17話 遺跡竜戦
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ワース達がレイニードラゴン討伐に乗り出している頃。
こちらでも竜種到来イベントに参加するプレーヤー達がいた。
「ここが『忘れられた塔』ね」
「うぅーなんかお化け出てきそう……」
「大丈夫だよ、所詮ゲームなんだしお化けはいないよ」
「それでも何かありそうな感じするね」
「……ひゅーどろどろ」
『五色の乙女』のメンバーはユリレシア巨大古墳群内部にある『忘れられた塔』へ来ていた。『忘れられた塔』はユリレシア巨大古墳群の中でも中央からかなり外れたところに位置し、なんと古墳の中にがらんどうな空間がありそこにぽつんと塔があるのだった。この『忘れられた塔』の最上階に今回のイベントの要であるテュムラスドラゴンがいる。それを倒すべく『五色の乙女』は『忘れられた塔』の前に来た。
「さて、どんな風になっているんだろう」
「気を付けていきましょう」
「はーい」
銀・ピンク・黄・青・緑の少女たちは和気藹々と『忘れられた塔』へ入っていった。
『忘れられた塔』内部。
砂まみれの赤茶けた煉瓦が積み上げられてできた塔の中は蝋燭の仄かな明かりに照らされ幽玄な雰囲気を醸し出していた。生物が存在せず辺りが静まり返る中、メイ達の歩く音と遠くから聞こえる何かの足音が耳に響いた。
「なんか静かだね」
「落ち着かないわ」
「ここってどういう構造してるんだろ……って螺旋階段がある!」
「それを登れば、いいのね」
「さーて、行くぞ!」
塔の中は大きな螺旋階段がぐるりと塔の内周を描いており、その螺旋階段は上へ上へ続いており、それを登っていくことによって最上階へ向かえるようになっていた。5人はその螺旋階段へ向かい、永遠と伸びるように見える階段を登り始めた。
「む、向こうから5体ほど来るみたいだよ」
「わかったわ、準備はいい?」
「ちょっと待って……うん、いいよ」
「『速度上昇』これで、いい?」
「ナゴミちゃん、ありがとー」
「ランラン、どんな敵かわかる?」
「んとね、人型のモンスターだね。……おおっと、名前が出たよ。『クレイシャドゥナイト』と『クレイシャドゥシーフ』だね」
「ナイトとシーフ……」
「どんな強さかな」
5人達が前へ進んでいくと、蝋燭の明かりに照らされて敵の姿が露わになる。シャドゥと言いながらもどうみても埴輪にしか見えなかった。
「さぁ、かかってこい!」
メイはそう言いながら盾を片手に敵の集団へ突っ込んだ。
3分後。
「いやー大したことなかったね」
「さすがにここは弱めなんじゃない?」
「まだ登り始めだもんね」
「上に行けば強くなるかもね」
「慎重に、かつ大胆に」
あっさりとクレイシャドゥ達を倒し、5人は上を目指して進んだ。
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途中何度もクレイシャドゥとの戦闘を繰り返し、やがて塔の最上階へたどり着いた。
「おおっ、ここが最上階……」
古墳の中に塔があるので最上階と言っても外に出るわけではなく、ぽっかりと空いた空間がそこにあり、周りには盛大に篝火が炊かれ視界が確保されていた。
「この先には……」
「ドラゴンがいるという訳だね」
「わぁー 楽しみだわー」
「わくわく、どきどき」
5人はどんと存在感を放つ大きな扉を押して、中へ進んだ。
『来たか、挑戦者よ』
そこには黄橡色をした大蛇がとぐろを巻いてメイ達の方へ首をもたげていた。その体は頑丈そうな鱗に覆われ、篝火に照らされ黄橡色をした鱗が独特の輝きを放っていた。
『我の名はテュムラスドラゴン。この地を我の領域と定め、挑戦者を待ち受けていた』
「ドラゴンなのに翼がないのか……」
「そんなに落ち込まないの、カリン」
「いや、だってドラゴンっていったら蝙蝠のような翼があるのが基本だろ!?」
「たしかに西洋のドラゴンはそうだけど、東洋の竜には翼はないよ」
「そうかもしれないけど、あれは竜というよりも蛇にしか見えないぞ」
「蛇www」
「ぷぷぷー」
「こら、もっと緊張感を持ちなさいよ、まったく」
『……ここにいる限り翼はいらないからな。期待させたようですまない』
なぜかカリンに対して謝るテュムラスドラゴンの姿があった。
『さて、戦おうではないか。己の力を存分に奮って』
テュムラスドラゴンの言葉にメイ達は武器を掲げた。
「うん、それじゃあ、みんな。行くよ!」
「「「「おおっ!」」」」
画して、メイ達『五色の乙女』とテュムラスドラゴンとの戦いが始まった。
『うおおおおおおおおおお!』
戦いの先陣を切ったのはテュムラスドラゴンだった。
テュムラスドラゴンは大きく口を開け、そこに黒い靄のようなものが集まってきた。
「ドラゴンブレス?」
「やばいよ、それだと……」
「私に任せて!」
メイは盾を掲げスキルを発動させる。
「最初から飛ばしていくよ! 『リミットオーバーシールド改』!」
メイは防御効果は絶大だがクールタイムが12時間もあるスキルを惜しみなく使った。このスキルは使用時に防御を12倍まで引き上げ、魔法攻撃もVIT換算にさせる防御系スキルにおいて追随を許さないスキルだ。
他のメンバーはみなメイの後ろに隠れた。
『があああああああああ!』
テュムラスドラゴンの口から猛烈な砂嵐を伴ったブレスが吐き出された。そのブレスは火炎ではなく、砂嵐をぎゅっと凝縮したようなもので、直撃すればひとたまりもない代物だった。
「くぅ、ぅ」
メイは猛烈なドラゴンブレスの勢いに体が持っていかれそうになるのを必死に耐えた。
盾越しであるが、その攻撃力をメイは身をもって知った。
(これじゃあ、盾職がいないパーティは一発でダメになりそうだね)
ちなみにこの開幕ドラゴンブレスはパーティレベルの合計が一定以上でないと使われない。あくまでこの攻撃はある程度高レベルプレーヤーにしか撃たれないため、ちゃんとゲームバランスが調整されている。
「はぁ、終わったね」
「お疲れ、メイ」
「いやー危なかったね」
「メイ、ナイス判断よ」
「とりあえず、ドラゴンブレス撃って、相手が休んでいる間にこっちの攻撃」
カリンとランランが真っ先にテュムラスドラゴンへ接近し、その後ろをメイとアジサイとナゴミが続いた。
戦いはまだ始まったばかりだ。
1話で終わらすつもりが少し伸びます。
次回は2月7日0時更新です。
 




