちよさを生み出していた。
ミドリはワースに撫でられるたびに気持ちよさそうな声を上げる。体をぶるぶる震わせて快感に悶えていた。それは単なる刺激に対する反応だけではなく、主人である“ワース”に構ってもらえるということによる喜びの表れでもあった。
「ぎゃお……」
「あーどろろもな、ほらおいで」
「ぎゃおぎゃ!」
羨ましそうにミドリを見ていたどろろにワースは手を広げて手招きする。それに対して、どろろは嬉しそうにワースへ近づいていき飛び付いた。どろろの体重はかなり重く、ワースではまず支えきれないのだが、そこはどろろが考えてなんとか支えられるように飛び付いていた。
「はいはい、よーしよし」
「ぎゃ~」
「(ムスー」
ワースがどろろと仲良くやっているのをミドリは面白くなさそうに見ていた。少しだけなら、とミドリは先輩風を吹かせて待つが、少しして待ちきれなくなったようで足をじたばたさせながらワースに自分も構えと訴えた。
「わかったって、ほらミドリ」
「きゅ~」
「よーし、よーし」
「ぅ~」
ミドリは心底幸せそうな表情を浮かべていた。
休憩を十分に取ったところで、ワースはおもむろに立ち上がりのびをした。そして服をぱんぱんと払って、再び歩き始めた。
目指すは、新たなフィールドへ。
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「ミドリ!」
「きゅー!」
ワースの掛け声に従って、ミドリはスキルを発動させる。
『タックル』
その名の通り突進してぶつかるスキル。このスキルは相手のVITより自分のVITが高い場合、高い分だけノックバック効果を発生させやすくなるという効果がついている。
ミドリは飛び掛かってきたデザートスネークというパインやイチゴを頭に生やした蛇に向かって『タックル』を当てた。ぶつかったデザートスネークはミドリに轢かれるようにして後方へ吹き飛んでいった。
ワースはその様子をミドリの後ろで見ながら魔法を発動させた。
土属性魔法『エッジストーン』
尖った岩を地中から生み出し、それを中空まで打ち上げる魔法。打ち上げる場所は調整が可能で、柔らかい敵であれば地上から空中の敵まで効果を発揮する魔法だ。地味ながらそこそこ使える魔法なのだ。
『エッジストーン』で打ち上げられた尖岩がちょうど急降下して攻撃を仕掛けてきた、これまた頭にオレンジやキウイフルーツを頭に生やしたデザートイーグルにぶち当たった。デザートイーグルの柔らかいお腹に尖岩が刺さり、デザートイーグルの表情は苦悶に満ちたものになった。
「どろろ! 泥で攻撃!」
「ぎゃお、がー!」
ワースの指令にどろろは口を膨らませて泥を吐き出す。『マッドスプリンク』という名前があるが、ワースは泥攻撃や泥吐きだの適当な名前で呼んでいる。どろろも別にそれでいいらしく、気にせずに泥を吐き出す。射的距離は思ったよりも長いが、着弾まで時間がかかることと軌道が山なりだということが難点だ。それでも当てようと思わなければ有用で、どろろの適当な方向へ吐き出した泥の塊が、ちょこまかと走り回る頭にピンクグレープフルーツを被ったデザートラット達の行動を制限した。運よく走り回っていた1匹に当たり、行動不能へ陥らせた。
「よし、とりゃああ!」
ワースは接近してきたデザートラット1匹に杖で迎撃する。
杖スキル『Bスマッシュ』
一瞬の溜めを行って撃ちだす突き攻撃は、当たった敵を吹き飛ばす。かすっただけでも吹き飛ばすことができる。とにかく吹き飛ばすのだ。
魔法を使用をした直後でも使えるこのスキルは、ダメージを与えるよりも吹き飛ばす方が優先されていて、喰らったデザートラットは弾丸のように吹き飛んでいった。
「『魔力循環』『サンドボール』」
メリット『魔法運用』のレベルを上げていくと出現する『魔力循環』というスキルは、レベルの低いうちから使える魔法の発動を高速化するスキルだ。
ワースの杖からいくつもの『サンドボール』が飛び出て、動きが鈍くなったデザートスネーク・デザートイーグル・デザートラット達に襲い掛かった。
「きゅー」
『サンドボール』の嵐から逃れようとするデザートイーグルをミドリはスキル『シールドプリズン』を使って押し戻した。デザートイーグルは目の前に現れた翡翠色の壁に阻まれてうまく飛べないところにいくつもの『サンドボール』を喰らい、恨めしそうな表情を浮かべながら光となって消えた。
デザートスネークもしばらくは耐えたが、途中で力尽きた。
デザートラットはちょこまかと動き回り『サンドボール』をいくつか躱して見せたが、元々体力は少ないため何度か被弾するとあっけなく倒れた。
「ふぅ、お疲れ」
「きゅーい」
「がおがお」
ワースは目の前の敵をすべて倒したことを確認した。
「もうちょっとなんだよな……たぶん」
ワースはマップを広げながら、前へ前へ足を進めた。
その隣にミドリとどろろは付き従う従者のようにぴっちりと付いて歩いた。
そして。
「ここが、ポイズンゲート……!」
ついに新たなフィールド:ポイズンゲートへたどり着いた。ラフプラテウを超えた先にある、いたるところに毒沼があり、出現するモンスターも毒を持っている毒の大地:ポイズンゲート。まだ攻略したプレーヤーはいないという腕に覚えのあるプレーヤーにとってホットな場所へワースはたどり着いた。
禍々しいほどの毒の煙がワースを待ち構えていた。
来週こそはちゃんと時間通りに投稿したいと思います。うぅー時間がないよぉ……
次回は2月28日0時です。
 




